???、死を覚悟する
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アルモニア樹海
それは辺境都市エルドラの近くに昔からある樹海であり、エルドラに住む冒険者にとっては馴染みのある狩場であり、エルドラの市民にとっては生命力に溢れた樹海の土地による作物の栽培と日々の生活の糧を得る上でも大事な生命線でもある。
そんなアルモニア樹海の中を一人の人影が樹々をかき分け、辺りを注意深く見渡しながら何かを探すように進んでいた。
「・・・うーん・・痕跡すら見つからないですね。いつもだったらすぐに見つかるのに・・・・」
そう呟く人影は全身をふわっふわの毛で覆われていた。その中で一際目に映るのはその頭には三角の耳そして腰から生えているフワフワの尻尾。そしてこれでもかと主張するかのように大きい胸。犬を二足歩行させ人に近づけたような姿をしたその人影はエルドラに住まう種族『コボルト』の女性冒険者である。
そんなコボルトの冒険者はしきりに辺りを見渡しその鼻をヒクヒクとさせたかと思うと次に耳と尻尾を「へにゃん」とさせながら残念そうな顔をさせた。
「ここも外れですか・・・・・・もう!どこ行ったのかな私のフォレストグリズリー!!」
残念そうな顔から一転イラついた顔をするコボルトの冒険者が探している獲物の名前を叫ぶ。
コボルトの冒険者が探している『フォレストグリズリー』とはアルモニア樹海の他、多くの山や森、木々の多い場所に生息する深緑色の大型のクマであり比較的ポピュラーな動物である。
しかしこの『フォレストグリズリー』はモンスターではないとはいえ十分な猛獣であり、一般人であれば見つけた瞬間気づかれないように逃げるのが得策といわれ、冒険者の中でもこの大型のクマを狩れることが一人前かどうかの判断になると言われる程の強さを持った動物である。
そんな『フォレストグリズリー』を探すコボルトの冒険者は、焦る気持ちを押さえつけ慎重に周りを見渡しながらグリズリーの痕跡がないかを確認し樹海の中を歩き続ける。
すると暫くしてコボルトの冒険者が何かを見つけ早足である木へと駆け寄る
「これは・・・・フォレストグリズリーの爪痕?!! しかもまだ新しい! なら近くに!!」
そう静かに叫びコボルトの冒険者は「バッ!」と地面に四つん這いでしゃがみ込むとしきりに辺りの匂いを嗅ぐ。そして
「あっちか!!」
そう叫び匂いのする方向に走っていった。
樹々を抜けること数分後
「見つけた」
樹々をかき分け走るコボルトの冒険者は暫くして水の音がする開けた場所、樹海にある浅瀬の大河が悠々と流れるこの場所で近くの木の枝に乗り身を隠しながらお目当のものを見つけ静かにそう呟く。
彼女のその視線の先には深緑色の毛皮を纏った巨大なクマ、フォレストグリズリーが大河の端で静かに河の水を飲んでいた。
そんなフォレストグリズリーにコボルトの冒険者は木の上でゆっくりと腰のナイフを抜き取りながら未だ呑気に水を飲み続けているフォレストグリズリーの急所に狙いを定め、その時が来るまで待ち続ける。
そしてフォレストグリズリーが水を飲むのをやめ、顔を上げ固まった体を伸ばそうとしたその瞬間コボルトの冒険者はグリズリーを仕留めるため駆け出す・・・・はずだった
“ーーーーーー・・・・・”
彼女の高聴覚の耳に重苦しい音がきこえ、大河近くに溜まっていた水溜りを見れば薄らと波紋が出来ていた。すると今度はその波紋が等間隔に、そして段々と早く短くなってくると同時に重苦しい音も段々とはっきりと聞こえてくるようになる
“ーーーーーーー・・・・・”
“ーーーーーーン・・・・・”
“ーーーーーーウン・・・・・”
“ーーーーーーズウン・・・・”
“ーーーーーズウン・・・・”
“ーーーーズウン!・・・・”
“ーーーズウン!!・・・・”
“ーーズウン!!!・・・・”
“ーズウン!!!!・・・・”
“ズウン!!!!!”
ここまで来るとその重苦しい音は何かの足音でありそれは段々と速くなってこっちに向かってきていることがわかった。コボルトの冒険者は手に持ったナイフを今一度握り直し様子を見るためもう一度生茂る木の中に隠れる。
彼女が狙っていたフォレストグリズリーがここに迫る音に気づいたのか逃げるように大河の川を横断しようと駆け出した次の瞬間
“ズオオオオオオン!!!”
「goaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
突如重苦しい音が一瞬の浮遊音をさせたかと思うと樹々の中を突き抜けるように飛び出してきた巨大な何かがその顎を開き逃げようとしたフォレストグリズリーの胴体を挟み込み持ち上げる。
「ぐうおおおおおお!!、ぐおおおおお!!」
胴体を挟まれ持ち上げられたフォレストグリズリーはどうにか逃げようともがくがその手足は空を切りただジタバタとしているだけであった。
そんなフォレストグリズリーを挟む顎門が少し閉じたかと思うとグリズリーが「グアああ!!」と一つ大きな声を上げ次の瞬間動かなくなる。動かなくなったフォレストグリズリーに興味が無くなったのかその巨大な何かは咥えていたフォレストグリズリーを「ブンッ!!」と大河の真ん中に放り投げる。放り投げられたフォレストグリズリーの巨体は大河の真ん中で水柱を上げるとその周りを血で赤く染めあげ始めた。
「なんですか・・あれは」
木の中で身を隠しながら戦慄の表情を浮かべるコボルトの冒険者。フォレストグリズリーをまるで虫のように簡単に倒してしまった目の前の巨大な何かに彼女は自分では勝てないと悟り素早く逃げようと動くが
“ギロリ!!”
「っつ!!しまった!!」
動いた瞬間目の前の巨大な何かがこちらを向き彼女と目が合うするとその何かは息を吸い込み
「goaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
まるで爆発でも起こしたかのような大音量の咆哮を放ってきた。
「きゃああああああ?!!!」
そのあまりの威力にコボルトの冒険者は潜んでいた木の中から吹き飛ばされ、離れた位置にある地面へとうまく受け身をとりながら着地した。
すぐに彼女は体制を立て直し顔をあげるとそこにはこちらに向かって樹々を薙ぎ倒しながら突き進む巨大な何かが映る
「っつ!!・・“ブースト”!!」
コボルトの冒険者は身体強化の魔法を唱えると目と鼻の先まで迫った巨大な何かから間一髪避けきりカウンターで手に持ったナイフをその体に突き刺すが
‘ガキン!!’
「っ!・・つう!! かっ・・・た!」
そのナイフは逆に弾き返され彼女の体は宙に浮く。すると次の瞬間
‘ブウン!!’
「しまっ!! ガッっっっっ?!!!」
その巨大何かが体を思いっきり半回転させ、その太く強靭な尻尾にて彼女の華奢な体を打ち払った。コボルトの体が他より頑丈とはいえ、体の重さは平均的な女性よりも少し重い程度。その軽い体をその何倍もある太く重い尻尾で打てば必然的に彼女の体は物凄い勢いで吹き飛び、その線状にある障害物に当たり止まる。
‘メキメキキ!! ドオン!!!’
彼女がぶつかった太い樹木が音を立てて折れる。その木の根本ではコボルトの冒険者が飛びそうな意識をなんとか繋ぎ迫る巨大な何かを霞む目でなんとか睨みつける。
そんな巨大な何かは数歩彼女に近くと何故かそこで止まった。
「gurururururururururu・・・・」
警戒するような声を上げるその巨大な何かの視線は彼女の背後に向けられていた。
彼女はなんとか最後の力を引き絞りその背後に目を向けるとそこには黒いマントを羽織り笠を被った青年が立っていた。
何故こんなところに人が?彼女はそんな疑問を頭の端に避け最後の力を振り絞りその青年位向かって掠れた声で叫ぶ。
「逃・・・げ・・・て・・・」
その一言ののちに彼女は死を覚悟しながらその意識は落とした。
落ちる意識の中「逃げろ」と忠告した青年が何か言っていたように聞こえたがおそらく空耳だろうと思い彼女は忘れようとした。何故かと言うとそれは
『晩飯見っけ』
と言うふざけた言葉だったからである。




