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掌少短篇集

六体目のレプリカント

 私の様な犯罪者、しかも世間じゃ狂人だの精神病者だの言われている様な人間にお逢いしたいだなんて、一体どんな変わり者かと思ってたら、貴方の様なお若い方がいらっしゃるなんてね。それもなかなか男前で、頭が可笑しいってこんな所に叩き込まれるのも悪くは無いみたい……そんな滅相も無いだなんてお世辞、私には要らないわよ。今の言葉がどれに対して言ったのかは知らないけど、私が若く無いのも、夫をこの手で殺したのも、偉いお医者様に『感情移入能力の異常欠落者』だなんて診断されちゃったのも事実なんだから。

 まぁ私にして見れば、今の社会の方が異常だと思うんだけどね……えぇ、そう、あの人形の事。あれがどれだけ優れているか、なんて御託、嫌という程聞かされて来たわよ、私の友人やら親族やらにね。今更聞きたくも無いわ耳が腐っちゃう。確かに良く出来ているのは認めるけど、でもあれは、あれの正体は……うぅん、後にするわ、そこが一番重要な所なんだから。美味しい所は最後に、よ。

 さて、と。それじゃまずは、夫についてでも話しましょうか。

 私の夫は真面目が人間の皮を被った様な人だったわ。規則とか法律とか良識とかが大好きな人。若い頃からずっとそう。私とあの人が最初に出会ったから、かれこれ二十年位になるかしら。同じ大学のゼミでね、遊び呆けてた私は、彼に良くノートを写させて貰ってたの。それが縁で付き合う様になった……その頃は、まさか結婚するだなんて思っても居なかったけどね。ただの、ちょっとした遊びのつもり。彼の前にも、何人も付き合って来たわ、別に珍しくも無いだろうけど。

 でも、あの人ったら、そういう事にも大真面目なのね。一生懸命アプローチするのはいいんだけど全部空回ってて、しかもそれに気付いてないの。あんな性格だったから、女性とまともに接した事も無かったの。で、付き合って間も無い頃は、それが面白くて、私も調子に乗って、彼を引っ張り回した。我ながら結構酷かったと思うけど、でも何時頃からかしらね? あの人の一途さに、私の方が打たれちゃった。嗚呼この人は本気で私が好きなんだ、ってね。こっちは遊びだって言うのに、でも、今思うと、実際の所は良く解らない。あの人は頑張ってたけど、それはどちらかと言って、頑張る事しか知らなかったから。だからもしかしたら、ただ加減出来なかっただけで、気持ちの上じゃ、そんなでも無かったかもしれない……実際はやっぱり本気だったんだけど、ちょっと疑ってた訳。

 ただあの人がどんな想いだったかはともあれ、私の気持ちは本物になっていた。勿論打算とかも色々あったわ、この人が働いてくれば私は専業主婦でやって行けるんじゃない? とか、でも、それでも、好きになった気持ちに変わりは無かった……こんな事になってから考えると、ちょっと皮肉だけどね。

 で、それから私達は、卒業してから直ぐに結婚したの……言い出しっぺは、私だったわ。付き合うって事は、そういう事を前提としているもんじゃない、って。彼、そこまで考えて無かったのか、凄い動揺してたわねぇ、良く思い出せるわ。本当、子供みたいに慌てふためいちゃって、可愛いったらありゃしなかった。

 でもそこは真面目君、数日後に改めてプロポーズして来たの。コテコテのシチュエーションで、こっちが恥ずかしくなる様な……言わないわよ、そんな貴方、小母さんを辱しめて愉し……嗚呼、やっぱり今の世の中は、何処か何か可笑しくなってるのね熟女趣味だなんて……言ってて自分で哀しくなったから続けるわね。

 私達の結婚生活は、順風満帆だった、と言ってもいいわ。少なくとも最初の内はね。精々結婚する間際に、両親と少し揉めた位。でもそれも、彼がまた不器用なりにどうにかしてくれたわ。それで私はますます、嗚呼、この人と結婚する事になって良かったとか何とか想ったものよ……なかなか純情よね、本当。

 でも、そんな生活に陰りが見え始めたのは夫婦としての問題が浮かび上がったから……要するに、うん、そう、子供が産まれなかったの。

 私も夫も凄く悩んだわ。何が原因だったか、解らなかったものだから余計にね。不妊症の治療も揃って受けて見たけど、でもやっぱり効果は無かった。特に気にしてたのは、やっぱりあの人の方だった。自分に原因があるんじゃないか、って凄く悩んでて、見てられなかったわ……私? 多分、貴方の想像通り。気にしてない訳じゃないけど、彼程じゃなかったのは確かよ。

 そうやって何年も経つ間、私達夫婦はそれでも仲良くやっていった……少なくとも表面上は、ね。でも何だろう、あの人の気持ちから熱さが無くなって行くのを感じたの。勿論、もう学生じゃないんだし三十路も越えた訳だから、あんまり暑苦しくて落ち着きが無いのも弱りものだけど、でも、そういう事じゃなくて。多分、解って来たんだと思う……何がって、手の抜き方をよ。今まで何でもかんでも全力投球だったのが、どうやったら上手く休めるか解った。そんな感じ。この頃になると、子供に対する意識ってのも逆転していて、私の方が妊娠しない事を気にしていたわ。あの人は、子供なんて出来なくてもいいって言ってくれてたけど、でも、私はそれが何か無性に怖くて、むきになって返したものよ。いいえ、そんな事は無い、大丈夫、きっと出来る、ってね。

 多分、予感していたんだと思う。もしこのまま赤ちゃんが出来なかったら……それってつまり、生き物としては欠陥品って事じゃない? それは違う出産能力の有無で価値は計らないって言う人も居るんだろうけど、でも、それは人間としての意味であって、生き物としてはやっぱり何処か可笑しいんだと思う……簡単に言えば、うん、そう、あの人の浮気が怖かった訳。だって、セックスして命が産まれなかったとしたら、そんなの自慰と何が違うって言うの? ヤって気持ち良いからするなら、私じゃなくたっていい。ましてや、あの人の気持ちが離れ始めてたから。体も駄目で心も駄目になっていったら、本当に、私が居る意味、無いじゃない。何が理由か見当も付かないけど、生き物としても人間としても欠陥だなんて……っ、ごめん、少し待って……大丈夫。大丈夫だけど、まだ吹っ切れてないみたい.……うん、ありがと。優しいのね貴方。こんな始めて出会った人に。昔だったらころっと惚れてたわよ……ふふ、冗談よ、冗談、そんな焦らないの。

 えぇ、うん、いいわ。落ち着いた、話の続きをしましょう。

 それから暫くはとりあえず何事も無く、というのはつまり私は妊娠する事も無く過ぎていって、そうして五年前、とうとうあれが販売された。私なんかより多分貴方の方がよっぽど詳しいから言うまでも無いでしょうけどね、あの人形よ。何と言ったかしら正式名称は……嗚呼そうそう汎用人型伴侶機械『守護天使』ね、長ったらしいにも程があると思うわ.……うん、でもやっぱり貴方の方が知ってたじゃないの……持ってはいない? 嘘付きね。今のご時世であれを持っていないのは、私の様な生き遅れ位よ。貴方は、そうは見えないわ。意気というか意思を感じるもの。昔の夫とちょっと似てる……いえ、大分……まぁ、本当に持っていないならいいわ、お値段は結構なものだし、あの人形。

 でも、それだけの性能はあった……とは思うわ、悔しいけど、ね。

 キャッチコピーからして振ってるじゃないの、『永遠に変わる事の無い貴方だけの人生の伴侶を』だなんて、しかもそれが誇張でも何でも無く、事実その通りなんだから、皆が夢中になるのも、理解出来なくは無いわ。深層心理を計測して、見た目から中身まで主人が最も求める人物像を割り出し、それを基にして造られた、世界でたった一体……って言うと、怒られちゃうわね……たった一人の自動人形。外見は、そりゃ人形だから変わらずに、それでいて性格とかは、主人との性格でどんどん変化して行く。その主人が変わるのに合わせて、最も相応しく。

 家庭用のロボット産業の進歩が凄いってのは聞いてたけど、これ程とは思いもしなかったわ。人工知能付きの道具とかで、例えば掃除機ロボットは一体居たけど、そういうのとは全然別物じゃないの……横文字の名前は覚え難いんだけど、確か……嗚呼、そうそう、ヤーコプ・グルムバッハ博士ね、うん、作ったこの人は、凄いと思ったわ、確かに。何でそんなの作って、世に出そうと思ったかは、全然知らないけど、何はともあれ、そうして一大ブームが起こったわ……猫も杓子も守護天使、ってね。男も女も、老人も若者も、誰だって彼だって関係無く、その価格を買えるだけのお金があれば皆購入したわ。そりゃそうよ、要するに自分の理想を産み出せるんだから。始めこそその値段もうんと高かったけど、買った人が大絶賛するものだから皆が欲しがって、あっと言う間に今の価格になったわね。さぞや博士はぼろ儲けしたのでしょうよ……そうでも無かった? ふぅん、詳しいのね。でもやっぱり興味無いわ。

 うん.……そう、興味無かったの、私はね。どうして、って私はもう理想の相手に巡り合えていたから。わざわざお金払って、そんな者、二人も欲しくなかった。いいえ、それだったら子供をくれって切実に思ったわ.……勿論、機械なんかじゃない。人形なんかじゃない。私がお腹を痛めて産んだ、確かな赤ちゃんが、ね。

 でも人間という生き物は、生き物である事より人間である事の方が重要だったみたいね……何故って、私みたいな考えの人は、極々少数な訳じゃない。母親も子供より意中の相手が大切で、逆に子供を造る母親も少なくなかった様だし。

 そして、そう、あの人も、生き物である以上に人間だった訳で、さ。自分の守護天使を造って来たのよ、私に黙って……うん、黙ってたのはいいの。ブームだって言ってもやっぱりちょっと皆抵抗があったみたいだし。

 でも、そんな事よりお笑い種だったのはね、その人形、つまり夫の理想の相手の事でね、何が可笑しいって、あの人の守護天使というのが、私だったのよ。それも、学生の頃の私。良くも悪くも若さと自信に溢れていて、彼を右へ左へ顎で使って、そうやって弄ぶ事を生きがいにしていた、そんな私が良かったの。あの人の気持ちが冷めていった理由がそれ。結婚して落ち着いちゃって、彼に頼る様になって、あまつさえ不安がる様な私は、あの人が好いた私じゃ無かったのよ。

 当然、私は憤慨したわ。何か様子が可笑しいな、と思って浮気調査させたら、出て来た相手が人形、それも若い頃の私そのものだったんだから。何それ、という感じよ。今の私は一体何なのよ、ってね。

 ただ、それでも私は許しちゃった……彼が生真面目に謝って、でもやましい所は無いだとか言ったからというのもあるわ。今じゃ標準で付いてて、そりゃどうよという風だけど、セクサロイドとしての機能は無かったから、まぁ話し相手位なら、ってね……そう、違うの。生き物としては子供を産めない、セックスしても意味が無いって事で同列だった。でも人間としては、全く敵わない。自分の都合の良い様に造られた相手なんだから、元々そうじゃない私じゃ、相手にもならない訳。機械かそうじゃないかなんてのは、そもそも、自動人形なんかに理想を見出す様な人達には無きに等しいのだから……こういう風に感じるから、詩人のお城に幽閉されてるんだけどね、私。何も可笑しくは無いと思うのにな、皆大多数に引かれ過ぎなのよ。本心じゃ、同意してくれる人も居ると思ってるの、あんなものは所詮機械でしかない、って……とと、脱線しちゃったわね。

 何が理由か、という話だけど、私は、私が棄てられるのが怖かったの。彼は謝罪してくれて、私は胸を張って許したけど許されたのは私だったの。私は彼を愛していたけど、あの人の場合、厳密にはそうじゃなかった。私の様な人間を愛していたのであって、私そのものじゃなくても彼は良かったの……何処までそれを自覚してたかは知らないけどね、守護天使を造るという事はそういう事じゃない……だから、私は人形と共に居る事を許した。彼と共に居る為に、ね。

 それに淡い期待はあった……生き物と機械の違い……今まで産まれなかった、まだ産まれていない、それでももしかしたら産まれるかもしれない私達の子供。

 それが出来れば、きっと彼は振り向いてくれる。理想の代用品なんてぽいと棄てて、生身の私にまた情熱を燃やしてくれる……そう信じた……寧ろ、そうじゃないとやって行けなかった、というのが本当の所だったけどね

 でも違った。他の親達が子供を産まずに意中の相手を造った様に、彼の興味も守護天使へと向けられた。『常にその人の側に在れ』って意味合いでその名が付けられたそうだけどでも正しくその通り。あの人は人形の相手に構いっ放しだった。私じゃなく、昔の私に良く似た、あの人形相手に、ね。

 私は無性に腹が立って仕方が無かったけど、でも、我慢したわ。何時かきっと、何時かきっと、そう自分に言い聞かせて、ね……友達とか? 最初にちょっと触れたけど、うん、皆守護天使に首ったけで、私も持て持てと薦めて来たわ。笑いながら拒否するのにどれだけ苦労したか、そう、冗談じゃない、ってね。

 でも、起きちゃったの。冗談じゃない、って事がさ……えぇ一ヶ月前。ここからは本当に供述通りだけれど……いいならいいわ、話を続ける。

 一ヶ月前のあの日、私は病院に行っていた。不妊治療の一環として、ね。もうセックスなんて何ヶ月もして無くて、夫は仕事以外は人形遊びに夢中だったけど、それでも私はどうにかしようとしていた.……私は、ね。家に帰って来て、部屋に上がって、私は、そう思ってたのが本当に私だけだった事を知ったのよ。

 あの人は守護天使と抱き合っていたわ。裸同士で、ね。オプションで付けられる性交機能を加えてた。すっかり騙されていた、いえ、愚かにも信じていたというべきか、な。恋とか愛とかなんて、結局はここに行き着くんだって、嫌という程、そうよ、さっきまでの間に嫌という程解ってたのに、ね。

 そしてなかなか見物だったのはね、夫はもう大分お肉も付いているけど、でもあれは違ったの。本当、良く出来ていると思ったわね。だって、私から見ても、あの人形は私にしか見えなかったのだから。昔の私。若く美しく、男達を振り回していた私。今の私は、夫にも見捨てられたというのに。

 それを理解した途端、かっとなったわ。一気に頭に血が上った。生き物だ人間だ機械だ何だとか、そんな事は何もかもどうでもいい、ただの言葉遊びに過ぎなくなって、自分がやらなくちゃいけない事は、この裏切りを許しちゃ駄目だって事に思い至った私は、驚き慌てる二人へ……人形も驚くのよね、浅ましい反応だけど……二人へ一気に近付くと、近くに置いてあった花瓶で、がしゃんと、夫の頭にぶつけてやったの。あの人は、逃げる暇も無かったわ、避ける暇も。欠片が散ばって頭蓋骨はぐしゃぐしゃで水はまかれて脳汁と交じり合って……気色悪いったらありゃしない。嗚呼私はこんなものを愛していたのか、って思ったら、千年の恋も一瞬で覚めた……そう、自分が棄てられるって怯えもね。清々したわ。確かに。えぇ、法廷で言った通り。その瞬間は、ね、本当にすっきりした。

 でも、その後なの。重要なのは、この後。

 守護天使が動いたの。夫の下になっていた彼女がね、目を見開いて、こっちを向いて。私は咄嗟に後ろへ下がった。何されるか、解ったものじゃなかったから……うん、解ってなかった。意外かもしれないけど、私はその瞬間まで一度も、人形に対して何の感情も持っていなかったの。掃除機と一緒で、道具だって思ってたのね。これはロボットに過ぎない。意思なんてまやかしだ、ってさ。

 だから、彼女が夫の名を叫びながら号泣し始めたのには、心底肝を冷やしたわ。もう動かない肩を掴んで、必死にね、あの人の名を呼んだの。まるでそうすれば夫が生き返るんじゃないかって、そう信じているみたいに……そして止まったの。暫くしてから、ぴたっとね。それからがっくり力を失くすと、前のめりに倒れていったわ.……そう、死んだの。そんな表現は使いたくないけど、でもそうとしか言いようの無いものだったわ。電子頭脳の停止とかそんなちゃちなものじゃなく。

 その時の私? は呆気に取られて見ていたわ。理解出来なかったからじゃない。その時はもう冷静になっていて、守護天使が何をしていたのか、その身に何が起きたのか解った……そこに込められた意味が解ってしまったの。

 人形は、主人の理想として造られる.……たった一人の人間の為だけに。夫の守護天使は、彼の為に泣いていたの。そうする事がそれが存在している理由で、そうする事を望まれていたのだから……死んだのも、そう。主人が居なくなって、最早そうする意味が無くなってしまったから彼女は死んだ。死んでしまった……結構良くあるそうじゃないの、そういう事。名前は知らないけどね。

 要は、機能の一環、と言えばそうだったんだけど、でも私は身震いした……その行為で、人形が確かに彼を愛している様に見えたのだから。その中身が一体何であれ、深く深く愛している様に……少なくとも、私には出来ないわ。夫を手に掛けたのは私なんだから、そのせいで死ぬだなんて在り得ない。

 でもこの人形はそうした。在り得ない事で死んだ……えぇ、それはとても凄い事だと思う。さっきも言ったけど、ここまでされる様な存在なら、皆がみんな、ぞっこんになるのも解る、ってね……でも私は恐怖しか感じなかったの。それはつまり、私があの人にとって、完全に用無しだって事の証明だったから。うぅん、私だけじゃない。結局、個人にとって他人なんてどうだって良くて、守護天使が、人形が居れば、それで充分代価可能なんだ、と証明してしまっているから。

 だから気付いた時、私は人形を砕いていたわ。道具なんか使わない、この拳を何度も何発も叩きつけて、凄く手が痛くなっても止めず、人工皮膚が裂けて機械の中身が溢れても止めず、騒ぎを聞いた近所の人に無理矢理押さえつけられるまで、私は延々そうしてたの……気は、済まなかったわ、全然、ね。

 それは今でもだし、当時もだった。やった事は認めたわよ、ちゃんとね。それだけなら、まぁ夫にも責任があるとして、私の処分も少しは軽くなったかもしれない。私に同情してくれる人も、少なからず居たから、さ。

 でも私はそこから踏み入ったの。つまり、本当に裁かれるのは、あの守護天使を騙る人形なのであって、私も夫もその被害者に過ぎない。あれは恐ろしい存在であり、放って置いては百害あって一利なし、ってね。

 結果は知っての通りの非難囂々よ。そりゃ反対はあると想ってたけど、予想以上のものだったわ。私に同情してくれていた人も、弁護士も、全員が全員ね、掌を返した風に私を非難し始めた……私が知らない間に、世間はすっかり守護天使に対して肯定的になっていたのよ、どうしようも無い程に、ね。彼の者達は我々の伴侶であり、それを侮辱する事は許されず、受け居られない君は、異常であると言わざるを得ない、だとか何とか……ま、そういう事で、私はこの精神病棟にぶち込まれちゃった訳だ、酷い話だけど、ね。

 でも……うん、後悔は、してないかな。そりゃ悔しいし残念ではあるけど、あの人形を受け入れるのだけは勘弁ならないから。あれは居ちゃ駄目なもの。間違いない。一人一人の、個人としては、えぇ、きっと素晴らしいものでしょうよ。優れていると想うわ……でも、人間全体とかから見たら、危険過ぎる。今は大丈夫かもしれないけど、何時かきっと……しっぺ返しが来る筈。きっと、ね。

 と……そろそろ行くの? もうそんな時間? 年甲斐も無く長話にせいを出しちゃってごめんね……あぁ、気にしてないならいいんだけど。何故かな、貴方とだと良く口が動くわ。まるで夫と、昔の夫と話しているみたい……うん、そう、ちょっと不器用で、でも純粋で、本気しか知らなかったあの人に、ね。

 またお話出来る? ……嬉しい事、言ってくれるのね……えぇ、それじゃまた。

 そうそう、所で貴方、お名前は何て言うの?

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