第8話 情報は洩れるもの
なんとか食堂の朝食受付時間には間に合った。朝食を抱えて、いくつかある空席のうちの1つに滑り込む。
夕食もそうだけど、食事はすべて栄養管理がなされていて、体調を崩すものは滅多にいないらしい。こんなよく分からない葉や茎も栄養管理がなされているなんて。
不思議な世界だ。
僕は次から次へと口内にそれを放り込む。それが食物じゃなかったら、などとは微塵も考えずに、無心に。
「レーベル君か、遅いね」
ユークの声に身体が過剰反応を起こす。当然、噎せた。
振り返ると昨日見た通りの華奢なのに力強いボルコ=ユークがいた。片手に朝食を持ち、もう片方の手には使い魔が巻き付いている。その使い魔が¥はゴルちゃんではない。また別の使い魔だった。
ユークはニヤニヤしながら近付いて来る。僕は警戒の眼差しを送る。
「何? 何もしないよ。それとも、この使い魔が気になる?」
「え、あ、いや、そうですね。昨日の使い魔じゃないのかなって思ったり、思わなかったり」
「ふーん。この使い魔は私のじゃななくて私の上官のなんだよね」
昨日話していた上官、ってことはアンデッドクラスの先生の使い魔。ユークはそれに朝食を分けながら続ける。
「うちの上官は研究肌な人で、地球に現れた特殊生物とこういった使い魔に何らかの共通点があるはずだとか何とか言って研究してるんだよ。とは言っても地球側に行った渡航歴はないから、その特殊生物のサンプルもないし、結局はあまり進展していないんだけど」
「その先生は研究の妨げになるから使い魔をユークに預けてるんですか?」
「そうなんじゃないかな。別に嫌ではないからいいんだけど、上官は上官らしく、両立ってのをしてほしくはあるかな。でも上官は『これもアンデッドクラスなる者、必ず通る道だ』とか都合やら虫やらのいいこと言って研究一筋だからねぇ」
「大変なんですね」
僕は愚痴にも似たユークの言葉を朝食と一緒に飲み込んだ。先生の使い魔も分が悪そうに朝食を貪る。
すると、ハっとした様子で自分が上官を軽く罵っていることに気付いたユークはタラリと冷や汗を伝わせながら弁明を始める。
「で、でもね、尊敬はしているんだよ? その一貫性みたいな所とか、そういった所とか、なんて言うか、見習わなくちゃなぁって」
大切なんだろうな、と僕は思った。
ユークは上官をこの上なく擁護している。上官がユークをどう思っているのかは分からないが、一途な思いは通じた。
と、突如聞き慣れない時報が鳴る。
『隊員の皆様、おはようございます。本日から早朝訓練推奨期間です。使い魔や身体の強化を奨励する校長直々の思し召しにより、訓練室や研究室、及び対特殊生物シミュレーション室を開放致します。使用を希望する隊員や指導員は指導教官室のアリスレスまで許可を取りにお越しください。繰り返します。本日から――』
僕とユークは淡々としたその声を聞いた。その中から拾った言葉は「早朝訓練奨励期間」と「アリスレス」だ。
今日はリヴ先生が「早起きしろ」と言ったから起きたんだ。まさか、早朝訓練奨励期間とかいう強化期間を行うことになっていたなんて。
僕は頭を抱えながら唸った。
「アリスレスって君の苗字だよね」
情報収集に抜かりのないユークはそう僕に尋ねた。アンデッドクラスの上官譲りもあってか情報に強いし、予想はしていたけど。
第8話 情報は洩れるもの




