第6話 感情に支配される
ユークの話が終わった頃には次の隊員たちが食堂に流れ込みつつあった。
「レーベル君、メル君、いつまで食事をとっているの? もうすぐ次の子たちが来るわよ」
騒いでいると頭上から聞き覚えのある声が聞こえて心臓が跳ねる。バッと振り返るとそこにはリヴ先生がスラリと立っていた。勿論、般若のような形相で。いや、般若で。
「ボルコ兄妹も、一緒にいるならもっと有意義な時間の使い方を教えてあげて」
話し込んでいただけで理不尽にビンテックさんやユークさんを巻き込んでしまった。申し訳ない気持ちが込み上げたが、その時。
「すみません」
ユークが声を上げた。僕は驚いた様子でユークの頭を見た。椅子に座ったまま、深々と頭を下げている。
「他のクラスの子と食事をするの、兄以外で初めてだったものですから。つい長話をしていまって。私が2人を引き留めていたんです。ごめんね、レーベル君、ヘネシアちゃん。もう帰って明日の支度でもするといいよ」
ユークは顔を上げてヘネシアと僕を見ながらそう言った。リヴ先生に見えない角度でウインクをしながら。
ビンテックさんは笑いを堪えていた。
「そうだったの。それは意義が無かったと言えないわね。でも、彼ら二人を引き留めてまで話すことかしら。明日も会えるのだから――」
「ええ、そうですね。ですが、情報収集は早いに限ります。私の上官も言っていました。
『闘いとは力ではなく、頭でするイベントだ』って」
ユークはリヴ先生を下から威圧的に見上げて食い気味に返してみせた。
「それはボルコさんの勝手ではないかしら。彼らには何の得にも――」
「そうかな」
リヴ先生は眉間に皺を寄せた。
「情報収集の中には情報の提示も含まれています。集める中で私の情報も公開していますから、彼らの知識は私が引き留める前より一段と上がっていると思いますよ」
ユークはニヤけながら立ち上がり、人差し指で自分の頭を指した。まるで、リヴ先生の頭がどうかしているように。口角を上げて笑った。
リヴ先生は右手の拳を振り上げようとした。
「すみません、今日はありがとうございました! 失礼します!」
僕は2人の攻防を遮るように声を上げた。そして、狼狽えているヘネシアの左手を掴むと食堂のテーブルを掻き分けて走った。去り際、食堂のおばちゃんに怒鳴られた気がした。
「まったく、使った食器は返却口に戻してから行きなさいよね」
リヴ先生はレーベルとヘネシアが残したそれを両手にそれぞれ持ち、ユークとビンテックに睨みを利かせて去った。場都合が悪いのか、スタスタと早足にも思えた。
「お前が来なきゃ、レーベル君らは食器を戻して帰ったよ、ったく」
ユークは呆れた顔でドスンと座り込んだ。そして、静かな食堂で残っている夕食を掻き込んだ。
「俺ら、あの先公に大分嫌われとるみたいじゃ。睨んで行きよったが」
「ああいう先生は弱い。すぐ感情的になるのが欠損なのかもね」
口をモゴモゴさせながら言い放ったがビンテックには通じたようだ。
「レーベルもそんなことをアイツに言われたと言っとったぞ?」
「へぇー、だから、レーベル君らは残して行ったんだ、食器」
「どういう意味じゃ」
食事を掻き込み終えたユークは自分の食器を持ち上げて立つと、座った兄と同じ目線の高さでこう言った。
「レーベルはあの先生がいるから感情的になるんだよ。あの先生が感情的になるから、それが伝染してしまっているのかも。『同調』って言って、生物の間では当然のことらしいけどね。私は、食器戻してくるから」
言い終わると勢いよく席を閉じて返却口まで駆けた。
第6話 感情に支配される




