第5話 欠けたもの
段々と食堂から隊員が消えていく。夕食を終えた隊員は自主訓練室や休憩室に向かうようだ。
「えーと、まず私が今日の夕食に遅れたのが補習によるものだってことはみんなも知っていると思う。その補習についてだけど、アンデッドクラスの補習は他のクラスの補習とは意味合いが少し違うんだよね」
と言うとゴルガイアノスを頭上から引っ張り、胸元に抱いた。
「って言うのも、ヴァリアントクラスの補習は使い魔との親密度の経過観察が主で、ノースキルクラスは自らの欠損を補完するための調整らしいじゃない?アンデッドクラスの補習はそんなものじゃない『儀式』と呼ばれるイベントを取り行うのがアンデッドの補習なの」
少しユークの目がグッとキツくなった。生唾を飲み込む一同。
「まぁ、突然『儀式』だなんて言われても、何それ美味しいの状態だと思うから詳しく説明するね。お兄ちゃんにも分かるように説明しなきゃだし。『儀式』には2種類あって、1つは使い魔の一部を授かることで自身のアンデッド的能力を強化するもの。今回はこっちのじゃないもう一方。それが2つ目、その逆。自身の一部を供物として使い魔に捧げるもの」
ビンテックの理解が及んだのか、冷や汗をかく。僕もヘネシアも背筋に凍るような感覚を覚えた。供物だって。
「この『儀式』は自らの身体の一部を切り取って使い魔に喰わせる形態を取っていて、直接的に使い魔が主である私を把握するためのものなの。複製可能な使い魔は複製を繰り返すたびに主である私のことを忘却していくらしいから。どう、スッキリした?」
ユークは長々と話した後、手の平を上に向けて理解の程度を問うた。
自分の妹の一部が欠けていて、その一部を使い魔であるゴルちゃんなるものが喰らったという事実に相当なショックを受けたようなビンテック。蒼白な顔がそれを物語っている。
ヘネシアも苦虫を噛み潰したような表情こそしているが、心配するような言葉は一切発さなかった。
当の僕はと言うと気になることが1つ、頭の中をグルグル回っていた。とても不愉快な気分だった。それを解放するためにも口を開かなければならなかった。
「ユークは何処を捧げたの?」
ビンテックもヘネシアも、ユークでさえも固まった。
「何って、身体の一部だけど。え、女の子にそんなこと聞くの、レーベル君」
ユークは嘲弄するような顔で僕のことを見た。
「私がゴルちゃんに大事な部分を捧げていでもしたらどうするの?」
と言いながら自身の手を身体に這わせた。
「大事なもの?」
「あー、まだレーベル君にはこのジョークは早かったかな。忘れてくれていいよ」
ビンテックさんとヘネシアの冷たい目が僕に降り注がれていた。いや、何のことだか僕には分からなかったけど、モヤモヤしていた不快感は消えた。
それでも、「大事なもの」というんだから心臓でも捧げたのだろうか。でも心臓を捧げたらその時点で死んでしまうし。いや、それだからアンデッドとでも呼ぶのだろうか。
「うーん、分からない」
第5話 欠けたもの




