第4話 最強の妹を持つ兄
思わず声を出してしまったヘネシアはハッと我に返り、周囲を見て俯いた。ビンテックはニヤニヤしながらこう話した。
「なんじゃ、アイツも意外と顔広いんか」
頬杖をついたビンテックさんに僕は尋ねる。
「ビンテックさんって妹がいたんですね」
「うん? なんじゃ、言うておらんかったか。俺は兄妹で此処に来たんじゃ。しかも兄妹揃って使い魔の発現があったさかいに、俺はヴァリアントに、アイツはヴァリアントに配属されたんじゃ」
「そうだったんですね。ってことは妹さんは複数の使い魔が発現されたということですか?」
ビンテックは首を横に振った。
「もう一方の方じゃ。複製可能な使い魔を発現しおった。それが俺の妹じゃ」
話を聞く限り、とても恐ろしい妹を想像してしまう。ビンテックさんの妹というだけでもかなりのインパクトがあるというのに、アンデッドクラスだなんて。それに使い魔の複製をするなんて。
先程対特殊生物シミュレーション室で対峙した黒い異骸を思い出す。
「何勝手に私の紹介してるんだか、お兄ちゃん」
突然ビンテックさんの頭に勢いよく棍が落ちた。
そこには練習用装備を纏ったままの隊員が一人立っていた。小柄な身体に華奢な四肢。その隣には黒いものがフワフワしている、これがこの人の使い魔か。
「痛ぇな! ってお前、装備そのままで食堂来よったんか! ロッカーにくらい寄ってから来りゃええのに」
「いいの、いいの! レーベル君やヘネシアちゃんをあまり待たせるわけにもいかないし」
彼女は徐に4人テーブルの空席に座ると僕らに挨拶をくれるわけでもなく、一目散に夕食に手をかけた。この辺りはちゃんと兄妹だ。
「ユーちゃん、補習お疲れ様!」
ユークは夕食にかかりかけた手を止めて声の主を見上げた。ヘネシアだ。
「ただいま、ありがとう、ヘネシアちゃん! ご飯、食べよっか」
こうして、4人での食事会が始まった。
「そう言えば、レーベル君は初めましてだね。私、ボルコ=ユーク。いつも私のお兄ちゃんがお世話になってるみたいで」
想像と正反対の笑みだ。ぼくはそう思った。
「いえ、それは僕の方で」
「ふーん。あ、こっちはゴルガイアノス、私の使い魔」
ゴルガイアノス。なんてアンデッドらしい名前なんだ。彼女の頭上に浮くそれはユークと違って友好を築こうとなんて思っていないらしく、威嚇される始末。
「私のことはユーク、こっちのことはゴルちゃんって呼んでね」
呼べない。いろんな意味で。
「ところでお前、やけに長かったな補習。何やってたんじゃ」
ビンテックさんが頬杖をつきながら妹に質問を投げた。夕食を食べ終えてしまったビンテックさんは相当暇らしい。僕は口を動かす。
「えー、補習は補習だよ。お兄ちゃんには分からないだろうけど、この子の複製時能力を上げるための補習。そっちのクラスは常に使い魔を発現して親密度をあげておくのが補習だったりするんでしょ?それと似たようなものをこっちでもするってわけ。ま、お兄ちゃんの脳では半世紀かけても理解できないって」
ユークはゴルガイアノスの頭をポンポンとしながら夕食を掻き込む。ビンテックさんもその気迫に押され「おう」としか返せなかった。
僕の隣ではキラキラした目がユークを見つめている。ヘネシアはああいう男前な性格のユークに惚れてしまったのだろうか。あの時の青い顔は心の準備ができていなかったって言ったところだろう。
「じゃあその話、僕に聞かせてください」
僕は夕食の最後の一口を放り込むと手を膝の上に置いて、できるだけ従順に見せた。目はできるだけ光らせた。「私も聞きたい」と言ったのはヘネシア。
少し困ったような顔したユークはそのまま「困ったなぁ」と口にした。そんなユークにビンテックさんは微笑みだけをかける。
ゴルガイアノスと顔を見合わせたユークは溜息を吐いた後、1つ条件を提示した。
「絶対私の心配はしないでね。これを条件に話をしようかな」
第4話 最強の妹を持つ兄