第28話 革新への一歩
不死川研究員は机を勢いよく叩いた。
『おや、どうした元指導員。立腹か』
「どうして、どうしてそんなことをするんですか?」
『どうして、だとは君にしては愚問だな、不死川君。何、当然のことさ。彼らにこの事実を話しでもしたら忽ち彼らは叛逆するだろう。死に向かうのは御免だとね。そして、それが起こった場合に我々だけでそれを鎮圧するのは無理だ、人数差の問題でね』
「だからと言って、このままでは犠牲者が出てしまいます! その犠牲は仕方ないとしてしまうのですか?」
『どうしてそれを訊くのか。まさか、「使い魔とデバッグには共通点があるから」か?』
不死川研究員は歯を食い縛った。
『困るんだよ、君みたいな指導員は。いや、もう指導員ではないか、元指導員』
「あなたが私を左遷させたのです。忘れないで頂きたいですね」
『君には幻滅したよ』
「ならば、どうして私を此処に招いたのですか?」
『何、こちらの不手際だよ。指導員の名簿にまだ君が生きていたみたいでね。君の分も臨時招集の招待状が作成されてしまったんだ。だが、これはこれで面白いと思い、届けさせてもらった。それだけだ』
「それは親切に、どうも」
不死川研究員は苦虫を奥歯で噛み潰した。
『ところで、不死川君のように反旗を翻そうとする者が他にもいるという噂を耳にしたが、アンデッドクラスやノースキルクラスに異常はないか?』
すると、アンデッドクラスの指導員のうちの1人が声を上げる。
「大丈夫っスね。何かあったら俺が痛み衝けた後に報告するっスよ」
『それは頼もしいね、アムガイ君。ただ、言葉遣いには気を付け給えよ』
一方からノースキルクラスの指導員のうちの1人が返答する。
「こちらも今のとことそう言った話は聞いていない。我々指導員が目撃したという証言もない。これからは更に警戒して奴らを監視する」
『いい心掛けだ、最底辺クラスよ。精々足手纏いにはならんでくれよ』
同僚の言われようにリヴ指導員は爪を噛んだ。
『これの対策としてヴァリアントクラスには内通者を1人派遣することになった。ミルナス君、準備はいいかい?』
『はい、大丈夫です』
若い女性の声がスピーカーから漏れ、数秒してからホログラムに施設の室内からであると思われる映像が映された。そこには声から想像できる通りの女性が1人いた。
『初めまして、ミルナス=レイターです。歳は18です。明日からヴァリアントクラスに「内通者」として配属されます。よろしくお願いします』
するとログ指導員が声を挙げた。
「あの、こんな小娘で大丈夫なんでしょうか。内通者なら指導員でも問題ないのでは」
『な、小娘っ――』
ログ指導員の発言に食って掛かろうとしたミルナスを遮るように声がした。
『ログ君、年頃の女性に対して「小娘」はないだろう。それに、内通者は隊員に近付かなくてはならない。指導員だと警戒され兼ねないんだよ』
「なるほど」
ホログラムにはムスッとしたミルナスが途切れることなく映っていた。
『明日から順繰りに隊員と接触させ、秘密裏に動いてもらうことになる。頼んだぞ、ミルナス君』
『はいっ! よろしくお願いします!』
『私からは以上だが、他に何か議題がある者はいるか?』
不死川研究員がホログラムに声を掛けた。
「この少女はヴァリアントの使い魔を使うんですね?」
『そうだが、それがどうかしたか? 君の研究材料にくれてはやらんよ』
「いえ、気になったものですので」
不死川研究員は左手を挙げて話を終わらせた。
『それじゃあ、これで今回の臨時招集の執行は終わりだ。各自、解散してくれて構わないよ。但し、今日共有された情報はすべて口外厳禁とする。特に、不死川君。君は本来此処にいない者なんだ。よろしく頼むよ』
「善処します、私も資料室を追われたくはありませんので」
不死川研究員は白衣を整えて立ち上がると、ゆっくり外の闇に消えた。後を追うように他の指導員達も闇へ向かった。残ったのはホログラムに映ったミルナスと低い声だけだった。
『さて、この世界も間もなく、だな』
『襲撃ですか?』
『さぁな』
第28話 革新への一歩
第1章 逢着する僕ら 完
第1章 終了です。
第2章 開始まで少々お待ち下さい。
2020年1月には開始したいと思います。