第27話 語られた黎明
不死川研究員が席について数分後、リヴ指導員が慌てた様子で扉を開けた。開始時間の数秒前だった。
『遅いぞ。いや、まだ時間内か』
無数に設置されたスピーカーからその声は発せられた。「申し訳ありません」と一礼し、指定された席に座るリヴ指導員。
『それでは始めるとしよう。臨時招集によくぞ集まった、精鋭の諸君。君達は私の四肢となる貴重な人材だ。故に、この臨時招集のメンバーに名前を挙げさせて貰ったよ』
9人の鋭い目付きが環のようにして中央に現れたホログラムを見ている。そこには「 No Signal 」と映し出されている。あくまでも彼は素顔を表には公開しないようだ。9人が眉を顰めた。
『今日、君たちを呼集したのは他でもない、機密情報の共有が目的だ』
「機密情報?」
ヴァリアントクラスの指導員の内の1人が声を出す。
『おっと、私語は慎み給えよ、ログ君。君に今発言権はない』
「これは、とんだ失礼を」
スピーカーから溜息が漏れる。
『まぁ、いい。続けるぞ。まず1つ目の機密情報だが、以前も話したと思うが「デバッグ」が地球という惑星を中心に侵略の域を広げているようだ。これは地球側にいる私の友人から聞いた情報だが、既に犠牲者が幾らか出ているようだ』
すると、ホログラムに2艇の船が映し出される。不死川研究員がそれを睨んだ。
『これは地球にある「艦艇」という車輛だ。南極という地域を航海している最中に、何かに襲撃された、と見られている。が、この2艇は未だにその海域からは発見されていない』
一拍の間を空けた声は、続けてこう告げた。
『これが、2年前の話だ』
会議室が響めく。リヴ指導員はその中でも平静を保っていた。
『静粛にしなさい。君達も察しが付いたようだから端折るよ。つまり、この惑星に於いても何時「デバッグ」の襲来があるか予測ができなくなった。今、地球では夥しい数の「デバッグ」が発生していると聞く』
「あの」
『おや、何だね』
ログ指導員がゆっくりと手を挙げた。
『そうだ、それでいい。ログ君、君に発言権を与えよう。気になったことを言い給え』
「地球というその惑星にも私たちと同じような境遇の子ども達がいるのですか? また、被害の程を」
『そうだね、地球にも我々のような組織は存在するよ。非力な子ども達に戦闘の術を叩き込む「軍事能力部隊養成学校」とでも言うべきものがね。今はその組織の活躍によって被害は出ていない。出ている被害は先程も説明した通り、艦艇の消失。これだけだ』
「ご教示、ありがとうございます」
環を成す指導員一同、皆揃って難しい顔をしている。薄い灯りに手元のみを照らされている異様な空間に声だけが響くのだから無理もないだろう。
『本来ならこれでこの件について纏めるのだが、今回は少し違う。先程も紹介した私の友人から得たその情報にある画像が貼付されていたんだ。それを君達にも見てもらいたい。それがこれだ――』
ホログラムに映されていた艦艇が消え、そこに現れたのは焦点の歪れで全体的に暈けた写真だった。しかし、そこにはハッキリと「それ」が映し出されていた。9人の中には目を瞑る者や目線を逸らす者もいた。
『これは地球で撮影された「デバッグ」の画像だ。少し解像度が悪いが、確かに我々のような種の生物を喰らっている。今まで、「デバッグ」は破壊行為を目的としている生物プログラムだと認識されていたが、殺傷行為に目覚めた可能性がある、といった1文と共に添えられていた。だが、これはまだ隊員には告げるな』
スピーカーは少々の雑音を拾った後、正常にその声を拾い発する。
『我々、指導員だけが知る知識として持っておけ』
少しホログラムが歪んだ気がした。
第27話 語られた黎明




