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PLOTEST  作者: 神木 千
第1章 逢着する僕ら
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第26話 或る研究員の回想

私は特に急ぐわけでもなく、そこへ向かっていた。暗い廊下を抜けるまで私はいつもこの孤独を堪能していた。懐かしいな。


それにしても、今日は少し冷えるな。


さて、輪の使い魔だが、少し弱っていた。もう殆ど回復していたし、然程問題ではないと思う。だが、本当に問題になるのは「デバッグ」の出現だろう。今一度、此処の耐久性に関して講じるつもりなのか、あの方は。


暗い中にある非常灯の横を通り過ぎる。


そう言えば、地球という対惑星にはもう既に「デバッグ」は出現しているとの情報も出ている。場所までは把握していないが、犠牲も幾らか出た、と聞かされたんだっけ。


その頃からだ。


使い魔たちに「異常」が現れたのは。


私の使い魔も私の指示を聞かない。私から離れてしまうことも屡々見受けられる。その度、ユークや輪が預かっていてくれている。助かる。輪の使い魔にも異常があった。生命反応が著しく低下した。ユークの使い魔は、まだ何も報告を受けていないか。


非常灯が淡く光っている。


つまり、「デバッグ」は使い魔たちと何らかの関係があるのは明らかなんだ。まずは地球へ赴き、デバッグのサンプルを確保しなければなるまい。


おっと、それに「レーベル君」だよ。あの子は何なんだ。使い魔の「遺伝的発現」を無効化していると思われるあの子は。あの歳になっても発現がないとなれば、ノースキルクラスへの配属はほぼ確定。ヴァリアントの使い魔もアンデッドの使い魔も発現する兆しがない。


まさか、「特異的発現不全」が存在するとでも言うのか。


まぁいい、この辺りも含めて、すべてはデバッグのサンプルを手に入れてから。地球へ赴く許可が取れてからだ。


「使い魔の異常」、「使い魔発現不全の詳細」、そして、「デバッグの発生プロセス」。これらが私の課題か。栄養ドリンクの補充、足りていたかな。


ところで、今日の召集は一体何なのだろう。あの方が直々に指導員をすべて集めるだなんて、いつ以来だ。私のところにまで召集の紙が届けられた。私を招集する意味があるのかは少々疑問だが、何かあるのだろう。


そう言えば、フラワネットが紙を配っていたな。フラワネットはあの方と接触を持っているのか。とうとうあの方も再婚の見通しがついてきたのか。いや、此処での無駄な詮索はやめておこう。過度の期待は身を亡ぼす。この場合は期待ではないが。


会議室の前に辿り着いた。物々しい扉の向こうからは薄い光が見えている。


「元アンデッドクラス指導員、現調査・研究員、不死川航。召集命令により参加します」

『――入れ』


いつ振りだよ、あの方の声。いつになく冷酷そうな声だ。お前の息子だよ、私に要らぬ課題を寄越したのは。責任を取ってくれるんだろうね。


私は黒い白衣と共に闇に紛れながら開いた扉の隙間を抜ける。その先には更に奥へと続く廊下があった。非常灯だけが嫌に明るく見えた。勘弁してほしい。


歩を進める。


この会議室に来るのも久しぶりだな。そりゃそうか。私が指導員を追放されて以来、此処に立ち入ることすらできなくなったんだからねぇ。ただ、籍は残していてくれているようで、何とか調査・研究員として居座り続けている。私も性根的に研究が好きだから、こっちの方が見合っていると思う。


指導員寮も追い出され、今は資料室を寝床にしている。別に警備員が見回りをするわけでもないこの特殊能力部隊養成学校において資料室は最高の隠れ家とでも言えよう。研究するにおいても、物静かで心地が良い、か。輪のおかげだな。


さて、もうすぐ会議室だな。私の懐古的ロードもこれにて終幕か。この後、私たちは何を目撃することになるのだろうか。あの方が召集したんだ。衝撃の1つや2つ、あるんだろうな。もう私は慣れているが。


そうだ、帰り路はもう少し有意義なことを考えてみよう。「かっこいい男の条件」について考えてみるか。きっと楽しい帰り路になるぞ。


廊下の端にある会議室の薄い扉をゆっくりと開いた。



第26話 或る研究員の回想


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