第24話 自分との闘い
「リヴ先生、補習ありがとうございました!」
僕は施錠を終えたリヴ先生に深々とお辞儀をした。リヴ先生の人間味に溢れた顔、久々かもしれない。僕はそう思った。
「レーベル君。君は本当に素質はある。ノースキルクラスでも成績は悪くないし、私個人凄く期待している。だから、これからも健闘してくれ」
「はい! 早く『弱点』を克服してみせます!」
「その意気だ」
リヴ先生は持っていた棍で僕の背中をバシンと叩いた。
「そこでなんですけど、リヴ先生はどうして『弱点』を克服したんですか?」
「私の『弱点』の話など聞いてどうするんだ?」
リヴ先生は歩き始めた。僕も置いていかれないように早足ですぐ後ろを歩いた。血生臭い臭いがしたのは気のせいだろう。
「それは自分の『弱点』克服の参考にしようと――」
「それなら聞いてもそこまで意味はない。『弱点』は人によって違うんだ。参考にできる程、柔じゃない」
「そ、そうですけど。心意気とか」
「心意気なんて、自分次第だろう? 私の心意気を教えたところで君の力にはならないさ」
少し言葉の隅に棘が現れたような気がする。僕は少し引き退く。
「そ、そう、ですか」
「意地悪な指導員だとは思わないでね。『弱点』の克服は己と己の勝負なんだ」
僕の「弱点」も自分でどうにかしなければならないのか。僕はカウルのように顎に手を当てて考える。
僕の「弱点」は「感情的になる」ということ。その引金となるのは殆どの場合「怒り」だ。親しい者の死に対する怒り、親しい者を守り切れなかった自分に対する怒り。
そして、「この世界にも特殊生物が現れるかもしれない」という漠然とした危機に対する漠然とした怒り。
「それじゃあ、私は行くべき場所があるから。明日も早朝訓練奨励期間だ。忘れずに早く起きるように! 夜更かしは厳禁だ! もし、少しでも遅れるようなことがあれば次は容赦しないぞ、レーベル」
リヴ先生は曲がり角を曲がる直前まで指示を出し、私の視界からするりと姿を消した。そっと曲がり角からリヴ先生のいなくなった方を覗いたが、そこには先生はいなかった。そこにあるのは奥へ、奥へ続く暗い廊下と「関係者以外立ち入り禁止」の張り紙。
「んー、僕も寝るかぁ、いや、カウルと深夜の夜食会をするんだっけか」
僕はロッカーへ向かった。
これと言って、リヴ先生へ疑問を抱かず。
第24話 自分との闘い
『こちら異常なし。そっちはどうだ?』
『こちらも異常なし。さっき少し危なかったけど』
『あまり無茶するなよ。もう少しの辛抱だ』
『お? 何か隙が生まれる時があるということかい?』
『そうだね。そろそろ此処も危ないって言ったところじゃないかな。詳しくは知らないんだけどね』
『何だよ、それ。不確かな情報で俺を期待させないでくれよ』
『ふふ、ガルはいつも僕の話を丸呑みするよね』
『おい、無線の会話の中で名前ともとれる言葉を発するのはやめようと言ったのはそっちだろ? 誰に盗聴されているか知ったものではないからって』
『そうだったね。ごめん』
『いいさ。お前との仲も此処を抜け出してしまえばそれまでなんだから』
『そんな薄情な言い方はやめなよ。僕はできるだけ君が安全に此処を出られるようにサポートしているんだから、脱出した後も仲間だろ?』
『まぁね。あ、まずい、誰か来た。歩き方的に奴だ』
『襲われないように静かにね』
『あぁ』
『健闘を祈るよ、何かあったら帰って来て』
『了解――』
『通信、終了――』
第24話 自分との闘い(?)




