第21話 決意は瓦礫と共に
「よし、それじゃあ始めるぞ」
「え、リヴ先生もシミュレーションするんですか」
「当たり前だ。補習指導。それは私も実際に戦闘に参加し、隊員の動きを細かく調整する。それが目的だ」
リヴ先生は僕らより幾らか大きい棍を背中に背負いながらシミュレーション室に入って来た。メニュー画面が部屋を覆うこの場所にリヴ先生が挑戦者として傍にいることがとてつもなく心強かった。
僕は何だかできそうな気がした。『遠距離攻撃の防衛』
リヴ先生はメニュー画面のガイド音声に向かって「基礎:遠距離攻撃の防衛 制限時間10分 挑戦者2名 町フィールド」と設定を吐いた。ガイド音声は暫く考えて『設定しました。場面切り替えまで10、9――』と正常に読み込み、カウントを開始する。
この感覚はいつもヘネシアと味わって来たものだ。僕は棍を強く握り直す。感情的にならないようにしなくてはいけない。集中、集中。
「緊張するか? レーベル」
「はい、少し」
「緊張も感情だ。その緊張に飲み込まれるんじゃないぞ」
「はい!」
『0』
カウントが終わり白かったメニュー画面が破壊され尽くしたテルドロッド市に為り変わる。これは、あの時の風景。僕は赤く潰れたヘネシアを思い出して、すぐに拭い去った。飲み込まれるな、これはリヴ先生が敢えて選んだフィールドだ。そういう目的だろう。
「まずは探索。特殊生物を視認できたらバレないように距離を詰めろ。バレても攻撃はするな。防衛に回れ」
「分かりました。では、僕は東を」
「私は西に行こう」
崩れた建造物。亀裂の入った舗道。そんな中を太陽に向かい歩いた。どこまでも続く舗道の先にそれは見えた。
高い塔。
僕は高く空を見上げた。その塔は雲を貫き、更に高く伸びている。
「どうなってるんだ、あれ」
僕は緩んだ手に力を入れ直し、現実に戻った。今は特殊能力の探索。視神経に集中力を注ぎ込む。すると、視界の隅に微か、動くモノが見えた。
「見つけた」
低姿勢になりそろりと歩を進める。歪んだ地盤が故に、物音を立てないというのは難しいが、最低限に抑えて僕の足は前へ、前へ。
ふと特殊生物が周囲を警戒する体勢を取る。触覚のようなものを空に向けて立て、赤い複眼を音を立てながら動かす。ギョロリと。だが、それが僕を捉えることはなかったようだ。当たり前か、物陰にいるのだから。特殊生物の警戒は続く。
恐らく、この付近にはあの特殊生物しかいないようだ。昨日、ヘネシアとシミュレーションを行った時はこんな虫型ではなく、霧状の特殊生物だった。戦闘パターンが分からないが、とりあえず分かっていることは遠距離の攻撃が必ずあるということ。
もう少し距離を縮めようと左足を前に送った時、隆起していた舗道が崩れた。僕はその崩壊に左足を奪われた。
「しまっ――」
遠くでギョロリと音がした。
辛うじて、まだあの特殊生物を視認できる状態だ。僕は視線を物陰から特殊生物に向ける。目が合った。僕の心臓が縮こまる。
奇声という名のゴングが鳴った。
特殊生物が宙を舞う。背中に付けた薄い羽が高速で空気を掻き、羽音が周囲の硝子を散らす。複眼の先にいるのは勿論僕だ。仕方ない、この状況で防衛に徹するしかない。
「来い!」
僕は自分より幾回りも大きいそれに向かい棍の先を向けた。温い風が僕を励ました。
第21話 決意は瓦礫と共に