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PLOTEST  作者: 神木 千
第1章 逢着する僕ら
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第19話 預かるは華

私は輪の背中を見て歩いた。細く暗い廊下の先にある不死川上官の研究室まで無言で。輪もまた、私に声をかけることはない。どうやら嫌われているらしい。カツカツと足音だけが廊下に木霊する。ゴルちゃんだけが私の傍にいてくれる。


暫くして輪は歩を止める。古臭いあの扉の前で、輪はベルを翳して取っ手を掴むとゆるり捻った。呻く扉の向こうからは何とも言えない匂いが私の鼻腔を叩いた。フードの奥から咳き込むような声が聞こえた。私は少しニヤける。


中に入ると嫌そうに輪は第一声を発した。


「上官、連れてきましたよ」


すると研究室の奥にある椅子に座っている骨格がカタカタと命を吹き込まれたかのように動き始めた。


「ほぉ、おかえり。待っていたよ」

「それじゃあ、僕は本棚の裏にいます」


輪はそう言うと不死川の「ご苦労」の声も待たず消えてしまった  。


私はその骨に少しずつ近寄る。何度見ても飽きないほど気持ちが悪い。


「少し露出が多すぎではないかね、ユーク君。露出は抑えるようにと言ったんだが」

「すみません、生憎、衣装というものを持ち合わせていませんので」

「そうか。まぁ、あれはただの私の個人的なお願いだ。イベントには直接関わらない」


だろうとは思っていた。


「それじゃあ、始めようか、ゴルガイアノス」


不死川上官は両手だけに人肉を貼り付け、「手」として機能するように化かすと大きな刃物を取り出した。あの時に使用した刃物にも似ている。


「さぁ、ゴルガイアノスを複製させるんだ」


不死川上官は刃物を私の顔に突き付けるようにして見せ、命令した。頭蓋骨の奥にはきちんと蒼い光がある。本人であることは間違いない、と言ったところか。


私はゴルガイアノスに向かって「剥落」と唱えた。するとゴルガイアノスを中央で縦に切り裂く亀裂が入り、2体へと分離した。ゴル1、ゴル2と名付けるとしよう。


私は2体のゴルちゃんをそれぞれ両手に乗せて「これでいい?」と不死川に問いかけた。


「残したいのはどちらだ?」

「じゃあ、こちらを残したいです」

「ほぉ、それはどうしてだ」

「特に意味はありません。強いて言うなら、利き手にいるからです」


私はそう言うと左手に乗せていたゴル1を不死川に預けた。


「それじゃあ、次の質問だが、ゴルガイアノスの何処を食べたい?」

「そうですね、心臓があれば心臓を頂きたいですね」

「難しい注文だな。だが、これも教え子の頼み。待っていなさい」


不死川上官は左手にゴル1、右手に大きな刃物を持ち、私に背中を向けた。


「グチュ」と何かの潰れるような音。ゴルガイアノスの奇声。この2つが私の耳に媚びり付いた。何度も脳内を駆け巡った。ゴル2は無表情で私の頭上を飛び始める。いつものゴルちゃんだ。


黒い液体で両の手と刃物を濡らした不死川上官が振り返った。


「さぁ、これがゴルガイアノスの心臓だ。少々摘出に梃子摺ったが、これで間違いないだろう」


不死川上官は私の両手で象った器の中に心臓を落とした。ベチャリと落ちたそれは生温かく、微かに脈を打っていた。


私はニヤけてしまった。


「さぁ、これを食べれば『儀式』はお終いだ」


私は手の平に乗るこの心臓が止まる前に飲み込もうと決めた。そして、一口で喉を通す。喉の幅より大きなものが動きながら私の胃へと落ちていく。私の口周りには黒い血液がたくさん付いていた。


「どうだ、美味しかったか? 心臓など、特上だろう」

「不味くはなかったですね」


黒く穢れた私の口元に不死川上官が近寄る。


「こんなに汚してしまって。手入れが大変だな」

「上官こそ」


私は上官を退け、口元の黒を拭った。まだ少し吐き気がする。



第19話 預かるは華


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