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PLOTEST  作者: 神木 千
第1章 逢着する僕ら
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第16話 勇気を振り絞って

夕食時、僕がシミュレーション室から出て来るとカウルが目をキラキラさせながら待っていた。どうやら心の準備ができたようだ。僕はカウルに拳を向けた。ゴツンとカウルの拳が強く打った。


「行こう」


カウルは僕の手を奪うと、食堂まで駆けた。


食堂に着くとそこにはカウルよりもワクワクしているユークがいた。


「よーし、揃ったか! これからヘネシア捕獲作戦を取り行う!」

「ほ、捕獲?」

「ふふーん、此処だよ、此処」


ユークは僕の前で胸を叩いた。何とも弾まない胸だ。僕は生唾を呑んだ。


「先輩、俺、できる気がします!」

「そうか! これは頼もしい! 私はここからバックアップをする。何かあったらこちらに信号を送れ!」

「了解です」


出会った時のあの怯えは何処に消えてしまったのだろう。食堂で明らかに浮いている2人を見て僕は思った。とりあえず、僕は受付が終わる前に夕食を捕獲するか。


「来たぞ、カウル! ヘネシアだ」

「え、な、何か緊張が」

「大丈夫だ、行って来い!」


ユークは以前と同様に緊張しているカウルを今度は逃がしはしまいとゴルガイアノスに抓みあげさせてヘネシアの方に投げた。ふわりと宙に浮いたカウルにその場にいた隊員の視線が集約される。その視線の中にヘネシアの視線もあった。


ヘネシアが顔を上げた頃には叫びながら自身に向かって飛んでくるカウルが目と鼻の先にまで迫っていた。


「大丈夫? ごめん、メルさん!」

「うん」


カウルはヘネシアに覆い被さりながら叫んだ。ヘネシアは少し驚いた様子で仰向けに倒れていた。丸い目に真っすぐと見られたカウルは途端に恥ずかしくなって目を逸らした。


「あ、ごめん、退けるね」


カウルは立ち上がると、恐る恐る手を差し伸べた。ヘネシアはそれに気が付くと、同じように恐る恐る手を伸ばして握った。カウルには意外と小さな手だった。


「大丈夫?」

「うん」


ヘネシアは困惑しながら自分の身体についた埃を払った。


「ありがとう、ルータ君」


ヘネシアはそう言って、カウルの横をするりと抜けようとした。


「待って、メルさん」


カウルは声を荒げてヘネシアを呼び止める。食堂の騒めきが一瞬だけ途切れる。ヘネシアとユークと僕だけがその様子をまじまじと見ていた。


カウルは今までにないほど頬を赤く染めながら、ヘネシアに向かった。そして、勢いよくこう言った。


「あの、特殊生物シミュレーション、いつか一緒にしませんか?」


不意を打たれたような表情のヘネシア。それでも恐らくこの表情の分類は無表情だろう。ヘネシアは少しの間を空けてカウルに1歩近付いて「いいよ」と返した。


僕はガッツポーズをしながら夕食を掻き込む。ユークも同じようにガッツポーズした後、ゴルちゃんを撫で回した。ゴルガイアノスは相変わらず無愛想な顔だった。


ヘネシアは嬉しそうなカウルを見ながら少しずつ離れ、食堂のおばちゃんの方へ向かった。


カウルはそんなヘネシアの背中を見ていた。


ユークはカウルの背中を思いっ切り叩いた。


「よくやったな、カウル! 何もかも完璧だよ!」

「先輩! 俺やりましたよ!」

「これでいつでもヘネシアと遊べるぞ!」


2人は食堂に面する廊下で誰よりも騒いだ。


僕も初めてヘネシアが笑ってくれた時はあれくらい喜んだんだっけ。古い感傷に浸りながら、それをおかずに僕は夕食を進めた。


勢い余って泣き出してしまうカウル。それを驚きながら介抱するユーク。


「今日はカウルと深夜の食堂で夜食でも食うかな」


僕は食べ終えた夕食を持って、おばちゃんの元へ向かった。



第16話 勇気を振り絞って


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