第14話 年上とは何か
「目標を発見、どうしましょう先輩!」
「凹垂れるな! さっき言ったことを頭の中で復唱しながら奴に話かけるんだ!」
「もし、失敗して『うん』としか言われなかったらどうしましょう!」
「ばーか、初めから失敗の可能性を考えてどうする。気合だ! お前それでも男か? だとしたら根性も【生殖器】も足りないよ!」
食堂の影に隠れてユークとカウルが何やらごっこ遊びをしている。
どうやらヘネシアが食堂にやって来たらしい。ヘネシアの姿を見るなりバタバタして隅に隠れたものだからヘネシアも流石に気付いたと思ったのだが、ヘネシアは食堂のおばちゃんに分かるように無言で定食を指差した。
なぜ、あれがバレない。
「あれは最近へネシアがよく注文する『サラダ定食』だね。白米以外野菜で構成されている彼の定食は健康にも女の子にもいい。まさか、ダイエット?」
「さすが先輩! そんなことまで!」
僕もこうしてユークの背中の後ろに身を隠してしまったわけだが、後ろは後ろで廊下だからとても恥ずかしい。先程から他のクラスの隊員や使い魔に変な目で見られている。
「行けるか、ルータ! 今から出撃命令を下す!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 心がメンテナンス不良です! 動作しません!」
「なんだと?」
「先輩! 少しの間でいいですから、夕食時にもう一度、ではダメですか?」
ユークは驚いた表情を貼り付けて振り返った。そこには真剣な表情。ユークは言葉に詰まった。
「し、しかし、私には終日用事があるんだ」
「そんなぁ」
カウルはユークとヘネシアを交互に見ながら、歯を食い縛った。
「いいんじゃないか、ユーク。お前、年上なんだろう?」
そこへ廊下から一段といい声が聞こえた。その声の主は僕の前に立つと黒い布地の白衣を揺らがせた。不死川上官だった。
「上官! どうして、此処に――」
「見つけたんだよ、君の可愛いお尻をね」
「なッ――」
ユークはその場に屈んだ。顔を赤らめることは無かったが「訴えますよ」と僕の方を指差した。恐らく、これは僕ではなく僕の父を表しているのだろうとすぐに分かった。
「冗談、冗談。で、後輩君と放課後に何やらするようだが」
「え、えぇ。少し作戦を」
ユークはカウルの方を見た。カウルは不死川上官の蒼い目を直視できず、俯きながら「ヘヘヘッ」と引きつった顔で笑った。
「ほぅ、作戦か。何やら壮大そうで何よりだ。ユーク、君が立てた作戦なら、君が完遂させなさい」
「しかし」
「大丈夫だ、終日に間に合えばいいさ。それまでの準備やらは輪に任せるよ。その代わり、絶対に遅れるなよ?」
不死川上官はユークに優しい笑みをかけた。僕はその一部始終を無銭で見ていた。
「年上は格好よくあれ、だろ?」
不死川上官はそれを言い切るか切らないかくらいで踵を返して廊下の先に消えた。
ユークは狐に抓まれたような顔をしながら「年上」と呟いた。あの上官の言葉は確かにユークへの言葉に聞こえたが、不死川上官が自分に言い聞かせたようにも捉えることはできた。
「分かったよ、上官。完遂すりゃあいいんでしょ?」
「先輩!」
ユークはカウルの方を見て神々しくこう放った。
「夕食の時間、走って来い。私がお前の最期、確と見届けてやる」
最期?
カウルは嬉しそうにユークに頭を下げた。何度も何度も。
「あの、そろそろ帰ってもいいですか?」
遠くでヘネシアの「ごちそうさま」が聞こえた。ヘネシアにとっては平和な昼食になったようだった。
第14話 年上とは何か