第13話 作戦は密かに
「で、これがその友人?」
背中を向けたまま放たれたユークの鋭い声を聞いて思わず僕の後ろに身を隠すカウル。
ユークの頭上でゴルガイアノスが冷たい視線を送る。此処まで威圧的なユークさんは初めてだ僕も少し怯んでしまう。あの時、夢に見たユークのイメージが強すぎるのかもしれない。
「お、おい、ヘネシアの専門家だって言うから紹介してくれって言ったのに何だよ、この禍々しいオーラとあの怪物は」
「ほ、本当は優しい人なんだよ、本当」
僕とカウルは小声でゴルちゃんの威圧に耐える。
するとユークが作業を終えてこちらに振り向く。
「で? 何が知りたいの?」
両手にそれぞれ大盛の白米と表面張力でギリギリ零れない麦茶を持っているユーク。僕らの恐怖は少し和らいだ。
3人で食堂の一角にあるテーブルに座って話し込む。昼食の時間に合わせて会ってくれるユークさんには感謝しかない。あとでもう一度お礼を言っておこう。
「えっと、実はこの子がヘネシアと仲良くなる方法を僕に『教えてくれ』って来たんですが、一番はやっぱりユークかなって思って」
「えー? 厄介事を私に押し付けているようにしか聞こえないよ、それ」
ユークは運んできた昼食を自分の口とゴルガイアノスの口に交互に運びながら言う。それに被せるようにカウルも恐る恐る口を開いた。
「専門家さん!」
「専門家さん?」
「俺はヘネシアと話をしてみたいんです。少しでいいんです。彼女の『うん』以外の声を聞いてみたいんです。お願いします」
僕と話した時より真剣になっている気がした。
そんなカウルを見てユークは大笑いをした。予想外な反応にカウルも少し頬を染める。
「分かった、分かった。君の意気込みが此処までだとは思っていなかったよ。半端な覚悟なら門前払いにでもし腐ってやろうと思っていたんだけどな」
ユークは麦茶を豪快に飲み干すと口元を拭った。するとユークは椅子の上に立った。
「私は君の熱量にやられた! 仕方ないから教えてやろう、ヘネシアの『弱点』ってやつを!」
「はい! よろしくお願いします、先輩!」
僕はノリノリな2人を少し遠くから見ることにした。何か、嫌だ。
「まず初めにだけど、君はヘネシアの好きなもの、何だと思う?」
「好きなものですか。女の子だし、花とかですか」
カウルは首を傾げながら1つ例に挙げた。しかし、ユークは首を横に振った。
「チッチッチッ。違うぞ、ルータ君。そんな可愛らしいものを彼女が好きになるわけがないだろう? もっと、もっと雰囲気と合わないものさ」
カウルは顎に手を当てながら考え込む。
「雰囲気に合わないもの。あの雰囲気に合わないものなんて、あるのか」
「あるとも。花や小動物、あ、野生動物は意外と好きだったりするけど、それを含まないとすると正解はただ1つだ!」
ユークは僕とカウルの顔色を伺いながら、周囲に漏れてしまわないように声を抑えて呟いた。
「それは、『戦闘シミュレーション』だよ」
「ええっ! 花より戦闘シミュレーション?」
カウルは大きな声を出した後、すぐさま口を覆った。ユークも驚き、咄嗟に頭上にいたゴルちゃんを手に取ってカウルの頭に振り下ろした。僕は少しだけ目を瞑ったが、ゴルガイアノスも驚いた顔をしていた。
「大きな声で言うな! 私が小声で話した意味がなくなるだろ!」
「すみません、驚くとつい声が大きく――」
カウルは申し訳なさそうに頭を押さえた。
「とにかく、『戦闘シミュレーション』がヘネシアの好きなもの兼、『弱点』だ。誘われたら絶っっ対に断らない! 試してみたまえ」
ユークはウインクをかました。
第13話 作戦は密かに