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初恋の女の子を助けたら人生変わった! 初恋の子も幼馴染も大切にしたいけど一人で消えます   作者: 野良うさぎ(うさこ)


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9/17

最後の夜?


 目が覚めたら夕暮れ時になっていた。


 どうやらベンチで寝ていたらしい。

 なぜか気分が良い……


 身体を起こすと、ベンチの前で座って話し込んでいた玲子達が俺のところへ飛んで来た。


 夕日に照らされた玲子と楓の顔がいやに綺麗に見える。


 俺がみんなに謝ろうとしたら玲子は首を振った。

 そして、優しく俺のシャツの袖を掴んだ。


 楓はもう片方の俺の腕を取って離さない。


「……待っててくれてありがとう」


 みんな無言で頷いてくれた。

 無駄な言葉を喋らない。心地の良い時間であった。


 委員長が俺たちに告げた。


「もう帰ろう。みんな待ってるぞ!」


 俺たちは保養所へと帰ることにした。






 俺は自分に起こった事をちゃんと認識している。

 みんな気が付かないふりをしてくれたのかな?


 俺の弱さをさらけ出してしまった。

 まさかこんなにも弱っていたなんて……


 でも、自分の弱さを否定出来ない。

 改めて自覚した。


 俺は弱い。


 そしてその弱さが玲子達を傷つけるかも知れない。




 ――よし決めた。今夜旅立とう。ちゃんと手紙を書いて、誰も俺の事を知らない土地に行こう。そしてそこで俺の余生を過ごそう。




(――正樹。すまんのじゃ……)


 ――ん? どうした?



 呪いはそれっきり喋ってくれなかった。








「ちょっと大変だよ! 先生が温泉まんじゅう食べすぎてお腹壊して病院送りだって!! 今日のフレンチは先生しか作れないよ!」


 保養所に着くと田中君の悲痛な叫びが聞こえた。


 田中君と話すのは嫌だから、近くのミヨちゃんに状況を聞いた。


 どうやら今夜のフレンチは先生の頭の中でしかレシピがないらしい。

 そして数人いる助手の先生達は一切関わっていないから作ることが出来ないようだ。


 ……今日の夕飯はカップ麺か。


 俺は田中君の叫びを無視して、そんな事を考えていた。




 楓が突然とんでもないことを言い出した。


「あれ? 正樹って、確か先生の手伝いをずっとしてたよね? 用意とか計量とか……作り方とか分かるの?」


「……一応流れは分かる。箱根に来る前も手伝ってあげたからな。……おい、まさか」


 玲子が俺の言葉を遮った。


「正樹! どうせ食材があるんだから私達で作ろうよ! へへ、料理は得意なんだ!」


 玲子? 少し明るくなったのか? 記憶が……戻っているわけではないか?


 委員長も盛大な拍手をした。


「おお! 名案だ! 正樹君、私達に指示を出してくれ! 大いに手伝うぞ!」


「マジかよ……」



 言葉では嫌がっている俺がいる。


 だけど、本心では作ってみたいと思っている自分がいる。


 ――最後だから……自分の好きにやってみるか……


 俺はみんなを見渡した。


 目に輝きを取り戻している玲子。

 なぜか上機嫌の楓。

 意味もなく元気な委員長。


 ――もしかして今日が俺の人生の中で一番楽しい時間だったのかもな。



「……よし! 俺が作ってやんよ!」



 今まで俺が関わった戦いと全く違う戦場に立つことになった。

 これは誰も傷つかない。

 嫌な気分にならない。


 こんな戦いは生まれて初めてじゃないか? ナイフも飛んで来ない。後ろから刺されない。大人の汚い駆け引きもない。


 自分と食材の真剣勝負。そこに暗い闇はない。


 俺はいつの間にか気分が高揚していた。









 うちのクラスは五十人弱生徒がいる。引率の先生一人と助手の先生一人。

 この人数の料理、しかもコースを作るとなると大掛かりな作業工程になる。


 だけど俺は新宿二丁目のフレンチでずっとバイトをしていた時もある。

 ガキの頃から食に携わってきた。


 望むところじゃないか!






 俺はまず生徒達にテーブルとシルバーのセット、飲み物の準備をお願いした。

 そしてその間、助手と玲子達三人に作業工程の説明をした。


「今日のコースはフルコースだ。アミューズ、前菜、スープ、魚、肉、プレデザート、デザート、そしてお茶とお茶菓子だ。 一気に五十人分作るのは不可能。一テーブル10人前単位で作るぞ」



 助手の先生はテンパっていた。なにせ専門学校を卒業したばかりで、全く実務経験が無く、役に立たない。だけど、この瞬間はキリキリ動いてもらうぞ。



「料理の皿は生徒達で下げてもらう。飲み物もドリンクスペースを作ってそこで自分でついでもらう。俺たちは料理に集中するぞ!」


「は、はひ!! せ、先生がんばりまじゅ!」


 俺はテンパった助手を無視して各自やることを伝えた。





 キッチンの作業はチーム戦だ。


 個人が突出していても美味しいものは作れない。

 俺がこのチームの監督兼プレイヤーだ!


「よし、作業に取り掛かるぞ!」


「「「はい!!」」」







 俺は絶え間なく指示をだした。


 アミューズ(お通し)は箱根の野菜をスティック状にカットして、味噌のソースとの組み合わせ。


 スープはフレッシュのとうもろこしを使った冷たいスープだ。


 これは簡単な作業だから委員長と助手の二人に教え込んで、提供するタイミングだけ指示をだした。


 俺と玲子と楓は前菜とメインの準備にかかりっきりなった。


 前菜は、フォアグラのパテをカリカリにトーストしたパンに乗せてサラダをちらした物だ。

 これに特製コーヒーソースを皿に綺麗に描く。


 魚料理は脂ののったイサキとエビをポワレ(焼く)して、爽やかな柑橘とレモンのソースの組み合わせ。香辛料を大量に使い、香り豊かな一品に仕上がっている。


 玲子がせわしなくソースを魚にかける。


 ――中々動きがいいよな。料理好きって言ってたのは本当だったんだ。


 初めはぎこちなかった動きが、いつしか堂に入ってきた。


 魚をバターで焼く音がする。


 包丁のリズミカルな音が聞こえる。



「はい出来たよーー!! 三班持ってって!! 召し上がれ!」



 まあ、俺と先生が本気で準備したからね。

 焼き加減と提供タイミングを間違えなければ大丈夫だ。



 俺は肉を焼く作業を楓に任せた。


「楓、任せたぞ。俺はデザートの準備をする」


 キレイな焼け目の鴨肉を皿に盛り付ける。赤ワインを煮詰めた甘いソースとの組み合わせだ。


 楓の真剣な表情は美しかった。


「おっけー! あ、雫達の仕事が終わったからこっち手伝ってもらうわ! 玲子ちゃん、正樹のデザート手伝って!」


「う、うん!!」



 一瞬胸が跳ね上がった。

 鼓動が早くなるのが分かる。


 ――大丈夫。最後だから気にするな。……仮面を外しても大丈夫だ。






 プレデザートはお口直しの小さな冷たいデザート。


 冷やしカクテルグラスにかき氷状のスパークリングワインを乗せて、そこの上にさくらんぼうのシャーベットをスプーンで綺麗に丸く盛り付ける。


「ひゃい! わ、わたし持ってきます!」


 助手が気合を入れて待機していた。


 玲子がかき氷を乗せる。


 俺がシャーベットを盛り付ける。



 二人に会話はない。

 真剣にデザートと向き合っている。





 メインデザートの番になった。


 俺はこの時本当に先生を恨んだ。

 あいつはスフレをデザートとして選びやがった!


 スフレは卵白を泡立てたメレンゲとカスタードみたいなベースを合わせたもの。

 難易度は最上級。

 ミスするとすぐにしぼんでしまう。

 レストランとかホテルでは中々作らないデザートだ……


 俺と玲子は顔を見合わせた。


 ――よし、行くぞ!


 玲子が可愛らしいココット型を並べてくれた。

 そこにチョコレートを忍ばせる。


 俺はメレンゲをミキサーで立てていた。

 タイミングを図る。


 ――今だ!


 最高のタイミングで俺はメレンゲとカスタードを合わせる。


「玲子! よろしく!」


「任されたわ!」


 俺は次のスフレを作る。


 玲子は俺が作ったスフレを型に入れて、パレットナイフで綺麗に山を作る。

 そしてオーブンへ入れた。


 俺たちはこの作業を延々と繰り返した。




 最後のスフレが焼き上がり、コースはお茶とお茶菓子だけになった。


 あとは生徒達が自分達で持って行ってくれる。


 生徒たちからは歓声がずっと聞こえていた。


「これすげえうめーよ!」

「マジで甲賀たちがつくったの? スッゲ!」

「デザートも超うまいよ!」

「やば、おかわりないの!」

「ていうか先生最悪〜」

「甲賀!! 片付けは俺たちがやっておくからな! 後でゆっくり食べてくれよ!」





 俺たちは厨房で座り込んでしまった。


「つ、疲れた……」


「うむ、まさかここまで大変だとは思わなかったぞ!」


「へへ、楽しかったね……」


「ありがとうございましゅ……始末書書かなきゃ……」



 俺も気分が良かった。

 厨房はまさに戦場だった。


 怒号が走り、一分一秒の単位で料理とデザートと向き合い、終わりが全く見えない戦いであった。


 心地よい汗にまみれた。


 ――ああ、やっぱり俺は食の道に進みたかったんだな。……お菓子屋……開いてみたかったな……


 だけど、これで俺の心は完全に満たされた。






 俺の近くでへたりこんだ玲子が、俺に体当たりした。


「うぉ!? あぶねーだろ! ……全く……」


 玲子は仏頂面で俺に向かって両手を差し出した。


「ん……ん! ん! ちょっと、なんでタッチしないの!?」


 ああ、ハイタッチか……そんなの初めてだな。




 俺は恐る恐る玲子にハイタッチをした。

 玲子の手に触れる瞬間、玲子は俺の手を掴んだ。


 しっかりと掴みながら、俺の心を食い破るような魅力的な微笑みをくれた。



「へへへ……もう逃さないからね……正樹君……というか消えないでね。……絶対私の前からいなくならないで……逃げたら地の果てでも追うわ……」



 俺は突然の事で動けなくなってしまった。





 動揺している俺の無視して、楓が後ろから俺に抱きついてきた。



「ふふふ、そうよ。絶対逃さないわよ。……ほら、早くご飯食べましょ! 冷めちゃうわ! あ、私達の分のスフレもちゃんと作ってね! ……わかってるわよ。あんた今夜どっかへ逃げようと思ってたでしょ? 絶対絶対逃さないわ!」


 突然の事で頭がついて行かなかった!?

 む、胸が……楓の巨乳が……


 とういうかなんで俺が消えようとしたのを知ってるんだ??


 玲子が握っている手も尋常じゃなく力が入っている……




「むむ……なにやら楽しそうだな! 私も参戦するぞ!」


 委員長が暴れんばかりに爆乳を俺の顔に押し付けて来た……



 ――どういう事だ!? い、息が……



(――正樹、すまんのじゃ……儂、しゃべっちゃったのじゃ……)






 俺はその夜、玲子達の部屋に拉致されてしまった……







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