初恋を忘れない
俺は玲子ちゃんと二人っきりでディスティニーランドに来ていた。
園内のイメージキャラクターの鳥みたいな何か『フィロ』が大仰に出迎えてくれる。
ここは異世界をモチーフにしたテーマパーク。
数多の世界を救った主人公とその仲間達の勇姿をショーやアトラクションで体験できる。
「あ! あそこに骸骨さんがいるよ! わわ、従者も勢揃いだね! 死に戻りの人が『パックンクン』と歩いているよ! 後ろにいる鬼のメイドさん二人が超かわいい……」
玲子が園内をかけだそうとする。
「まあ待て、時間はたっぷりある! さあ楽しもうぜ!!」
俺と玲子は顔を見合わせて、一斉に走り始めた。
勇者召喚の転移に巻き込まれたモブキャラを追体験できるVRアトラクションや、ドラゴンに乗った気分が味わえるジェットコースター。
地下墳墓に侵入するお化け屋敷。スライムを疑似体験できるアトラクション。中二病全開で銃を撃ちまくるアトラクション。スキルを疑似体験できるイベントスペース。異世界のお姫様になれるコスプレ館。
底辺領主になりきって、牛を使って世界を破壊するゲーム。JKと一緒にゾンビを倒しまくるゲーム。ダンジョンに潜って冒険者気分を味わえるアトラクション。悪役令嬢を回避する未来を選ぶ占い館。
とても一日じゃ回りきれない。
「ほら正樹君! 次行くよ!!」
「おわっ!? ちょ、ちょっと待てよ!!」
俺の袖を引く笑顔の玲子。
その笑顔を見ると俺の心が温かくなる。
――記憶を失っても絶対好きになるんだな……不思議なもんだ。
俺はノートを見て、前の俺が玲子に一目惚れした事に驚きもしなかった。
――だって好きになるのに理由は無い。
袖を引く玲子と園内を歩く。
まるで異世界の城下町に来たような錯覚に陥る。
通り過ぎる人達のほとんどがコスプレをしているため、パチもの感が全く無い。
「あれ? 胸に紐が食い込んでいる女神様がいるよ? あれってディスティニー系だっけ?」
「ああ、あれは一時期だけディスティニー系だった。うーん、まあ気にすんな! お、『君肝』のヒロインもいるぞ!」
「綺麗……はぁ、ため息でちゃうわ。――ちょっとお腹空いたわね? 異世界居酒屋と異世界食堂、どっちがいい?」
「また難しい質問を……俺は……薬屋のドキドキ毒味レストランがいいな……」
「うん、じゃあ中華だね! わーい楽しみ!!」
俺達はディスティニーランドを満喫していた。
本当に楽しかった。
だけど……
これを真実にするために……
俺たちはご飯を食べた後、神々の丘で休憩することにした。
丁度ぽっかりと空いたベンチに俺たちは腰をかけた。
玲子との距離は近い。だけど触れ合わない距離。
丘の上はディスティニーランド全体を俯瞰できる。
浮遊魔術を使って(ゴンドラ)ここまで来た。
心地よい風が吹く。
肌寒いけど、天気もよくて最高の気分だった。
――玲子が隣にいるからかな?
さて……ここが正念場かな?
――おい、聞いてるか?
(―――――)
まあいい、俺が一世一代の告白をしてやるよ!!
俺は玲子に語りかけた。
「玲子。……俺はお前に会えて幸せだった」
「正樹くん?」
「玲子との学校生活、玲子とのカフェ、玲子との毎日はいつも新鮮で楽しかった……」
袖を握る玲子の手の力が強くなるのがわかる。
「俺は玲子が好きだ。大好きだ」
「ま、正樹くん……わ、私……」
戸惑っている玲子を無視して、俺は玲子の言葉に被せてそのまま続けた。
「俺が初めて玲子を見たあの神社……あの時、俺は玲子に恋をした」
「神社……」
俺は笑い出した。
「ふはははっ! 玲子はやっぱり可愛いな! ていうか前の俺は本当に凄い奴だったな。まさかあの状況を乗り切るとはな! ――玲子、安心しな。俺が……俺がアイツを連れてきてやるよ!!」
「ま、正樹君……やっぱり……」
――バカ! そんな悲しそうな顔するなよ!! ほら玲子が泣きそうだぞ? さっさと出てこいよ!!
(――うるさい)
「はぁ……あいつは強情なんだよ。ったく、俺たちは本当の幸せを掴むんだろ? ほら抵抗すんな」
俺は身体が麻痺した様に動けなくしまった。
――強情だね……
俺は玲子ちゃんにお願いをした。
「玲子ちゃん、多分俺はこれで最後だ。といっても死ぬわけじゃないから大丈夫。……俺の事を抱きしめてくれないか?」
玲子ちゃんは俺の事をまっすぐ見つめた。
ああ、この瞳が本当の玲子ちゃんだったんだな。
見れて良かった。
恐る恐る俺の身体に無言で抱きついて来た。
柔らかい感触。
良い匂い。
心が……溶かされる。
――おい、てめえは誓ったんだろ?
――無事に戻って幸せになるって?
(――――)
俺の事を気にしているのか? このバカチンが、玲子ちゃんはお前が好きなんだよ! 俺じゃねぇんだよ!
だから俺を食らって戻って来い!!
どうせ俺はお前の一部だ!!
お前と一緒になるだろ!!
最後の力をふり絞れ!
これが本当の自分との戦いだ!!
俺はゆっくりと目を閉じた。
――忘れるな。
――玲子の体温……手のひらの温かさ……柔らかい身体……無垢な心……触れ合った唇の感触を……
(――忘れるものか)
――そうだ。
(俺は誓った)
――ああ……
――俺は……甲賀正樹。
――……。
――俺はお前だ。お前は俺だ。
――ありがとう……
(ははっ! いいってことよ! どうせ俺だからな!!)
俺の心が一致する。
コイツの想いが俺を侵食して、身体に染み渡っていった。
俺の意識が浮上する。
身体の全細胞から力が湧き出るのが分かる。
――ああ、世界を認識した。
俺は目を開けた。
異世界の風景が俺の目に飛び込む。
幻想的でとても美しかった。
俺の顔に玲子の髪が当たる。
とても良い香りがする。
玲子の身体が一瞬ビクッとなった。
玲子が顔を上げて俺の方を向いた。
「ま、さ、き……くん? え、正樹くんだ……やっと帰って来れたんだ……」
俺は玲子の頭を優しく撫でてあげた。
そして玲子に告げる。
「――ただいま玲子。……大好きな俺の初恋の人」
玲子の抱きしめる力が強くなる。
「正樹、正樹!!! わ、私の初恋の人……大好きな人……もう二度と私の前から消えないで!!!」
泣きじゃくる玲子が俺の唇に自分の唇を重ね合わせた。
俺たちは本当に一つになった。
(――よっしゃ!! 流石俺! じゃあ幸せになれよ! 俺はお前の中でゆっくりとお前と同化するわ!! ――じゃあな!)
――ああ、ありがとう……
そして、俺と玲子はいつまでも抱きしめ合った。
どのくらいの時間がたったのだろうか?
俺と玲子は神々の丘のベンチでやっと我に返った。
俺と玲子はお互い顔が赤い。
もじもじしている玲子がとっても可愛い!
「れ、玲子……今まで心配かけてごめんな。ていうかいつから分かったんだ?」
玲子は乱れた髪を直しながら答えた。
「え、そんなの神社の時よ。だって正樹の気配が全然違ったもの。あ、でも多分私しかわからなかったわよ? ふふ、私はずっと正樹だけを見てきたんだからね!」
「そっか……俺は全部やりきったんだな……」
玲子が不敵に笑った。
「ふふふ、まだでしょ? ねえ、もう一回正樹からちゃんと告白……してくれないかな……」
唇に手を当てながら潤んだ瞳を俺を見た。
俺は佇まいを直し、玲子の目をみて俺の思いを伝えた。
「俺の大好きな玲子……俺と死ぬまで……いや、俺と一緒にずっと生きてくれ! ずっとずっとだ! 何が起ころうと俺は玲子を幸せにする! だから、だから……俺の生涯の伴侶になってくれ!!」
玲子の瞳から一筋の涙が流れる。
「ばか……私だって病室にいた時からずっと好きなのよ。一生、正樹の横にいるわ……何があろうと私は正樹がいれば幸せになれるわ!!」
玲子が抱きついてきて再び口づけをする俺たち。
俺は身体で玲子を感じる。
俺の人生は犠牲ばかりだった。
それでも俺はみんなを幸せにしたいと願った。
奇跡は待っていても起こらない。
起こらないなら行動するしか無い。
俺は玲子と幸せになることが出来た。
もしもこの先、どんな苦難があろうとも俺は乗り越える。
俺はこれから本当の幸せを手に入れるんだ!!!
(完)
あれ、儂の出番は終わり???
悔しいのじゃ!
儂の正樹が玲子に取られたのじゃ!!
あ、親父がくるのじゃ……や、止めるのじゃ! 儂はそんなフリフリの服は着ないのじゃ!!
……ふう、ふう、ちなみに儂は小学校に通っているのじゃ。今六年生なのじゃ! 周りはガキどもばかりだけど、儂は毎日たのしいのじゃ!
――正樹、ありがとうなのじゃ……本当に感謝しているのじゃ!!
完結しました!
ここまで読んで頂きありがとうございます!
評価頂けたら嬉しいです!
反動でゆるく書いた新作です!
絶対勘違いしない男子
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