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初恋の女の子を助けたら人生変わった! 初恋の子も幼馴染も大切にしたいけど一人で消えます   作者: 野良うさぎ(うさこ)


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15/17

代償

 

 俺の身体から何かが消失していくのが分かる。


 ……耐えろ。まだ早い。


 呪いを抱きしめる力を強くする。


 ――願え。


 俺はコイツラと幸せになるんだ。




 俺は全力で願った。


 こいつを幸せにするんだ。


 玲子とまた一緒に歩くんだ。


 楓に二度と心配をかけないんだ。





 やがて呪いが俺の身体の中に消えていく。


 暗い闇の中で俺は一人になった。





 身体がきしむ。

 俺の力が抜けていく。

 激痛がいつの間にか何も感じなくなっていた。


 頭からなにかがこぼれ落ちる感覚だ。



 ――そうじゃない。俺も無事に戻るんだ!!



 ――忘れるな。



 ――玲子の体温……手のひらの暖かさ……柔らかい身体……無垢な心……触れ合った唇を……



 ――大丈夫。この気持ちがあれば……俺は……絶対に……



 俺は深い柔らかい闇に飲まれていった。







 ***************







 なんだろう? 頭と身体がとても痛い?


 俺は身体を起こした。

 見渡すと、そこは神社の中のようだった。

 俺は自分の身体を確認すると、着衣がずたずたに破けていた……

 金属片が俺の周りに大量に散乱していた。



 ――なんだ? 俺はまたなんかやったのか? うん? なんかってなんだ?


 そして、俺の隣には倒れている女の子と、全裸の少女がいた……




 ――なんだこの状況は? 思いだせ……


 何も思い出せない……


 名前は? 住所は? 職業は? ……俺は誰だ?



 圧倒的な負の感情が俺の中で渦巻く。

 焦りと不安で心が押しつぶされそうになる。


(――一人じゃない……俺もいるぞ……今は任せる……)


 一人じゃないってなんだ!? 俺は記憶が失ったんだぞ? 


 俺は一人、膝を抱えて呆然と座り込んでしまった。





 突然背中に温かいぬくもりを感じた。

 柔らかい……良い匂いがする……

 それはとても懐かしくて……俺の心にやすらぎを与えてくれた。


 胸の奥底からこみ上げて来るものがある。

 俺はそれをなすがままに受け入れた。



「うおおおぉぉぉぉ……うぉぉぉ……ぉぉぉぉ……ぐっ……ひぐっ……」



 わけもわからない達成感に包まれる。


 ぬくもりの正体が肩越しに顔を出してきた。


 さっきまで倒れていた女の子だ……


 ――ち、近い!?




 俺の胸が飛び跳ねた!? 記憶喪失だけど今まで経験したことが無いくらいの衝撃だ……

 綺麗というよりも可愛い。というか顔じゃない。なんだこの子は……


 顔を合わすだけで心がドキドキする。

 胸が温かくなる……

 もうこの子の事だけしか考えられないなった。



 これは……俺の初恋だ!!!


 初恋の子が俺に泣きながら告げた。


「……ありがとう正樹。……ありがとう正樹」


 俺の背中で泣きながら何度も繰り返していた。



 ――俺は正樹……そしてこの子と俺は知り合いのようだ。


 俺の心が空気を感じ取る。

 前の俺がどんなやつだったかわからんが、この子を泣かせちゃ駄目だ。


(――そうだ、演じろ! お前は甲賀正樹だ!!)


 ――分かった……


 俺は無理やり記憶を掘り起こそうと試してみる。


 …………わかんねーよ!? くそっ!


(――感情のままに動け。それだけで十分だ……)



 俺は一目惚れの女の子に向き直って、優しく抱きしめてあげた……


(――そう……それでいい……)





 いきなり神社の引き戸が開いた。


「――正樹!! 大丈夫なの!? あ、玲子ちゃん! よ、良かった……儀式は成功したのね……刀がバラバラに……」


 大柄で胸が大きくてキレイな女の子が、俺の方へよろよろと歩いて来る。

 その顔はぐちゃぐちゃに崩れていた。

 だけどとても綺麗に見えた……

 彼女からの愛情が伝わる。


 ――なんだよ……今度は胸が締め付けられる思いじゃねーかよ……



 彼女は呟いた。


「あれ……裸の女の子……もしかして……呪いちゃん? ――本当みんな助けちゃったんだね……正樹は凄いな……」


 呪いちゃんと言われた少女も起き上がりだした。


「う、うぅーん……ここはどこじゃ? あの世……ではなさそうなのじゃ……あ!? ま、正樹!! 大丈夫なのか!? 身体はどうなのじゃ!!」



 三人の瞳が俺に集まる。



(――絶対悲しませるなよ)



 ――ああ、それだけは俺も理解できる。絶対記憶が失ったことは秘密だ!! 


 平気な顔をしろ。どうせ慣れているはずだ。

 乗り越えろ!


 俺は心からの笑顔を三人へ向けた。



「ああ、心配かけたな! 俺はもう大丈夫だ! ……良かった……本当に良かった……もうこれで……」


 あれ? なんで俺泣いてるの? 身体が心に引っ張られる。


 ――ああ、もうどうでもいいや!! だって嬉しいんだよ!!






 俺たちはひとしきり泣いたあと、一目惚れの子、玲子ちゃんの親父さんに報告会を開くことになった……


 呪いちゃんはとりあえず楓さんのジャケットを羽織っている。


 さっきから呪いちゃんの視線が痛い。


 呪いちゃんが玲子ちゃんたちに告げた。


「玲子……先に行ってくれ。儂はすぐに後を追う。こやつと呪いの影響を少し話し合いたい」


「うん……わかったわ。お茶入れて待ってるね」


「茶菓子もよろしくなのじゃ!」


 二人はおとなしく隣にある玲子ちゃんの家に向かっていった。


 呪いちゃんが俺の方を向く。


「さて……正樹……主は本当に大丈夫なのか? 儂は信じられないのじゃ? ……これは奇跡に近い所業じゃ。儂がこの世界に生身の身体でいられるのじゃ……しかも身体から正樹の力を感じるのじゃ……」



 ――そんな事言われても俺はわからん。


「ああ、本当に大丈夫だ。ふう、本当にお前は心配性だな……俺に任せろよ! あ、俺バッグ取ってくるから先に行ってろよ! すぐ行くからさ!」


「……分かったのじゃ……正樹……本当にありがとうなのじゃ……」


 呪いちゃんは照れくさそうに赤くして走り去っていった。



 ――さて。


 俺は自分のバッグを見つける。


 ――多分これだろう。神社に似つかわしくないバッグ。


 心に赴くままに行動した。

 俺は自分のバッグから一冊の分厚いノートを取り出した。



 ――これか……どれどれ。



 ページをめくるとデカデカとした文字が書いてあった。



『もしも記憶喪失になったら読め! 全て頭に叩きこめ!!』



 どうやら前の俺はイカれた男だったようだ……













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