呪い
俺は走った。
玲子の親父さんから、儀式をする日は満月の今夜だと聞いていた。
……本当は玲子と相談できればよかったけど……俺の腹に刀が刺さるなんて言ったら無理だよな……
俺は走りながら、この数週間の玲子との思い出を振り返っていた。
――学校楽しかったな……玲子が作った細工物が先生に褒められて喜んでいる玲子が可愛かったな……
――玲子と楓と登下校する毎日……いつも笑い合っていたな……
――俺の呪いを解明すると称して、色んな場所に二人で行ったな……
――ディスティニーランド、やっぱり玲子と行きたい……
だから玲子……二人で乗り越えよう……
花園神社が見えてきた。
俺は神社に乗り込む。
玲子があの刀を持って神社の座敷の中央に座っていた。
玲子の身体の周りに……黒いモヤが漂っている。
――なんとか間に合ったか……
玲子は目を閉じて瞑想をしていた。
俺は玲子の隣に座る。
玲子は微動だにしない。
不謹慎ながら、俺は玲子の姿を見て……綺麗だ、と思ってしまった。
俺は玲子の髪を触る。玲子は動かないままだった。
艶々な髪が心地よい感触だ……
俺は座っている玲子の手を優しく握った。
――想いが伝わる。
初恋だった玲子。
俺の大好きな玲子。
余命を知った時の悲しみ。
再会した時の苦しみ。
俺のために泣いてくれた時の喜び。
俺は玲子のために生きる残るんだ!!!
黒いモヤ……呪いが玲子の元へ収束していく。
(――ま、さき……頼んだのじゃ……儂は……あっ……)
俺は黒いモヤごと玲子を正面から抱きしめた。
玲子を通して感じる。
呪いの気持ちが分かる。
これが血筋?
これが呪い?
俺は玲子が持っていた刀をそっと手に取った。
俺の中にいた呪いが玲子に移動していくのが分かる。
呪いがゆっくりと玲子の身体を侵食していく。
……玲子……愛している……
俺は玲子に口づけを交わした。
玲子の口の中へ侵入していく。
玲子と一つになる感覚が分かる。
抱きしめる力が強くなる。
俺は……玲子に当たらないように……抱きしめた手で……刀を自分の腹に刺した……
視界が暗転する。
腹を刺した痛みなんて感じない。
闇が俺に襲いかかる。
俺はまるで闇を彷徨っている感覚に陥る。
負の感情が襲いかかる。
死の恐怖を感じる激痛が俺の身体を蝕む。
深く深く落ちていく感覚だ……
もう止めたい。
こんな苦しいとは思わなかった。
死んだほうがマシだ。
俺は激痛と精神を壊されるような感覚の中……ほんの少しのぬくもりを感じた。
――玲子のぬくもり。
俺は思い出す。
自分を犠牲にした日々。
呪いがいたから俺は死ななかっただけで、俺は何度も死んだ。
痛みは覚えている。
今感じている痛みとそっくりだ。
そうだ。俺はこの痛みを経験している。
思い出せ。
俺は玲子とともに生きるんだ……
こんな苦しみ……玲子と離れなければいけない苦しみに比べて……全然苦でも無い!!!
俺の愛をなめるなよ。
――そうだろ? 呪い……
着物の少女が俺の前に立つ。
これは意識の中か現実にいるのかあやふやだ。
でも感じる。
呪いが俺の前にいる。
困った顔をした呪いが俺に笑いかけてくれた。
「正樹……四年間楽しかったのじゃ……いままでありがとう……なのじゃ……」
呪いの目からは一筋の涙がこぼれていた。




