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04 トノウェイの町 Welcome to the colony

「ようこそ!ボク達のコロニー『トノウェイ』へ!」


樹林を抜けるとそれまでの光景とは打って変わって近代的な街並みが広がっていた。

幅の広い川を境界にして向こう側は俺がいた街よりも都会的な建物が立ち並んでいる。

川には1本の橋が架かっており街まで続いている。


「この川の名前は『コキュートス』。ギリシャ神話の冥府の川の名前からとったんだ。」


「不吉な名前だなぁ。」


「私達は平気だが、魔獣がこの水に浸かるとあっという間に溶かされてしまうぞ。」


アリスがスケサンに目配せする。

スケサンの柔らかな毛が一瞬逆立った。


「ボクが作った特殊な細菌を放ってあるんだ。

膝ほどの深さしかないけど、この街を守る堀の役割を果たしてるんだ。」


「スケサンは落ちないように気を付けなよ。」


マシューが不穏な視線をスケサンに送る。

スケサンの柔らかな毛が再び逆立った。


「じゃあ、行こっか!」


リズが皆を促す。

橋の幅は10mほどあり、俺達が並んで歩いても余裕のある大きさだ。

橋の両サイドには誤って転落しないように欄干がある。

橋も欄干も光沢のある石のような材質でできていた。

俺達の後ろをちょっと距離を取りつつスケサンがビクビクしながらついてくる。


「このコロニーはほぼ円形で半径約2㎞、面積にしておよそ12k平米。

コロニー内で食料を生産し自給自足してるんだ。

人口は約3万人、そのうちガイアから来た人が1万2千人くらいだったかな。」


「ガイア?」


「言ってなかったっけ?

ボク達は元いた世界を『ガイア』、今いるこの世界を『テラ』って呼んでるんだ。」


「ほえー。

じゃあ、他の1万8千人は元々のテラ人なの?」


「テラ人っていうか、人間とは異なる種族、亜人だね。

こっちの人間はボク達を毛嫌いしているから交流を持とうとしないんだ。

あっ、ちょうど向こうにいるよ。

迎えに来てくれたみたいだね。

おーい!」


リズが手を振った先を見ると、スーツ姿の金髪で端正な顔立ちの青年が手を振っていた。

ただ、顔が緑色だった。


「紹介するね。

ゴブリンのゴブランジェロ。

アリスの下僕だよ。」


橋を渡りきるとリズが緑顔の青年を紹介した。


「ようこそ。ガイアの方。

ゴブランジェロです。

アリス様の下僕を務めさせていただいております。

よろしくお願いいたします。」


ゴブランジェロと名乗ったこの青年。

満面の笑顔でおかしなことを言っている。


「ただの使用人だ。

誤解を招く言い方をするな。」


「ゴブリンは凶暴で女好きで狡猾な種族だから注意してね。

もし悪さしているのを見つけたら半殺しにしていいから。」


リズが当の本人を目の前にしてとんでもないことを言った。

しかも笑顔。


「間違いありません。

いつかこのコロニーを征服して蹂躙してやろうと目論んでおります。」


こっちも満面の笑顔でとんでもないことを言っている。


「さて、迎えもきたことだし私は行くよ。

では、またな。誉、弥。」


そうアリスが言うとゴブランジェロはサッと四つん這いになった。

その背中にアリスが腰掛け脚を組む。

アリスが乗ったことを確認するとゴブランジェロは膝を上げ、猛烈なスピードで街の中へと消えていった。


「えっと・・・。使用人?」


2人が去った方向を指差し、リズに問いかけた。


「下僕だよね。」


リズは笑っている。


「俺のイメージのゴブリンとずいぶん違うんだが。

もっと小柄で、醜悪な顔してて、ずる賢くて、邪悪な感じで、爪とか牙とかあるイメージなんだけど。

さっきのは顔が緑なことろ以外は女子の尻に敷かれて喜ぶ残念なイケメンって感じだったけど。」


「うーん。

ずる賢くて、邪悪だよ。

爪とか牙もあるけど必要な時以外は隠してるかな。

一応、致死性の毒も持ってる。」


あんな顔してそんな武器を隠してたのか。


「それってすごく危険なんじゃないの?

そんなのがここの人口の半分以上を占めてるなんて。」


「ボク達にはゴブリンの毒は無効だし、ボク達の10人もいれば1時間以内に1万8千人のゴブリンを殲滅することができるのだよ。

それに、盟約があるから大丈夫。

彼らはどうしてもここにいたいのだよ。

その代わりに労働力を提供してもらっている。

もし問題を起こせば永久追放。」


「盟約って?」


「アイドルグループ『ハイスクール桃色組』の親衛隊に入れてやる代わりに労働力を提供せよというもの。」


「は?」


俺が困惑していると、突然マシューが前に躍り出た。


「説明しよう!親衛隊に入隊すると、定期的に発行される会誌が届いたり、提供する労働力に応じて、イベントの良い席が優先的に取れたり、握手券、サイン券、チェキ券、Tシャツ、パーカー等が手に入ったりするのだ。

ちなみに俺はブルーのゆんゆん推し。」


彼のオーバーオールに付けられた、おそらくゆんゆんであろう女の子がプリントされた缶バッジを自慢げにアピールしている。

どうやら親衛隊というのはファンクラブのようなものだろう。

恐るべしアイドルの力。

弥が反応に困って唖然としている。


「ピンクのリーシャはまぁ、リーダーだから人気があるのは分かる。

でも俺はその横でサポートに徹するゆんゆんがツボなんだよ。

普段はクールなキャラなんだけど、イベントの時なんか俺達観客にも細かに気を配ったり、メンバーの様子を見て励ましたり!」


「ちなみに彼女たちは200年前から永遠の18歳なのだよ。」


素直にナノテクノロジーすごいなと思った。

とにかく、ハイスクール桃色組がいる限りゴブリン達はおとなしいというわけか。


「じゃあ俺は、報告しに戻るぜ。

最初は戸惑うことも多いかと思うけど、すぐ慣れるさ。

弥ちゃん!こんどイベント誘うからね!じゃっ!」


そう言うとマシューも行ってしまった。


「報告?」


「マシューはこのコロニーの警察機関である『リエス』の一員なのだよ。

保護活動の完了報告だね。」


あいつ、警察だったのか。

全然らしくない。


「彼らは戦闘に特化した武闘派だからね。

コロニーの外で活動を行うときには同行してもらうことになってるんだ。」


あいつが武闘派?

全然らしくない。

もしかして雷帝アリスよりも強いのか?


「ちなみに組織名の『リエス』っていうのはボクの母国ロシアの言葉で森っていう意味なんだよ。リーダーの八重森からとったんだ。」


リズはロシア人だったのか。

真っ白い肌、プラチナブロンドの髪、青い瞳。

確かにロシア人っぽい。・・・気がする。

警察のリーダーは八重森っていうのか。

日本人か。


「じゃあ、ボク達も行こうか。」


リズに促され、ボク達も街の中へと入っていった。


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