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02 再会 Lucky Encounter

俺は今、風になっている。


青く澄んだ空!

輝く太陽!

舞い飛ぶ天使!

それを追う巨大なチャウチャウ!

それにしがみ付く俺!

波打つ俺の顔面肉!


リズの仲間と合流するための道中である。

先程俺のペットとなった巨大なチャウチャウに乗っている。

ちなみにこのチャウチャウにはスケサンと名付けた。

どうもこいつを見ていると幼いころ飼っていたスケサンと被る。

なのでいっそ同じ名前にした。


「この世界の詳しいことは仲間と合流してから話すよ。

とりあえず移動手段も手に入ったことだし、キミはそのハウンドドッグに乗ってくるといいよ。

そのハウンドドッグは鈍足な種だけど追いつける速度で飛ぶから。」


なんて言ってたから軽い気持ちで言いなりになったけど、なんじゃこりゃ。

まともに呼吸もできない。

こんな速度味わったこともない。

クレームをつけようにも声を発することができない。

意識が置いてけぼりにされそうだ。

もし、意識失ったら死んじゃうパターン確定だよな。


まだわずか2,3分しか経過していないが、軽く10㎞以上は移動していると思う。

ていうか、そもそも徒歩移動の予定だったんだよな。

一体、何時間歩かせるつもりだったんだよ。


などと考えているとスケサンの速度が緩まった。

先導していたリズが降下を始めたからだ。

その先には2人の人物がいるのが見えた。

女生と男性が一人ずつ。


ようやく、というほどの時間も経過してはいないのだがリズの仲間の元へと到着した。


女性は中世のヨーロッパの女性が着るような裾の長いドレスに胸部や肩を覆うアーマー。

なんとも世界観がわからない格好。

対して男性の方はボーダーのシャツにオーバーオールという普通にラフな格好。


「もうホームシックか?半泣きではないか。女々しい男だな。」


「違うし!生死に関わる壮絶なスペクタクルを体験したせいだし!」


汗と涙と鼻水にまみれた最悪な初対面であった。


「相変わらずアリスは手厳しいな。突然知らないことろに飛ばされたのだからしょうがないよ。

俺はマシュー。こちらに来てしまったことはもうどうしようもない。

まぁ、どうにかなるさ。仲良くやろうぜ。」


マシューと名乗った男はそう言うとシシシシっと笑った。


「理解を超えた状況に身を置かれたときにその者の本性が垣間見える。

男であるのなら毅然としておくのだな。」


アリスと呼ばれたこの女性。

ツンデレからデレを取り除いたような人だ。


「それはそうとして、なぜ魔獣など連れている?」


「食料なんじゃない?」


マシューがシシシシっと笑うとスケサンはビクッと身を震わせ俺の背後に隠れた。

隠れきれてないけどな。


俺のことは見るなりエサ認定してたのに、マシューに対してはこの態度。

本能で何かを感じているのだろうか?

飄々とした感じだがひょっとして物凄く強いのか?

確かにこんな魔獣がいるところに来ているのに武器っぽいものは確認できない。


「こいつはスケサン。俺の友人です。食べないでください。」


本当に食料にされては困るので一応断っておいた。

俺に対するスケサンのリスペクト度が上がった。


「この子はジャパニーズボーイの天神誉君。いきなり魔獣を手懐けちゃったんだよ。」


「そう言えばいきなり日本語で話しかけてきたけど、よく日本人だってわかったね。」


「手を触れたときにDNAを読み取ったのだよ。」


「え?」


DNAを読む?

手を触れただけで?


「彼女は元の世界ではDNA研究の第一人者だったそうだよ。

ちなみにあの翼は彼女の研究の副産物といったところかな。」


なんの違和感もなく天使だと思っていた俺が恥ずかしい。

そう言えば2101年生まれとか言ってたな。

わずか100年でそんなに技術は進歩するのか。


「お喋りはおしまいだな。」


色々と聞きたいことがあるのだが、アリスが遮った。


「1日に2度とは珍しいね。西に20㎞といったところか。」


マシューがアリスと同じ方向を眺めながらそう言った。


「これは予期していなかったね。」


リズも同じ方向を眺めている。


「何があったんだ?」


「キミのように誰かがこの世界に転移してくる。

この300年、転移についてデータを収集し、統計的に解析した結果、誰かが転移させられてくるタイミング、場所をある程度予測できるようになったのだよ。

キミのもとにすぐに行けたのもそういう理由からさ。

だけど、これはあくまでデータからの予測にすぎない。

稀に想定外の転移も確認されている。

今もほら、見てごらん。

あっちの方に磁場の歪みが発生している。

あの歪みは転移が起こる前兆として発生するんだ。」


見てごらんと言われても俺にはそんなもの見えない。

すごいな。未来の技術!


「今度は俺が一番乗りね!」


そういうとマシューが風のように走り去った。


「では私も行くとしよう。」


アリスもマシューの後に続いた。


「出遅れちゃったね。

スケサンに乗ってついておいで!」


悪夢再び!


20㎞の距離を5分で疾走!


「置いてけぼりにされていじけたのか?半泣きではないか。女々しい男だな。」


「違うし!臨死体験から無事生還したうれし泣きだし!」


俺が到着した時には既に巨大なゴキブリがひっくり返っていた。

グロい。

俺の時には見た目愛らしい奴で良かった。

スケサンを見上げてそう思った。


そしてへたり込んでいるブレザー姿の女の子。

こちたからは後ろ姿しか見えないが、高校生だろうか。


「突然わけのわからい事ばかり起こって混乱しているとは思うけど、俺が来たからにはもう大丈夫!

白馬の王子様が来たと思って安心してくれ!」


マシューがキラキラと光の粒子をまき散らすかのような満面の笑みで女子高生に話しかけている。

5分前とはまるで別人のようだ。


突然スケサンが走り出した。

そして、キラキラ笑顔のマシューを跳ね飛ばすと女子高生の前にチョコンとお座りした。

女子高生は悲鳴を上げるとスケサンの顔をマジマジ見つめた。


「スケサン!お前はスケサンなの?」


おや?俺と同じ反応。

スケサンの知り合い?

いや、違う。

スケサンとはさっき俺がつけた名前だ。

俺は女子高生の前に回り込んだ。


「「あーっ!」」


お互い指を差し合い声を上げた。


あまね!!」

「お兄ちゃん!!」


「おやおや、この世界で肉親と再会するなんてね。

同時に転移したというパターンを除けばなかなかに稀有な例だよ。」


リズは興味深そうに2人を見比べた。


数瞬の硬直の後、弥の表情が険しくなった。

眉を顰め、下唇をキュッと軽く噛み上目遣いに睨みつける。

他人からは怒っているようにしか見えないこの仕草。

だが、俺は知っている。

これは弥が泣くのをグッと堪えている表情である。


「1年間もどこに行ってたのよ!」


え?1年?

俺は今朝おまえに叩き起こされたのだが。


「さっきも言っただろう。元の世界とこちらの世界は時間は並行していない。

現にボクはキミの100年後の世界からこちらの300年前に転移してきている。」


日曜日だった。

俺は妹の弥の買い物に付き合う約束をしていた。

なかなか起きてこない俺は弥に叩き起こされた。

寝ぼけ眼で着替え、部屋のドアを開けて廊下へと出た。

そしたらジャングルだった。


俺の中の時間としては弥と別れてからまだ1時間ほどしか経過していない。

だけど、弥からすると突然俺がいなくなって1年間過ごしたということのようだ。

理解が追い付かない。


「えっと、これは俺も・・・。」


なんとか弁明せねばと言葉を探したが思いつかない。

弁明も何もそもそも俺悪いことしてないし。

俺があたふたしている間にも弥が険しい表情のままズイズイと距離をを詰めてくる。


「えっとだな・・・。」


そう言いかけた俺の言葉を遮るかのように弥が俺の胸に飛び込んできた。

そして腕を背中に回し、顔を俺の胸にうずめた。

泣いてる。


「・・・良かった。ホントに。」


弱弱しいがそう言っているのが聞き取れた。

心配していたのだろうな。

どんなに寂しかったろうか。


「ごめんな。」


ポンと頭に手を置き、なだめるように撫でてやった。


「お義兄さん!感動の再開おめでとうございます!」


先程スケサンに吹っ飛ばされた奴が感動の再開に割って入ってきた。


「俺はおまえの兄になった覚えはないのだが。」


「お義兄さんの意見はごもっともです!

今後、義弟として相応しい男となりますのでよしなにお願いします!」


「邪魔すんなよ。」


俺に胸に顔をうずめている弥から発せられたその言葉でマシューはおとなしくなった。


「女々しい男だな。」


「ほっといてくれ。」


アリスの追い打ちにマシューは完全に沈黙した。


「おまえ髪染めたのか?」


俺の知っている弥は黒髪だった。

しかし、今俺に抱き着いている弥の髪の色はピンクがかっていた。


「ん?お兄ちゃんこういう髪の色好きなんだよね?ピンクアッシュっていうんだよ。」


確かに好きだ。

だが、俺はそれを弥に言った覚えはない。

ていうか、そもそも俺の趣味嗜好を誰かに話した覚えはない。


ま・さ・か!


「もしかして、俺のPC触った?」


「突然行方不明なんだもん。手掛かりがないかと思って。」


「パスかかってたよな。」


「誕生日がパスだなんてセキュリティリテラシーがなってないよ。」


ノーーーー!!!

パンドラの箱は解放されてしまっていた!


「お兄ちゃんも男の子なんだね。」


弥がニヤリと含みのある笑みを浮かべた。


「泣いているのか?まぁ身内と再会できたのだからな。

今は女々しい男などとは言わないでおこう。」


アリスの優しさも魂が抜けている俺には届かなかった。


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