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第7話 魔王として


 俺たちはニシェクの待つ前衛へと向かう。

 そこで見たのは、着の身着のままと言った様子の老若男女の姿だった。

 彼らは俺の姿を見た途端にざわめき、怯えの色を更に色濃くする。



「おい、見ろよ」

「グリン・ジレクラエスじゃないか……」

「あの噂は本当だったのか」



「随分と嫌われたものだな」

 俺の横にいつの間にか立っていたロレッタが笑いかける。

 俺は苦笑しながら答えた。

「有名税って奴だ」



 そして、俺は農民たちの元へと近づいていく。すると、それに合わせて一人の年若い男が、一団を守るように立ち上がった。

 おそらく彼がこのグループのリーダー格なのだろう。



「何か用か、グリン・ジレクラエス」

「俺の名前を知っているのか、手っ取り早いが」

「当たり前だろう! この襲撃だって、お前が仕組んだんじゃないのか!?」

 いきなり怒声を上げる男。当然、そんな事を言われる覚えはない。



「いきなり何を言うかと思えば。そう疑うならさっさとどこかに行ったらどうだ?」

「くっ……」

 悔しそうに顔を歪める男だったが、グループの中から一人の少女が現れて男の横へと立つ。

「何やってるの、お兄ちゃん! 怒らせたら何の意味も無いでしょ!」

 どうやら彼の妹のようだ。



「すみません、ウチの馬鹿兄貴が」

「ツィグ、下がってなさい!」

「アンタが喧嘩腰で居るから話が進まないんでしょうが!」

「これは大人の問題だ! お前が出てくる事じゃない!」



 兄妹喧嘩が始まり、完全に蚊帳の外に置かれてしまったグリンは途方に暮れる。

 そんな彼らを見て微笑んでいるのは、彼の隣に居るロレッタだ。耳を尖らせて彼らの話を楽しげに聞いている。



「随分と仲が良いのだな、あの二人は」

「ああ、そうだな……」

「だが、あまり遊んでいる時間はない」



 そう言ってロレッタは数度手を叩く。兄妹も、農民達も彼女に注目する。

 その中で、自分に注目が集まったのを確認すると手をグリンに差し出す。後は任せたという事なのだろう。



「お二方、取り敢えず何が起きて、君たちが何故ここに居るのかという事を聞かせてもらいたい」

「ああ、分かった、今朝――」

「ちょっと待った、あんた挨拶も出来ないの!?」

 兄妹の兄の方は完全に肩を落とす。口では勝てない事を知っているのか、今回は彼女に従った。



「俺はブランカ・コールドウェル、こっちが妹のツィグ・コールドウェルだ」

「ああ、俺の事は知っていると思うが、グリン・ジレクラエスだ、よろしく。で、こっちが……」

 そう言ってロレッタを紹介しようとしたが、振り向けば彼女は姿を消していた。きっと紹介されたくないという事なのだろう。



「なんでもない。続けてくれ」

「ああ、俺達はここから北にあるリミカ村の者だ。今朝方、村に突然赤銅色の鎧を着込んだ連中が現れて、家という家を焼いていった。家の外に出た者達は斬り殺され、逃げ出した者達は執拗に追い回して来る。ツィグのおかげで森の中に逃げ込んでからは奴らを撒く事が出来たが、まだあいつらが追いかけてくるかと思うと、村にも戻れないし、隣村へと逃げ込んでも同じ目に合いそうで……」



 ブランカの顔には恐怖の色が浮かんでいる。それだけ恐ろしい体験だったのだろう。

 だが、俺は別の事が気になっていた。赤銅色の鎧を着込んだ連中が村を襲ったという点。もしそいつらが、あの連中だとするなら、当然その程度の事は行うだろう。


「藍色の鎧? 村を襲った連中が着込んでたんだな?」

「ああ、それがどうしたんだ?」

「絶対に村には戻るな、隣村にも行くな。お前の村を襲った連中は、汚れ仕事専門の傭兵団、瘴気団ミアズマだ。何の理由があってかは分からないが、奴らが出てきたという事は碌な事じゃない」

「じゃあ、どうしろって言うんだ! アンタらが助けてくれるわけでも無いだろうに!」



 そうだ。今の俺は、魔物たちの長。彼らを助けようとしても、魔物たちは納得しないだろうし、彼らもそれを受け入れないだろう。

 だが、このまま彼らを帰せば間違いなく連中の餌食になるだろう。

 どうする? どうすればいい?



 深く悩む俺の横に、ニシェクを伴ってロレッタが再び現れた。

「随分と沈んでいるな、婿殿」

「ゴホン」



 ロレッタの口から婿という言葉が出た途端に、ニシェクは掻き消すように咳払いをし、俺を睨みつける。まだ俺の事を認めては居ないという事だろう。

 だが、残念ながら彼の相手をしている暇は今は無い。 

 俺が用事があるのは、その隣、ロレッタの方なのだから。



「ロレッタ……」

「聞いていた。瘴気団ミアズマが出たのか」

「ああ。連中が出てきたということはロクな事にならない。」

瘴気団ミアズマの件もそうだが、あの村人達をどうするつもりだ?」


 

 彼女は俺を見据えて言う。俺を試そうとしているのでは無いか? そんな疑念が頭に浮かぶ。

 魔王として判断を下すのなら、俺は彼らを見捨てなければならない。

 彼らを見捨てれば、瘴気団ミアズマの刃に掛かるか、この森の中で迷い死にするかのどちらかだろう。

 


「辛いな」

「何がだ?」

「俺の決断で、多かれ少なかれ、誰かの命が失われる事になるって事がだ」

「……ほう。君がそれをこんなに早く自覚するとはな。いつまでたっても冒険者気分で居るのかと思っていたぞ」

「どういうイメージなんだ、そりゃ」

「それが悪いという訳ではない。それならそれで私が魔物たちを動かす。君は圧倒的な力を振るう者として、王座に座ってさえいれば良い状態を作り出せば良いのだからな」



 彼女が口にしたのは言葉は悪いが、彼女なりの気遣いと、俺を支えるという意志表明なのだろう。現状としてはありがたい事この上ない。

 俺は、魔王――つまりは王になった。その決断で多くの事が動く事になった。それを自覚して動かなければならない、という事だ。

 だからこそ、俺は決断を下す。

 


「ナーグルー」

 俺は大声でナーグルーを呼びつける。

「なんダ」

「信頼できる腕利きを数人集めてくれ。偵察に行く」

「分かっタ」



 仲間を集めに行ったナーグルーを見送りながら、俺は言う。

「彼らを保護。そして瘴気団ミアズマの手の届かない所へと送り届ける」

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