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第43話 急転

 ロレッタは暫くすると竜の姿から人の姿へとゆっくりと変化していく。羽が縮んでいき、足、腕、最後に頭とどんどん縮小していった。あっという間に、手の皮膚が鱗のように割れている以外は何の変哲も無い人間の姿に戻った。

 俺は全裸の彼女に服を投げ渡してその姿を見ないように反対側を向き、問いかける。



「策ってのは下水道を直接焼く事だったのか。強引過ぎるやり方だな」

「奴らを一層するにはコレ以外の方法が思い浮かばなかった。君も何も策は無かったようだな、そんな剣を用意させたのを考えると」

「これを片手に地下に行って、吸血鬼を倒す。シンプルな解決方法だろうよ」

 そう言うと彼女は屈託の無い笑い声を路地に響かせる。



「本当に君は……」

 そう言いながら、ロレッタは着替えを終えた様子で俺の前に立つ。そして、俺の胸に頭を当てる。



「本当に君は、大馬鹿だ」

「その通りだよ、ほら行くぞ」



 彼女の背を叩き、路地から出ていく。

 通りの混乱はある程度収まっていた。まだ多くの鼠達の姿は見られた物の、黒焦げとなって転がっている鼠の姿の方が遥かに多い。生き残っている鼠達もただ右往左往しているだけだ。



「どうやら私の目論見通りに事が進んだようだな」

 ロレッタは満足そうだ。



「吸血鬼の奴まで死んだかな」

「微妙な所だな。だが、奴の手駒は大方片付けた。問題となる事は……」



 その時だった。

 ガコン、と道端の下水管の蓋を開けて姿を表したのは、炭になりかけの衣装を身に纏った不気味な形相の男。



 男は、己の身体をなんとか引っ張り上げると地べたに寝転がり、肩で息をしている。余程疲弊しているのだろう。

「ククッ、クククッ、ハハハハハッ」

 突然笑い出した男を見て、ロレッタは哀れそうに彼を見ている。無理もない。



「そこのアンタ、随分とオシャレな格好をしてるじゃないか」

 俺は声を掛けながら、近寄っていく。当然剣の柄に手をかけたまま。


 男は声を掛けた俺の方を向くとものすごい形相で睨みつける。黒く染まった顔の中で、瞳だけが煌々と輝いているのが不気味だった。

「貴様は、誰だ!」

「誰でもいいだろ、誰でも。そういうお前こそ誰なんだよ。ワザワザ下水から生きて姿を見せるんだ、まともな奴じゃない事は間違いないだろうけどよ」

「私か? 私は、私は……」



 男は突然黙りこくり、俯いてしまう。

「おい、大丈夫か?」

 俺は、無知を装いながら彼の元へと駆け寄る。そして、男から数歩の位置に辿り着いた時に彼は突然、その白い牙を剥き出しにしながら顔を上げた。


「私は、とても疲れているんだ。貴様を“吸って”体力回復させて貰おうか!」

 目にも見えぬ速さで、俺の喉元目掛け飛びついてくる吸血鬼。

 だが、俺の剣の速度はそれよりも数倍は早かった。



「なっ」

 吸血鬼の牙が俺の首筋に触れる遥か前に彼の首と胴体は綺麗に切り分けられ、更には鋼鉄の刃並の強度と化した鋭い爪を持つ両手もまた、手首から切り落とされている。



「お見事!」ロレッタが手を叩いて喜ぶ。

 切断面にはチリチリと炎が残り、吸血鬼の再生を妨げる。これこそが対吸血鬼戦での銀の剣が手に入らない時の最善手だ。

「さて」

 俺は吸血鬼の髪を掴んでぶら下げる。



「誰に命令されて、こんな事をした?」

 吸血鬼の首はパチクリと瞬きをして俺を見る。未だに何が起きたのかを理解していないようだ。

「な、なんでこんな事に」

「もう一度聞く。誰に命令された?」



「クソッ、こんな筈じゃ、こんな筈じゃ」

 まるで話にならない。俺は諦め、文字通り頭を投げ捨てた。奴の悲鳴が聞こえたが、知ったことではない。

「まあ、大体予想は付くしな」



「グ……ロレッタ様!」

 馬に乗ってカロリーヌさんがこちらへと掛けてくる。俺の名前を公道で叫びかけた。彼女らしく無く取り乱している。

「おお、カロリーヌさん。こっちの方は終わった。あそこに転がってる首が、首謀者の」 

「大変です! アルカノーア様が、アルカノーア様が!」



 カロリーヌさんは俺に縋り付きながら、何度か深呼吸すると意を決した様に言う。

「アルカノーア様が、リリィ枢機卿に誘拐されました!」 

「何ィ!?」

 俺は思わず叫んでしまう。何が目的だと言うのだ。



「グリン、カロリーヌ、敵だ」 

 黙りこくっていたロレッタの言葉を聞いて、俺は顔を上げる。すると、辺りには教会兵、それも白金の鎧を身に纏った騎士達が集まっている。

 俺は立ち上がり、剣を構える。しかし、その騎士達の奥にある姿を見つけてしまう。俺がずっと探し続けていた姿を。

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