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第33話 東の国より来るもの

「そう言えば、リザードマンに渡すように言われていた手紙が……」

 グラーガ―から渡すように言われていた手紙の存在を思い出し、懐から取り出す。

「ああ、それは私宛ての物ですね。グラーガー、随分と懐かしい名前だ……」

 手紙に記された名前を見て、感慨深そうにしているカー=ミッド。



「あんた宛てだったのか。それは良かった」

 道中の雨風に晒され、随分とひしゃげ、汚れてしまった封筒を見て苦笑しながら俺は言う。中身が読めると良いのだが。



「昔、彼と一緒に北の山脈を越える旅をした事がありましてね。いやあ、懐かしい」

 そう言って笑うカー=ミッド。見れば、細い腕のあちこちにはかつての旅を思わせる傷跡がいくつも残っている。

 ……彼の種族、蜥蜴人リザードマンの立場を考えれば、その傷が旅の途中で付いた物だとは限らないのだが。



 蜥蜴人リザードマンは、主に二種類の種族に大別される。西方の砂漠出身の砂蜥蜴人サンドリザードマンと南方の群島出身の海蜥蜴人シーリザードマン。カー=ミッドはその前者、砂蜥蜴人サンドリザードマンであることがその土気色の肌から分かる。



 彼らはどちらも商人を生業にしている者が多い。それは、彼らの出身地帯における特産物を売りさばく必要性から成り立っている。

 その為に人間の同盟者であるエルフとドワーフ以外に人間の都市で姿を見かける事が少なからずある数少ない亜人種の一つである。



 しかし、彼らは人間の血が混じったハーフを除けば厳しい目に晒されている。彼らの出身地帯の特産物(砂蜥蜴人サンドリザードマンは魔石と成り得る原石を、海蜥蜴人シーリザードマンは香辛料と鉱石)をほぼ独占流通させているという事情もあり、彼らを受け入れる以外に方法が無い商人を中心として、反感を買っているのだ。



 更には魔軍の人間の領域への侵攻以降は少なくない数の蜥蜴人リザードマンが魔軍に参加した事によって、更に立場は厳しい物となっていた。



 そんな状況を鑑みれば、カー=ミッドの古傷は人に与えられた物である可能性も否定出来ない。

 しかし、彼は俺が色々と考えているのを察したのか、それを笑い飛ばすように言った。

「難しい顔をしなさるな。この傷も今や私の身体の一部。貴方の考えている事が正しかったとしても、最早恨みはありませぬよ。……陛下」

 俺は、彼が最後に呟くように言った一言を聞き逃す事は無かった。そう、彼は俺の正体を知っていたのだ。



「では、これで失礼。明日また会いましょう」

 そう言って彼は去っていく。入れ替わるようにして現れたのは、俺がカー=ミッドと話し込んでいる間にアルカノーア達と一緒に怪我人を見て回っていたロレッタだ。



「戻るそうだ、行くぞ」

 ロレッタが俺を見て言う。遠くで手を降っているアルカノーアを顎で指し示す。

「分かった。じゃあ、失礼します」

 俺はカー=ミッドに挨拶をしてその場を去った。





 屋敷に戻ってきた俺は、テーブルの上に残されたままになっていた冷めた茶を飲んで一息付いた。

「ふう、明日以降は大変な事になりそうだ」

「その通りじゃの。教会の連中をじっくりと問い詰めなければならぬ上に、間もなく東方諸島の“ショーグン”がこの街へと現れる。そんな時期に事を起こすとは思いたくもないが……」

  


「ショーグンか! また懐かしい名前だな!」

 またもや懐かしい名前が出た事に驚きながら笑う。

「グリン様、まさか知り合いなのか!?」

「俺の行った時に代替わりとそれに伴う騒動があってな。騒動に巻き込まれて大変だったんだこれが」



 東方諸島での一幕を重いだし、懐かしさに浸る。東方諸島に逃げ込んだ魔物の長の一人を追いかけていったら、お家騒動に巻き込まれた上に“ヨウカイ”と呼ばれる東方諸島の土着魔物との一斉蜂起に巻き込まれたという話だ。



「そうであるとするのなら、会談に参加して欲しかったのじゃ。ショーグン当人との面識が在る者は、この大陸には殆ど存在しておらぬからのう。じゃが、グリン様の今の状態では難しいかの」

「“ヨウカイ”とのパイプは我々も持っているが、ショーグンとは無いからな。当たり前の事だが」



 ショーグン。それは東方諸島を刀(東方諸島における一般的な剣で、細身で反りが存在している。その華奢な外見とは異なり、凄まじいまでの斬れ味を誇っている)で統治する諸島の中でも最強の当主に与えられる称号だ。

 変わっていなければ、今のショーグンはこの大陸では周縁種ボーダーと呼ばれる存在だった筈だ。



「会談はあれで行う手筈になっておる」

 そう言ってアルカノーアが指し示したのは、港に停泊している巨大な船だ。

 ヴァン・ダイク商会の看板でもある巨大船『アーケイン・アステール』である。その周りに存在している船も、そう小さくは無い筈なのだが、『アーケイン・アステール』と並べられるとまるで玩具の小舟のように見える。



「本当は、グリン様とロレッタ様をこそ盛大に迎えなければならないのじゃがのう。申し訳ない……」

 そう言って肩を落とすアルカノーア。悔しさが全身から滲み出していた。

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