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第29話 お嬢様と世話役


「グリン、君にそういう趣味があったとはな……」

 少女に抱きつかれる様子を怪訝そうに見ているロレッタ。どう考えても何かを勘違いしている。目つきが犯罪者を見る時のそれだ。

「お前、何か勘違いしてないか? 絶対勘違いしてるよな? なあ?」

 俺とロレッタのやり取りを聞いた少女は、俺の胸の中から、ロレッタを睨みつけると言った。

「お主か、グリン様を誑かした魔王の娘というのは。私、アルカノーア・ヴァン・ダイクこそがグリン様の本当の伴侶じゃ!」



 外見とは違い、意外と強気なこの少女の敵意はロレッタへと向けられている。

「誑かした……? 何を言っているのだ、この小娘は。貴様の様な乳臭い子供をグリンが好むわけがなかろう」

「何だと貴様! そういう貴様とてまだ小娘じゃろうが!」

 出会って早々バチバチと火花を飛ばし合う二人の間に挟まれながらも、俺は今この少女が名乗った名前をもう一度呟く。

「アルカノーア、ヴァン・ダイク……」

 その名前を聞いた時に、何か頭の中に引っかかる物があった。



「私の事を忘れてしまったか!?」

 悲しげな表情を浮かべるアルカノーアと、それ見たことかと言わんばかりのロレッタ。正直そういう喧嘩は他所でやって欲しい。

 だが、ようやく思い出すことが出来た。

「ヴァン・ダイク。あのおっさんの娘か!」

 俺の言葉に頷くアルカノーア。どうやら正解だったようだ。



「ロレッタ、この子は俺が前に来た時に世話になった商人のおっさんの娘だ、そうだそうだ、前はこんなに大きくなかったもんな! それに、随分と別嬪になったもんだ!」

 以前に見た時の気弱そうな少女と、今目の前に存在している麗しく成長した少女が同一人物である事が信じられない。

「そんな、綺麗などと、もう!」

 アルカノーアは俺の言葉を聞いて嬉しそうに悶えている。それを見て更に深い溜息を付いたのがロレッタだ。



 悶えているアルカノーアを引き剥がし、ようやく辿り着いた彼女の従者らしき人物へと引き渡す。 

「君とあの娘の仲が良いのは分かったが、さっさとあの街に入ってしまおう。その後ならばどれだけイチャつこうが私の知ったことでは無い」

 ロレッタが非情に冷たく言う。猛烈な威圧感を感じる。これは一体どういう事なのだ。

「ロレッタ、あの娘とはお前が考えてるような関係じゃない。一回助けた事があるってだけだ」

「……分かった。それを信じよう」そうは言った物の、まだ納得はしていないようだ。



「あのう……、宜しいですかね」

 アルカノーアの従者の女性が、俺たち二人にか弱い声で声を掛けてくる。あまりにも空気が悪く声が掛けづらかったのだろう。

「あ、はい。すいません。あの方がヴァン・ダイク商会の長である、アルカノーア・ヴァン・ダイク様です。私は秘書を努めておりますカロリーヌ・カンバーヒュンメルと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

 カロリーヌと名乗った女性は頭をペコペコと下げながら腕の中で暴れているアルカノーアをがっちりとホールドしている。



「何をしているカロリーヌ! 離せ!」

 一瞬の隙を付いて脱出したアルカノーアは、胸を張りながら言う。

「こんな所でおちおちしていては何も始まらんからの。それに早くグリン様を休ませねばならぬ。行くぞ、カロリーヌ」

 そう言ってアルカノーアは意気揚々と丘を下っていく。

「すいません、付いてきて下さい」

 カロリーヌはアルカノーアを追いかけるように丘を下っていく。俺とロレッタもそれを追うようにして丘を下り、街道を横切り、海岸の方へと向かっていく。



 磯に小さな帆船が停められていた。

 しかし、帆船の回りには既に何人かの兵士達が待機している。巡回の兵士たちだろうか。

 彼らを見つけたのと同時に俺は反射的にフードを目深に被り、ロレッタの後ろへと隠れる。情けないが仕方がない。

 兵士の数は四人。倒せない訳ではないが殺す訳には行かないし、俺やロレッタの姿を見られればまた面倒な騒ぎになるのは間違いない。

 どうやって切り抜けようかと考えていると、アルカノーアが言った。

「ここは私たちに任せて下され」



「何をしているんですか?」

 カロリーヌが兵士達に声を掛ける。声を掛けられた兵士たちの中で、一番重装備かつ、気位の高そうな兵士が歩み出てカロリーヌとアルカノーアを一瞥すると不機嫌そうに言った。

「これは貴様らの帆船か?」

「ええ、そうですが」

 それを聞いた隊長格の兵士は、深い溜息を吐く。



「無許可での停船により、接収させて貰う」

「“大海の都”の許可証です」

 予めこの状況を予測していたのだろう。カロリーヌは懐から一枚のロール紙を取り出し、兵士へと差し出す。

「確認させて貰おう」

 隊長格の兵士は、ロール紙を解き、中身を確認する。

「成る程、確かに本物の許可証のようだな。だが……」



 兵士達はそれを破り捨てると、剣を抜き放つ。

「今は非常事態。我らと同行して貰おう」兵士達の隊長格の男が言った。

「貴方達、何をしているのか分かっているのですか?」

「非常事態だと言っているだろう!」

 取り付く島もないとはこの事だろう。この男のやり口は怒鳴り散らす事によって無理に不合理を押し通す事に手慣れている人物のそれであった。



 怒鳴りつけた兵士に気圧されたカロリーヌは、ビクビクしながらアルカノーアの方を見た。

 アルカノーアは腕を組みながら非常に不満そうにこの様子を見つめていた。隊長格の兵士を睨みつけながら、回りの兵士をも見る。

 隊長格の兵士の後ろに居た彼らは一行を捕まえようと歩み出ていた。。

 それを見て取ったアルカノーアは、カロリーヌを見ずに言った。



「やれい、カロリーヌ」

 アルカノーアの合図と共に、兵士の一人が顔から吹き飛ぶ。

 兵士の顔面があった場所には、いつの間にか鉄製の手甲を装着したカロリーヌの拳があった。

 一瞬の出来事であった。カロリーヌは更に一人を地面へと投げ飛ばす。 

 そして、もう一人の兵士は呆然としたままカロリーヌの足払いによって体勢を崩し、そこに顔面に非情な拳が叩き込まれる。

 三人共、何が起きたのか分からないまま地面でノビている。

 


「な……」

「失礼致します!」

 唖然としている隊長の男は、今更剣を構えるが時既に遅し。懐に飛び込んだカロリーヌの蹴りを胸に受けると、そのまま派手に吹き飛んでいった。

「うっわ、強え」

「お見苦しいところをお見せしました。増援が来る前に行きましょう」



 そう言い残してカロリーヌは帆船の方へと駆けてゆき、出港の準備を整え始める。

「いい気味じゃの、好き勝手やりおって。阿呆が」

 アルカノーアは地面に倒れている兵士達を踏みつけながら船の方へと歩いて行く。

「グリン様も、早く来て下され。こんな所には長居する物ではないからの」

「あ、ああ」

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