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第27話 アルカノーアの失恋?

 ――現在、北方連邦、北部――



「そして、その後は知っての通りさ。覚えのない罪を着せられ、“奴ら”と話すことも無いままに拷問と裁判、そして今に至るという訳さ」

 俺は頬を掻きながら言った。

「父が、そんな事を……」

 彼女は意外そうだった。というより、彼と交わした会話の事を非常に興味深そうに聞いていた事から考えると、あまり会話を交わした事が無かったのだろう。



「思えば、あの男……魔王は、俺がこうなる事を知っていたのかもしれないな」

 今、魔王が死の間際に言った言葉を思い返すと、そういう結論が出てくる。

 彼の言った言葉通り、全ては変わってしまっていた。気付かなかったのは俺だけだったのだ。

 魔軍が逃げ去った後には人間同士の争いが始まり、俺は恐れられ腫れ物扱いされ、あの時語った平穏無事な暮らしなどは夢のまた夢だ。

 それに何より、ずっと側に居た筈の“奴ら”が一番変わってしまった存在だろう。

 


「それがどうかは分からんが、父が君の事を褒めていたのには記憶がある。気持ちのよい性格の男だとな」

「そりゃ嬉しいこった」

「父の回りにも武人が多いとはとても言えなかったからな。そういう人物も居るには居たが、大体君らに負けて死んだ。残ったのは味方の後ろでコソコソと策を企てるような連中ばかりだ。そういう人々が不要と言う訳ではないが、そのタイプの連中ばかりが集まると互いに喧嘩を始める」

 俺はそういう光景を良く知っていた。人間達の軍でも有りがちな光景だ。嫌な奴ほど生き残る。



「そういうタイプと言われて、思い浮かんだのがロドリックの野郎だな。俺を嵌めたのもだいたいあの野郎が手を回したんだろ」

 人畜無害そうな顔をしたあの男の顔が思い浮かび、俺は思わず拳を握る。

「クソ、腹立ってきた」

「君が魔王として振る舞っていれば、その内相対する事になるだろう、その時に備えていると良い」

 ロレッタはそう言って俺を宥めすかせようとするが、どうしても怒りが収まらない。

 もう一度俺は拳を握りしめる。



――ティ・クェナ・ルゥ、クリーンボート地区、ヴァン・ダイク邸――

Side:アルカノーア



 夜半、私は一人の客を招き入れていた。

 コートを目深に被ったその客は、部屋に入るなりコートを脱ぎ捨てた。その下から現れたのは、丸っこい頭をしたトカゲのような顔をした女だった。

 彼女の鱗に覆われたその顔には、毛の一つも生えていない。彼女が蜥蜴人リザードマンである事の証左だ。

 彼女の名はカー=マティ、砂蜥蜴人サンドリザードマンであり、ヴァン・ダイク商会の外部顧問を努めている。

 


「夜分に失礼致します」

 彼女はそう言って、ソファに腰を下ろす。

「要件を聞こう。手短にの」

「パルミラ商会から、注文の品が届きました。私達の倉庫に保管してあります」

「それはそのままに。今この街を彷徨いておる教会の連中に見つかると厄介じゃからの。他にも何かあるのじゃろ? まさかそれだけを伝えに来た訳では在るまい?」



 マティは私の言葉に対して頷くと、咳払いを一つする。

「リリィ枢機卿が、北部の遺跡へと向かいました。随分多くの手勢を連れているようです」

「ガラント遺跡にか? あそこは既に調査され尽くした場所だと思っていたのだがのう……」

「それだけではありません。彼らは陣を張り、長期に渡って滞在を行う準備を整えていました」

 私は目を細めてその報告を聞く。リリィ、そして教会がこの都市の秘密、魔物との秘密協定を快く思っておらず、復讐の機会を伺っていた事は薄々察していたが、この様な露骨な手段に出る理由が分からなかった。



「教会の方に直接抗議を行う事にしよう。じゃが、解せぬな」

「ええ。今の時期に敵を増やすような事をしても、彼らには何の得も無いと思うのですが」

「そうじゃのう。東方諸島のショーグンの出迎え、それに他の自由都市の者達との会談の準備もせねばならぬというのに」

 私が言った言葉に対して、目を光らせるマティ。一つ抜けていると言いたいのだろう。



「ああ、新しき魔王との極秘会談も、その一つじゃよ。既に手の者を送らせておる。川沿いの橋は教会に抑えられておろうから、海路で訪れてもらう事になるじゃろうが、お主の父上、カー=ミッド殿には既に連絡してある」

 私がそう言うと、彼女は先の割れた舌をチロチロと出しながら笑う。

「遂に、ですか」

「ああ遂にじゃ」

「新しい魔王は、人間という話がありますが」

「それもカルーシェから聞いておる。その人物もな」



 私はその人物の事を考えただけで胸が苦しくなる。誰の目の前であろうが、踊りだしたくなる。今こうして居る事すら、耐え難い。全てを投げ売ってでも、彼の元へと馳せ参じたいのだ。

 だが、私の天にも昇る気分は、信じられない言葉で覆される事となった。

「それにしても、あの前魔王の娘様と堕ちた英雄との結婚なんて、ロマンチックですよね」

「……はぁ?」

 今、此奴はなんと言ったのだ? 結婚? 誰と誰が?



 マティはとぼけたような表情で唖然とした表情をしているのであろう私を見ている。

「またまた、アルカノーア様もそういう事には憧れてらっしゃるんでしょう? かのグリン・ジレクラエスは以前この街に訪れた事があるって話じゃないですか」

「じゃから、グリンさ……グリン・ジレクラエスと、誰が結婚するんじゃ?」

「ですから、前魔王の娘、ロレッタ・グラディス様と、グリン・ジレクラエスです」

 それを聞いた途端、全身から力が抜け落ちていくのを感じた。

 そのままソファに倒れ込むように座ったら、膝をテーブルにぶつけた。

 もう嫌、全てが嫌。


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