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第20話 今日からは同じ布団

「ここに向かうって、相当遠いぞ?」

 俺は、簡易テーブルの前に用意された椅子へと座りながら言う。



「ああ、一月は掛かるだろうな」

 軽く言ってくれる。



「結構な人数だ。全員連れていく訳には行かないだろう。それに、リミカ村の連中がこんな長旅に耐えられるとは思えないが」

「ソレについてだが、一旦ここから少し北に向かう。そこにアイアンヘッド族の居留地が存在している。一旦人員の整理と補給を行い、東に向かおう。私と君だけでな」



「最少人数って訳か」

「新婚旅行のようなものだな」

 ロレッタは表情も変えずに平然と言い放つ。相変わらず冗談なのか、本気なのか判断が出来ない。



「……急に冗談を言うのは止せ」

「失敬な、私はいつも本気だ」



「第一、なんでこんな東に向かうんだよ。“大海の都”とその周辺地域はお前らの“大侵攻”の時も手出ししなかった地域じゃないか」

「手出ししなかった理由は君も知っているだろう?」



 そう、俺はこの地域が戦火から逃れていた理由を知っている。その事件の解決を行ったのは俺なのだから。

「ヴァン・ダイク商会の一件か。懐かしいな」

 俺は、数年前の一件を思い出す。東方諸島への旅の途中に巻き込まれた一件と、その顛末を。



 “大海の都”ティ・クェナ・ルゥは自由都市であり、その周辺地域も彼らの領地として認められていた。その自由都市である“大海の都”を統治していたのは、商人達の合議制による商工会。その商工会の当時の長が、ヴァン・ダイク商会だった。



 彼ら商工会が行ったのは、秘密裏に魔軍と協定を結び都市の安全を確保する代償に、物資や人間達の情報を提供するという行為だった。

 最初は人攫いという簡単な依頼だった。それがどんどん大きな出来事と重なっていき、終いには今のような大事件に関わる事になってしまったのだ。



 俺の旅は、そんな事がよくあった。小さな事件が巡り巡って巨大な出来事に繋がってしまうのだ。例えば、薬草摘みがある城主に掛けられた呪いを解く為に古代から生き延びていた亡霊との戦いに繋がったり、子供の玩具を取り戻すだけのハズが、いつの間にか古代遺跡に潜って盗賊団と最深部への競争を行う事になったり、思い出すとキリも限りも無い。



 ……話を戻すと、“大海の都”の一件はヴァン・ダイク商会の長が全ての責任を被る事で事件は無理やり終わりを迎える事になったが、結局事実が表沙汰になる事は無かった。

 自由都市の一つが魔軍と結んでいた等と言う事が明らかになれば、人間たちの間に争いが巻き起こされかねないという判断からだった。



 だが、ヴァン・ダイク商会のおっさんは決して根っからの悪人では無かった。そもそも、彼は最後まで反対していた側だった。あくまで商工会の長であるという立場から、全ての責任を負ったに過ぎない。後味の悪い終わり方だった。



「あの娘、元気にやってるんだろうか」

 おれが思い起こしたのは、そのヴァン・ダイク商会の一人娘だ。いつも忙しそうにしていたおっさんに代わり、何かと世話を焼いてくれた。



 おっさんの代わりに東方諸島への船を手配してくれたのもあの娘だ。

 名前はなんて言ったか、思い出す事が出来ないが、随分と可愛げのある娘だったと思う。



「また他の娘の事を考えているな」

「違う、俺は冒険の旅の回想をだな」

「そういう事にしておいてやろう」

 ロレッタはそう言って、俺の隣に腰を下ろす。



「さて、そろそろ食事にしようか、カルーシェ!」

 彼女付きのエルフの少女を呼び付ける。すると、カルーシェはどこからともなく現れる。



 カルーシェは主の言葉に合わせて素早く簡素なテーブルの上を彩っていく。テーブルクロス、カトラリー、純白の器、そして食事の数々。

 食事の数々は肉類を主体としているが、山菜を中心としたサラダや香り立つスープも暖かいまま提供される。どこで作っていたのだろうか。



「失礼致します」

 そして、現れた時と同様に、音も無く姿を消す。

「……何なんだ、あの娘」

「私のメイド兼護衛だ。この位の事は出来ねば困る」



 そう言うと、ロレッタは自らの前に提供された料理に手を付けていく。

 いつの間にかこうやって二人きりで食事を取るという事が当たり前になっていた。

 会話のある日もあれば、無い日もある。今日はある日だった。



「さっきの話だが」

「ああ、いつの事だ?」

「あのクラヴィツの言っていた事だ」



「人間に対して随分と恨みを持ってたみたいだな、あのおっさん。まあ仕方ないだろ」

「私は、魔王に相応しいのは君以外に居ないと思っている。だが、そうでないと考える連中も沢山居る。前にも言ったと思うが」

「ま、当たり前だろうな」

「そんな奴らの言うことなど、何も気にするな。君は私が支える。全てを投げ出してでも」

 ナイフとフォークを起きながら、ロレッタは言った。俺の方をじっと見つめながら。



「ああ、ありがとうな」

「当たり前だ、夫婦となるのだからな。支え合っていこう」

 そういう事を面と向かって言われるのはやはり気恥ずかしい。さっきダークエルフ達の前でもそうだったが。



「だから、その」

「なんだよ」

 中々切り出さないまま、ロレッタは顔を赤らめたままだ。

 焦れったくなったので、もう一度何が言いたいのか聞き出そうとした時だった。意を決したように、彼女は顔を上げて言った。

「今日からは寝床を共にしないか?」

 



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