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第16話 ダークエルフの隠れ里へ

――中央平原、ルナリア連邦、北部森林地帯――

Side:グリン



 俺は、まだ歩き続けている。

 俺の背後には、幾多もの人々。人間、オーク、ダークエルフ、竜種ウィルム

 雑多な寄り集まりは、旅を始めた時よりも随分と膨れ上がっていた。



 涸れ谷での戦いの後、捕らえたエプトムは僅かな隙を見せた途端に逃げ出してしまった。ロレッタは探し出し、殺すべきだと言ったがそれを行わない事にした。

 前回、つまりは旅路の途中で捕らえた時も同じだった。あいつは戦うよりも逃げ隠れする方が上手い。これ以上付き合っても徒労に終わるだけなので、さっさと忘れてしまった方が良い。また来るのなら、相手にしてやろう。



 そして、あの戦いから二日後の今、ようやく俺たちは目的地の一つ、ダークエルフのモントラ族が隠れ住むルナリア連邦の北部へとやってきた。

 ルナリア連邦の天然の防壁として手付かずのまま放置されているここに、ダークエルフが隠れ住んでいるとは夢にも思わなかった。

 しかし、長年隠れ住んでいるだけある。道を進むだけで一苦労だ。俺のような冒険者はともかく、なんだかんだで付いてきてしまっていたリミカ村の人々には酷としか言いようが無かった。



「大丈夫カ」

「ええ、大丈夫だよ、済まないねえ」

 俺の後ろからはオーク達とリミカ村の生き残りの人々との会話が聞こえる。老人達はオークの牽く荷台に乗っており、頑健な者達は付いて歩いている。ブランカとツィグ、あの兄妹も相変わらず喧嘩をしながら歩いている。

 ダークエルフは彼らを未だに警戒しているようだが(その出自から、彼らは基本的に同族以外に警戒心が強い)、オーク達はぎこちないながらもなんとか交流しているようだ。

 


 森の近くで暮らしていた彼ら村人達は、案外良く働いてくれた。女子供はオークの女達と共に家事を行い、男達は薪割りや山菜集めに狩猟と雑務をこなし、打ち捨てられていた馬車の荷台を修理し使えるようにまでしてしまった。

 ここまで働く姿を見せられては、最初は村人たちと不満とトラブルばかり起こしていたダークエルフ達も認めざるを得ない。ニシェクですらも、ブチブチと文句は言うが置いていけとは言わなくなっていた。

 まあ、そう言っても俺が聞き入れないから言わなくなっただけなのかもしれないが。



「随分とサマになってきたじゃないか」

「ロレッタか。どうした、突然」

「いや、君のその周りの者を見る目、以前とは変わってきている」

「褒めてる、と受け取って良いのかな」



 俺が戸惑った様に言うと、ロレッタは微笑みながら言う。

「君の受け取り方に任せるさ」

 それだけ言い残して彼女は足早に立ち去っていく。

 ロレッタがああして柔らかく笑っている姿は、俺と二人きりの時が多い。最初は照れくさいのか皮肉も多かった彼女だが、最近では自然とこういう会話を行えるようになってきた。

「俺、本当に良いのかなあ」

 それでも、ロレッタの言っていた結婚という単語がどこかに引っかかっている。彼女の好意が本物だとしても、だ。



 そんな事を考えながら歩いていたので、俺は敵意を向けられている事にさっぱりと気が付かなかった。

 気が付いたのは、足元に矢が突き刺さってからだ。

「なっ、なっ」

 勢い良く、数本の矢が俺を取り囲むように突き刺さる。

「誰だ!」

 俺は叫びながら周囲を見回す。しかし、どこにも矢を放った者の姿は見えない。



「どうしました!?」

 俺の声を聞いて、ニシェクとロレッタが駆け寄ってくる。その時だった。

「動くな」 

 頭上から声がした。俺は警戒しながら頭上を見回す。すると、ダークエルフの女性が弓を引いたままこちらを睨みつけているのが目に入った。

「ニシェク、頼む」

「ヴァルカ族のニシェクだ。モントラ族のクラヴィツに用があり、馳せ参じた」

「ヴァルカ族のニシェクか。その名は聞いている。聞いているが……」

 女性はそこで一旦言葉を切り……



 俺たちの背後、オークや村人たちを見ながら、馬鹿にするように言った。

「貴様らの後ろにいる連中はなんだ? 薄汚い獣の仲間に騒がしい人間どもと来た。見世物の行列か何かか?」

「これには深い理由がある」

「理由? 神聖なる我がモントラ族の座所に、大勢が土足で立ち入るような事に何か理由があるというのか?」

 ニシェクは俺の方を睨みつける。どう考えても怒りに燃えている。まあ仕方ないだろう。オーク達はともかく、リミカ村の人々を連れて行くように行ったのは俺だ。言い逃れが出来ない。

「それも含めて、クラヴィツに話が……」

「帰れ、貴様らに話など無い」

「頼む、そこを何とか」




 俺は、女がニシェクとの会話に夢中になり、弓を下ろしたのを見て取った。

 このままでは間違いなく追い返されてしまうだろう。というよりはあの女は最初から俺たちを入れるつもりは無いだろう。特に俺のような人間は。

 だから、無理やりにでも通るしかない。



 決意した俺はゆっくりと道端に落ちている拳大の石を手に取る。そして、素早く振りかぶって投げ込んだ。

 石は女が立っていた木の幹に見事に命中する。そして、手酷く揺れた幹は彼女を振り落とした。

「うわああっ」

 情けない声を出しながら彼女は落ちていく。それを唖然とした表情で見ているニシェクを横目に見ながら、俺は駆け出す。

 そして、地面に落ちかけていた彼女を滑り込みながら見事にキャッチ。



「き、貴様、一体何を」

 先ほどと同じように振る舞おうとするが、声が震えており怖くもなんともない。

 そして、抱きとめていた彼女を離す。すると、彼女は途端に俺から離れて腰に挿していた短剣を抜き放ち俺へと向ける。

 しかし俺は笑顔で答える。敵意が無い事を示す為に、両手を上げながら。

 何らかの誇りがあるのならば、丸腰の相手を突き刺す事は出来ないだろう。しかも、情けを掛けられた相手だとするなら、余計に。

「道案内をお願いしたい、君の部族の族長の元へと」

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