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第9話 魔法使いの少女

「そいツ、どうするつもりダ」

「殺セ!」

「ひいっ」

 迫りくるオークの迫力に男は完全に腰を抜かし、一歩も動けない様子だ。

 正直言えば、俺も怖い。だがここで引くわけには行かない。

 俺はオーク達の前に立ちふさがり、行く手を阻む。



「こいツ、敵ダ」

「そうダ! 殺セ!」

 血気盛んな彼らは更に盛り上がりを見せている。詰め寄ってくるオークの姿は更に増え、男は完全に俺の後ろに隠れてしまった。



 だが、ナーグルーはそんな彼らの勢いに乗らず、一線を引いている。

 そして、冷静に俺に問いかけてきた。

「どうして庇ウ?」

「こいつからは色々と聞きたい事がある。詳しい敵の数や何をしてるのかとかを聞かなきゃならねえ。だから生かしてる」

 


「こいつを生かしてるト、次の戦いで楽になるのカ?」

「ああ、そうだ」

 俺がそう答えると、腕を組んで考えて、結論を出す。

「分かっタ。こいつは殺さなイ!」

 ナーグルーだけは理解してくれたようだ。俺はほっとする。

 彼が理解してくれたので、他の者達も引き下がる。なんとかなりそうだ。



「というわけだ。お前がさっさと喋らないとアイツらに任せる事にする。どんな素敵な事になるか想像してみるといいぞ。気が立ってるからな、あいつら」

「わわわわかったたたた、なななんでもはははななななす」

 ガクガクと震えながら、何度も何度も頭を振る男。傍から見ていても哀れに鳴る程だった。

 だが情けは無用だ。こいつもまた、瘴気団ミアズマの一人なのだから。



「まずは、お前らの目的を教えろ」

「お、お、お前を見つけ出して殺すことだ、この近郊の村に潜んでるからって話で、協力者ごと殺せと言われてた」

「部隊は何人くらい居るんだ?」

「全部隊が展開してる、第一部隊から、第四部隊まで、全部だ! リミカ村には第三部隊が展開してる! お前らがどれだけ居るか知らないが、お前らなんて簡単に捻り潰してやる!」

 突然豹変して挑発を始める男。感情の起伏が激しいようだ。



「なるほどな。じゃあその前にお前を捻り潰してもらうとするか」

 そう言いながら、男を縛っていた縄を外してやる。

「ひえっ、嫌だ、嫌だああああああ」

 男は泣きながら一目散に逃げ去っていく。これだけ脅しておけば、もう二度と奴らの事に戻ることはないだろう。



――同時刻、リミカ村――



 嫌な役回りだった。

 俺は廃墟と化した村を見て回っている。生き残りや地下室のような隠れ場所が無いか探せというのが命令だったが、そんな物があるとはとても思えない程に簡素な村だ。

 大犯罪者グリン・ジレクラエスを匿っているという名目で、俺たちはこの村に押し入った。しかし、奴は影も形もありゃしない。俺たちが行ったことはただの略奪と虐殺だ。



 こんな所は貴族の三男坊である俺、カールトン・ジョイスが彷徨くにふさわしい場所とはとても言えない。

 あちこちには死体が転がり、それを見ただけで心が揺れる。瘴気団ミアズマの評判は知っていたが、この連中はそれ以上の事を平然と行った。

 副団長を始めとする古参は平然と家々に押し入り、当たり前のように村人達を斬り殺して行ったが、俺は動くことすら出来なかった。

 ワルぶって様々な悪さに手を出したものの、俺は根は甘ちゃんの真人間だったという事だろう。あまりの惨状を直視することすら出来なかった。



 副団長達は奪い取った食べ物飲み物で酒宴を開き、大騒ぎしている。なので俺のような新参者がこうして嫌な役回りを押し付けられているが、奴らと一緒に過ごしたくないので、むしろありがたい。

 俺は気がつけば村外れの水車小屋にやってきていた。ここは荒らされていないようで、水車が何事もなかったかのようにゴトンゴトンと動き続けている。

 一応中を確認しておく。もし誰かが隠れていたとしても、俺の知ったことではないが。

 小屋の中は薄暗く埃っぽかった。思わずくしゃみを一つしてから鼻をすすると、何かが地面に転がっているのが目に留まる。

 人間、それも少女だった。



 彼女は仰向けで倒れており、生きている様には見えない。しかし、周囲に血の跡は残っておらず、襲撃に巻き込まれたようにはとても思えない。 

 なんでこんな少女がここに?

 そんな疑念を感じながら、俺は剣の先で数度突いて反応を確かめる。

 しかし反応は無い。やはり死んでいるのか。そう諦めて身を翻したときだった。



 少女は突然立ち上がり、伸びを一つする。

「う~~~~~~ん、よく寝た」

 少女は唖然としている俺を見ると、一言言った。

「あんた、誰さ?」

 少女は眠そうな顔で俺を見る。



「あのさ、今何時? あとお腹すいたんだけど、何か持ってない?」

「喋るな!」俺は彼女を制する。まずい状況になってきたからだ。

 外から、ゲラゲラと下品な笑い声が聞こえた。奴らだ。古参の連中だ。

 まずい、非常にタイミングが悪い。彼らが来たら、どうなるのか目に見えている。 

「いいか? ここを動くな、今は時期が……」

 そこまで言いかけた時、小屋の扉が開いた。


 

「おい、何やってんだ?」

 髭面の男達が現れ、小屋の中を見回している。そして、少女を見つけた途端に目の色が変わった。

「カワイコちゃんじゃねえか。一人占めなんて許さねえぞ」

「ハッハッハ、そうだな!」

「おい新入りぃ! 外見張っとけ!」

「おい、この子は関係ないだろ!」



 俺は少女を庇うように彼らの前に立つ。

「んだと、コラァ!」

 男たちは剣を抜き、今にも飛びかかってきそうな様子だ。酔っているということもあり、自制は期待出来ないだろう。

 俺は覚悟を決める。もう抜けよう。こんな罪もなさそうな女の子を見殺しにするくらいなら、さっさと親元に戻って大人しく働こう。そのほうがマシだ。

 


 しかし、少女は俺の覚悟など全く意に介さないように俺を押しのけて男たちの前に立つ。

「はぁ~~~~。 めんどくさ」

 そう言って少女は、呪文を唱えた。



 何かが煌めいた。

 次の瞬間、俺の意識は吹き飛んだ。


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