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蝶が見える  作者: かつわたる
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病院にて

呼出ブザーを押してみると看護師がやってきた。前に来てくれた看護師だった。

「どうしましたか?」

「あの、聞きたいことがあるんですけど。僕は何故ここに入院したのでしょう?」

 看護師さんは一瞬きょとんとしたがすぐに話し始めた。

「覚えてないんですか?」

「覚えていないとうか混乱してしまって」

「事故に遭われたんですよ、通学途中にトラックに跳ねられて、骨折だけで済んだのは運が良かったと思いますよ。」

「通学ですか?」

「ええ、高校に通学中に自転車で。」

 今は高校生という事か…

「そうですか、あの今は1998年なんですよね?」

「そうですよ。昨日もそれ聞いてましたよね?」

「なんか実感が湧かなくて、なんかピンとこなくてですね」

「昨日から少し様子が違うようですけど、大丈夫ですか?」少し看護師の顔が曇って見えた。

「大丈夫です。」

「そうですか。また何かあれば仰ってくださいね。」そう言って立ち去ろうとした看護師に1つ質問をした。今思いついて、今が1998年としたら存在しない言葉だ。

「看護師さん?」

「はい?」

「スマホって知ってますか?」

「すまほ…いや、知らないわ、何のことですか?」

「いや、いいんです。すいませんお忙しい時に」

「いいですよ、ではお大事になさってくださいね。」そう言うと看護師は去って行った。

 

もし1998年だと携帯電話が普及し始ぬめた頃だ、2017年だと既にスマホつまりスマートフォンが過半数に置き換わりつつあるのだが、1998年にはとうぜんながらスマホなる言葉もない。やはり1998年の自分に生まれ変わってしまったのか…そう考えざるを得なくなった。


 なぜここにいるんだろう。人は誰でも理由を求める。結果が全てと言う人もいるにはいるが、その結果にしてもなんらかの理由があって結果が生まれる。理由がわからないとそれは不安となって襲いかかる。今の自分がまさにそうだった。おまけに誰にも相談出来ない。自分の今までの事実を人に伝えたところで、誰も信じてはくれないだろう。そもそも今いる場所が現実なのかはわからない、もしかしたらすべて夢かもしれない。


 今自分にできることは今ある事実を受け入れるしかない。そう思いつくまでに時間は相当に過ぎていた。4時間は過ぎただろうか、病院内の放送が夕食の時間を告げた。

自分はベッドに固定されているので食事が配膳されてくる。配膳係のおばさんがテキパキとベッドの上に簡易テーブルを設置して、食事の乗ったトレーをそこに配置していく。工場の流れ作業のようにハイスピード、パンとチキンカツとスープがトレーに乗っていた。

骨折したのが利き腕ではなかったのはありがたいが左手は固定されているのでやはり食べるのは難しい。全て右手だ。慣れない手つきで食べながら、なんで不自由なんだと思う。

その瞬間、自殺を試みた人間が生きていて、食事の不自由に悪態をつくとは勝手な奴だと思い笑ってしまった。


不自由な食事も終わり、入浴となるのだがこの通りベッドから出れないので看護師から蒸しタオルで体を拭いてもらう。清拭せいしきというらしい。その清拭をしてもらう間、不自由な体が嫌になってきた。外を出歩いてみたいと言う欲求がだんだんと募ってきた。看護師に聞いてみた。

「僕はどれくらいで動ける様になるんですか?」

「後2週間くらいかしら、腕はそれくらいで治ると思うから、それからは松葉杖を使って動けると思いますよ、詳しくは先生の診断を待ってからになりますけど、何かしたい事あるんですか?」

「いや、特には、ただ早く外を見てみたいんです。」

「そうですね。あと2週間は我慢して安静にされて下さいね。」そう優しく看護師は伝えた。

「あと、紙と鉛筆と消しゴムありますか?」同じくして清拭も終わり

「後でお持ちしますよ。」

そう言うと、看護師は去って行った。程なくしてさっきとは別の看護師さんがやってきた、筆記用具を持って来てくれた。

紙と鉛筆それは僕が今の世界とかつて生きていた世界を見つめ直し、自分がこの世界を現実として生きていくために書き出そうと思ったからだった。少なくとも自分が失敗しない為に。ただこの時点で自分が大事なことを忘れている事にまだ気づいていなかった。


片手しか使えないことにまた不満を感じた。

書損じがあると消しゴムで修正するわけだがA4の紙が上手くささえられない。食べるのも入浴も物を書くのも上手くいかない。散々格闘したあげく、僕は根をあげた。急ぐ必要はないと自分に言い聞かせて自分の設計図を描くのを辞めた。ベッドの脇にある時計を眺めた。時刻は21時30分をまわったくらいだ。

「取り敢えず寝よう」そして目を閉じた。



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