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アンドロイドのメイちゃん(前)

気付いたら私の仕えるヒトはいなくなっていた。


厚い雲が空全体を覆い、晴れる気配は微塵もない。


もう100年黒い雨が降ったり、曇りだったりの繰り返しだ。


私は、1年充電し、1年活動する。

決められた規則正しい生活を繰り返している。


そう、私はメイド型アンドロイドという存在だ。


活動期には毎日シェルターの内外を細かく掃除しているが、ここ100年は生物を見ていない。



「そういえば私は、いつの間にこんな思考ができるようになったのだろう?」



たしか、こんな自立したAIは搭載していなかったはずなのに。


最近はアイカメラの調子も悪く、視界が常にぼやけている。


「だれか…直してくれないかなぁ」


生物のいないこの世界では不可能な願いだ。


そもそも、そんな修理に関する知識はプログラミングされていない。


余りにも不便なのでネットワークから復旧のヒントをアクセスしようとするが、ホストコンピューターと連絡が取れない。



八方ふさがりだった。



出来る限り、記憶にある家の配置図を頼りにぼやけた視界で掃除を行う。


最近は前ご主人様の画像きおくもノイズが入って不鮮明のため思い出せない。



「私は…必要なのだろうか?」

そんな、エラーが出るような自問を繰り返しながら掃除をする。



今年の活動時間は残り1か月。


規則正しく、今日も業務を終えて、今は充電されない充電器に座り、スリープモードに入った。




次の日。


外の掃除をしていると、珍しく動く物体を感知した。


私が振り向くと、向こうも気付き、手を振る。


「人間!」



私は驚く。



100年ぶりの人間だ!


急いで、向かう。


「やあ!良かったよ!!この世界って誰もいないんだもん!寂しくってさ!あれ?君は…ロボット?」


視界がぼやけてよく分からないが大きな花柄が特徴的な服を着ていて、大きな瓶を持っている、紛れもない人間だ。


「はい!メイド型アンドロイドです。何なりとご命令下さい!ご主人様!」

久しぶりの挨拶だ。



うれしい。



顔がぼやけてよく分からないのが残念だけど。



「ロボットちゃん…と呼ぶのも味気ないから名前付けていい?」


「はい!」


「じゃあ、メイドだからメイちゃんで」


「わかりました。私はメイです。よろしくお願いします。ご主人様…ご主人様の名前を伺ってもよろしいですか?」


「ごらんの通り、タダのおっさんだから、ご主人様でいいよ。その方が萌えるし」


「はい!わかりました。ご主人様」


「じゃあ、メイちゃん。早速なんだけどシャワーみたいなもの無いかな?この世界、埃っぽいし、黒い雨のせいでだいぶ汚れてるんだ」


「はい!こちらに私が管理しているシェルターがあります。どうぞついてきて下さい」



私とご主人様はシェルターに入る。


「こちらが、シャワールームです。そこを捻れば濾過されたお湯が出ますので。服は私が洗っておきます。その間は、前ご主人様ので申し訳ありませんが、こちらを着ていて下さい」


私は、綺麗にたたんでおいた服とタオルを渡す。


「ありがとう!助かるよ」


「では、ごゆっくり」

私は深々とお辞儀をして風呂場をでる。



シャワーの音を確認して、ご主人様の服をとり、洗濯に向かう。



洗濯をすると、汚れがひどく、すぐに水が黒く染まった。


手洗いで丁寧に洗う。


ぼやけてよく見えないが、感覚でわかる。


たぶん綺麗になったはずだ。


ある程度、水分を飛ばし、乾燥ポッドに入れる。



「メイちゃん……忙しいところ申し訳ないんだけど」

いつの間にかご主人様が近くまで来ていました。


「はい!何でしょう?」


「その…服が小さくて…もうちょっと大きい無いかな?」



しまった。



ぼやける視界が憎たらしくてしょうがない。


「申し訳ございません!すぐに持ってきます!」

私は急いで代わりの服を取りに行った。




無事にご主人様が着替え終わり、リビングで持ってきた瓶から液体をコップに注ぎ、飲む。


臭気センサーで感知するとお酒のようだった。


「ねえ、メイちゃん」


「はい!何でしょう?」


「もしかしてさ…目が悪いんじゃない?」


バレてしまった。


「も…申し訳ありません。50年ほど前からアイカメラのピント調節機能が不全で……」


「ありゃりゃ、どおりで動きがぎこちないと思ったんだ」


「普段通りの仕事をするのなら全く問題ないのですが…ご迷惑をおかけしました」

私は深々とお辞儀をする。


「いやいや、気にしないで。でも、それじゃあ不便でしょ?」


「まあ、完全に見えないわけではないので…」

私は苦笑いをする。


「う~ん、直せはしないけど…あっ!コレなんか付けてみたら?」


ご主人様は、近くの棚にあった、前ご主人様が集めていた古い道具を取り、私の顔に掛ける。


皮膚感覚センサーと重量センサーの情報から掛けられた物を推測するに、眼鏡と呼ばれる古い人間用視力矯正道具のようだ。


前ご主人様はこの眼鏡を集めるのが趣味だったはずだ。


当時はナノマシンを使えば、万病が治る時代だったので、そんな骨董品を何故集めるのかが分からなかったが綺麗に今も定期的に掃除している。



「ありがとうございます…でも、私のアイカメラは、人間の目ではないので…」


そう言ってご主人様の顔を見た瞬間、アイカメラの奥からパチッ!とスパークが起こる。


「…!?!?」


思わず私は、膝から崩れ目を瞑る。


「大丈夫!!」


ご主人様も駆け寄ってくれて、肩を抱いてくれた。


「……大丈夫です…何とも…はっ!?」


「どうしたの?」


「ご主人様!見えます!ハッキリと!輪郭がハッキリと見えます!」


アイカメラの奥からキュイン!キュイーン!と小型モーターの駆動音がする。


ご主人様の顔をみると、ぼさぼさの無精ひげの一本一本までフォーカスが合う。

完全にアイカメラが直った。


「見えたの!良かったね!その顔…けっこう可愛いけど、眼鏡はもういらないかぁ」



可愛いと言われた…うれしい。



「……せっかくなんで、この眼鏡頂いてもよろしいですか?」


「いいよいいよ!僕のじゃないけど…でも、前のご主人様も喜んでるんじゃない?」


「そうだと、なお嬉しいです」

私は満面の笑みだったと思う。




次の日。


私は、眼鏡を掛け、ご主人様の朝食を作り、プログラム通りの掃除を行う。


外の掃除をしていると、ご主人様が、外に出てきた。


「おはよーメイちゃん!」


「標準時刻11時30分なので、こんにちはです。ご主人様」


「え!もうそんな時間なの?外が暗いから全然分かんないや!」


「そうですね…記録によれば、タイセンで使われた爆弾や、大規模火山噴火の影響で世界中の空に塵が舞い上がって、厚い雲が覆っているそうです。もう100年お日様を見ていません」


「えーーー!100年は大変だね!気が滅入っちゃうよ」


「その後、ナノマシンを散布して浄化はしたはずなんですが、なかなか晴れ間が見えませんね。予定では、もう浄化も終わってるはずなのに、まだ黒い雨が降るんですよ」


「まあ、予定は未定だからね」


「太陽が出ないおかげで充電もあんまりできないので、1年おきしかお掃除とかできないんですよ。今年もあとちょっとで休眠状態になっちゃうんです」


「へ~、そりゃ困ったね…そうだ!良いこと考えた!メイちゃんはそのままお仕事続けてていいからね!」


ご主人様はそう言うとどこかへ出かけました。



掃除が終わる頃、ご主人様は戻ってきました。


そこら辺に落ちているガラクタをいっぱい運んできて。


「どうしたんですか?」


「いや、困ったときは神頼みだからさ、神社でも作ろうかと思ってね」


「ジンジャ?」


「神様を奉るところだよ」


「へー、そんな物があるんですね」


「ちょっと手伝ってくれない?」


「もちろん!何を作ればいいですか?」


「こういう鳥居っていうのと、こんな感じの祭壇を作ろうと思うんだ」


そういうと、ご主人様は地面に鳥居と祭壇の絵を描きました。



トンカントンカン作業をする私たち。



1時間かけて不格好ながら、それっぽい物ができた。



「これで良し!あとは、こいつをお供えして…」

ご主人様はコップに、持ってきた瓶からお酒を注ぐ。


「お酒ですか?」


「そうだよ。特に神様に捧げるお酒は御神酒って言うの。神様もお酒が好きなんだよ」


「そうなんですか。じゃあ、明日から毎日捧げますね」


「古いのは僕が飲むから頂戴ね」


「わかりました」


「じゃあ、一緒に拝もうか?」


「オガム?」


「こうやって、両手を合わせて、心の中で願い事を呟くんだよ」


そういうと、ご主人様は両手を合わせてぶつぶつ独り言を言いました。


どうやら、日が差しますようにとか、他の人が見つかりますようにとか言っているみたいです。


そんな何個も何個もお願いして良いのでしょうか?


「私の…願い…」


両手を合わせ、考える。

私は何をお願いすれば良いんでしょうか?




次の日。


眼鏡を掛け、朝食を作り、いつものように外に出ると、太陽が顔を出していました。


「神様ってホントにいるんだ」



私はびっくりしました。



私はご主人様の瓶からお酒をコップに注ぎお供えします。


「たしか…両手を合わせて…」


やっぱり、何をお願いすれば良いのでしょうか?


ひとしきり考えて、諦めて、外の掃除を始めることにする。



「おはよー!おっ!さっそく御神酒パワーが全開だね!晴れたよ!」


「そうですね!あとは、ホストコンピューターが繋がれば良いんですけど」


「ホストコンピューター?」


「はい。シェルターの奥にココのメインコンピューターがあるんですけど、そこから世界中にあるホストコンピューターと繋がってるんです。いろんな情報が載ってて、いま世界がどうなってるとか、検索できたりして便利なんですけど…」


「ちょっと、見てみようか?」


「はい!お願いします!」


ご主人様に深々とお辞儀をして、案内する。



地下。メインコンピューターの前に来た。


モニタの電源は落ちて、黄色いランプがチカチカ点滅していた。


「あ!電源が復帰したみたいです」


黄色いランプの点滅は電源が来ている証拠だ。


今までは、私の電源やシェルターの生命維持装置に電力が優先的に供給されていたため回らなかったのだ。


太陽が出たので発電量が増え、こっちまで供給される余裕ができたのだろう。


「えい!」

ご主人様は電源ボタンとおぼしきスイッチを押す。


ジーーー、ジーー、ジー。

モニタが光り、電源が入った。


「ちょっと確認します」

私はメインコンピューターにアクセスする。


繋がった。


「メインコンピューター…接続完了。ホストコンピューター…」

応答を待つが繋がらない。


「どう?」


「ダメです…何ででしょう?」


モニターには世界各国にアクセスする様子が映し出されていた。


「さあ?まあ、ほっといたら何かしら何とかなるんじゃない?」


「そうですね。ほっときましょう」


私はモニターの電源を落とし、メインコンピューターに世界中のホストコンピューターにオートでアクセスを繰り返すように命令を出して、ほっとくことにした。



夜。御神酒を下げて、ご主人様に渡す。


「いやー残念だったね。何かしら成果があるかなって思ったんだけど…」

残念がるご主人様。


「いえ……この数日で、アイカメラが治ったり、お日様が出たり、電気に余裕が出て1年中活動できるようになったんです。すごい成果じゃないですか!」


私は素直にそう思う。



100年間変わらない毎日が劇的に変わったのだ。

ご主人様が神様だと言っても過言ではない。



「そうかなぁ?でも、他の人や、他のロボット達がどうしてるか気にならない?」


「気になりはしますけど、今はご主人様に仕えるだけで幸せです」


「アンドロイド型メイド眼鏡っ娘に言われるとホントに嬉しいねぇ。美人だし」


「??なにか逆のような気がします」


「気にしない、気にしない。そういえば、お酒は飲めないの?」


「ロボットですよ?ショートしちゃいます」


「そうだね~、でも、寂しいねぇ~、もうちょっと飲んじゃお~と」


「あんまり飲みすぎは体に悪いですよ?」


「この一杯で終わるからさ」


「気を付けて下さいね」



私は、切にそう思う。


ご主人様がいなくなったら世界は本当に寂しい。


今の自分には耐えられない。


もし、そうなったらお酒でも飲んでショートでもしようかしら?



夜は更けて寝る時間になる。


地下のメインコンピューターは今も世界中のホストコンピューターにアクセスを繰り返していた。


今も、応答はない。

8/18誤字があったので訂正。

8/21ミス発見。訂正。

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