終わり異世界転移物語
「審判の門だ!」
俺は見慣れた景色に思わず叫んでしまった。
何処までも続く雲の上のようなふわふわとした世界。
此処は、俺が死んでから一番最初に訪れた場所に間違いない。
しかし、神様がいない。
何処に行ったのだろう?
俺は酒瓶をもって歩き出した。
しばらく歩くと、酒パワーが不足してきたため、座って飲むことにした。
グビグビ!
「ぷはぁ~!いつもながらこの大吟醸はうまいね!」
俺は上機嫌だった。
「あっ!山崎さんじゃありませんか?おーい、山崎さーん!」
聞き覚えのある声が聞こえる。
俺は声の聞こえる方に目を向ける。
そこには、色白の黒髪で標準女子より少しからだが小さく、やせ細ってる女の子がいた。
たしか、16才だったはずだけど、しばらく見ないうちに大人びている印象を受ける。
「純ちゃん?」
俺は恐る恐る名前を聞く。
「そうですよ!!お久しぶりです。4年ぶりぐらいですか?その節はお世話になりました」
深々とお辞儀する純。
「ああ。もう4年も経ってたんだ……早いねぇ」
「そうですね……」
純は困った顔をしながら笑った。
「ここにいるって事は……亡くなっちゃったの?」
俺は少し複雑な気分で聞いた。
「はい。多臓器不全で……でも、お医者様からは褒められました。この病気でここまで生きた患者は初だって」
笑いながら答える純。
笑顔が痛々しい。
「そうか……まあ、俺も役に立ったみたいで良かったよ」
「はい!感謝してもしきれないです!!おかげさまで最後の思い出ができました」
純の目からは涙が一筋溢れた。
「どんな思い出ができたの?」
「あの後、半年ほど退院できましてお父様といろんなところに旅行に行きました!」
涙をぬぐい、満面の笑みで嬉しそうに話す純。
「そうか、あのお父さんも頑張ったんだね」
そう、たしか、純の父親は大手会社社長だ。
いつも忙しくて世界中を飛び回っていた。
旅行なんて時間を取る方が難しい、そんな人だった。
「はい!無理して体調を崩さないか心配でしたけど」
苦笑いを浮かべながら純ははにかんだ。
「いい思い出だね。……そういえば、純ちゃん」
「はい?なんでしょう?」
「4年経ったっていうことは、もう成人だよね?飲める?」
俺は酒瓶を見せる。
「実は飲んだこと無いんです。でも、飲んでみたいです!」
目を輝かせて言う純。
「いいねぇ!飲み過ぎても、もう死ぬことは無いんだし、ちょっと一杯やってかない?」
「はい!喜んで!!」
純はキラキラとした笑顔で答えた。
俺と純はその場で座り、飲み始めた。
「あーーー!あの時の変なおっさん!!」
そこに、足のある幽霊が割って入ってきた。
「あれれ?あの時の古井戸の幽霊ちゃんじゃない?どうしたの?」
突然の再会に少しビックリする。
「どうしたもこうしたもありません!!あなたのお酒で成仏しちゃったんですぅ!!」
プンプンという擬音が聞こえそうなほど怒り気味に話す元古井戸の幽霊。
「あらら。そりゃ良かったでいいの?」
「まあ、良かったと言えば良かったですけど……なんか納得できません!!」
頬を膨らませ腕を組みプイッと膨れる幽霊。
「まあまあ、こいつを一杯飲んできなって!」
俺は酒を渡した。
「あの……山崎さん。この方は?」
純は裾を引っ張りながら聞いてくる。
顔を真っ赤にしている。
そう言えば、病院暮らしが長くて人見知りだっけか?
「ああ、紹介するよ。この幽霊は古井戸で成仏できなかった幽霊ちゃん。うらめしや~が得意なの」
「なんですか!その紹介!!私はあの古井戸の守護霊ですぅ!名前は……勝手につけて下さい!」
名前がないのが恥ずかしいのか、ぶっきらぼうに言う幽霊。
「そう。じゃあ、コイちゃんで」
俺は指をさしながら言った。
「なんですかコイってぇ!魚ですか!!」
魚の真似をしながら反対する幽霊。
「いいじゃん。コイにコイする五秒前って感じで可愛いじゃん」
「意味が分かりません!!」
「ふふ!面白い方ですね!!」
純は堪えきれずに笑う。
「ああ、この笑ってる可愛いひとは純ちゃん。俺が臓器提供したひと」
「そうなんですかぁ。ゾウキテイキョウ?なんですかそれ?」
キョトンとした顔で聞くコイ。
「俺たちがいた世界では人のモツなんかを他の人に移植して病気を治す治療があるの」
「ええ!!そんな切ったはったで治るんですかぁ!!」
オーバーなリアクションで驚くコイ。
「そうなんです。でも、死んでしまいました」
困ったように笑う純。
「まあ、生身だもん。絶対は無いよ」
俺はぐいっと飲みながら言う。
「そうなんだ……で?久しぶりに再会したので、おっさんと飲んでるの?」
神妙な顔で聞くコイ。
「山崎さんは命の恩人です。それに生前は一度しかお会いできませんでしたし……当時は未成年だったのでお酒を飲むことも叶いませんでした」
「へ……やまざき?だれ?」
ポカーンとした顔で俺に尋ねるコイ。
「??ここでお酒を飲んでる人ですよ?お名前ご存じなかったんですか?」
「そうなんだ。へー。山崎さんねぇ。ふ~ん。初めて知った」
じろじろ俺の事を眺めながら感心するコイ。
「俺も死んじゃったからね……違う名前にしようかと思ってたんだ」
俺は少し恥ずかしくなって適当に答えた。
「でも、おっさんとしか言ってなかったじゃないですか」
「そうだっけ?まあ、事実だしいいじゃん。名前なんて必要ないよ」
「ふふふ!山崎さんは亡くなってから、随分と面白い事をしてらしたんですね?」
可愛く笑いだす純。
「ああ!とっても面白かったよ!!純ちゃんも行ったらいいよ」
「そうですねぇ。行けたらいいですね」
そう笑顔で答えた。
「そうはいかん。この娘は行くところは決まっておる」
いつの間にか隣に座って酒を飲んでいるひげもじゃの爺さんがハッキリと言った。
「あれ?神様じゃん。久しぶりー」
俺はいきなり現れた神様に挨拶する。
「あの……決まっている所とは?」
純はビックリしながら俺の後ろに隠れながら聞く。
「おぬしは、輪廻の理の中で生き続ける。まだ、理を抜けるには早い。……安心せい。輪廻の際に記憶は消える」
「そうですか……またこの病気を持っていますか?」
「それはわからん。これは私の関知するところではない。私は奇跡担当なのでな」
「そうですか……山崎さんのことを忘れるのは少し寂しいですが、決まりなら仕方ないですね」
純は少しだけ寂しい表情をした。
「あの~なぜ、このおっさんは奇跡を受けれられたの?」
コイは恐る恐る質問する。
「この山崎は、悪行がほとんど無い。その上、娘のために命を差し出した。人々の思いが私に伝わり、奇跡を起こした。そんなとこじゃ」
「へ~。山崎って奴は凄いんだね~!ホント、ただの酒飲みじゃ無かったんだ!!」
俺は恥ずかしくてワザと言ってみた。
「あ~!照れてる!おっさんが照れてる~!!」
コイは笑いながら指をさしてくる。
「可愛いですね!」
純からも言われた。
俺は顔が火照ってきた。
「ところで、神様。このコイちゃんはどうなるの?」
「こいつは守護霊なのにその事を忘れて悪行を積んでおった。なので、試練を与える」
神様の言葉にブー!と思いっきり酒を吐き出す。
「えー!!酷いですよ!!」
「そうそう。忘れてたんだからさ!何とか許してあげてよ~!」
「そうか?では、この男に付き従う試練を課す。せいぜい励めよ」
「えー!それもちょっと……」
「いいじゃん!一緒にお酒飲もうよ!!」
「決定じゃ。では、今後はこの男のサポートをせよ」
「やめてーー!」
「嫌か?では堕天して地獄行きじゃ」
「いやーー!」
コイは懇願するが受け入れらなかった。
「ところでさ……俺はどうなるわけ?」
「おぬしは中々見どころのある行動を心がけておった、実は天界は人手不足での、ワシの下で奇跡担当官の使徒としての仕事をしてもらう」
「えーーー!」
コイが驚く。
「……」
「どうしました?山崎さん?」
純が心配そうに見る。
「……お酒、飲める?」
「心配するところはそこかい!!!」
コイは山崎につっこんだ。
「もちろんじゃ」
神様は頷いた。
「じゃあオッケー!」
俺は満面の笑みでオッケーマークを作る。
「おめでとうございます!」
純は満面の笑みで答えた。
「そんな……バ・カ・な」
コイは口をあんぐりと開けて放心状態だった。
「じゃあさ……初仕事していい?」
「なんじゃ?いいぞ」
「この純ちゃんをさ、病気無く幸せな天寿を全うさせれるような体に生まれ変わらせたいと思うんだ」
「え?」
「病気無く幸せに生きるって、現世にとってはそれこそ奇跡だと思うんだ、だからそんな奇跡を起こしてあげたい」
「ふむ……それだったら簡単じゃ。やってみるか?」
「純ちゃんが嫌だったらしないけど……」
俺は純の顔をまっすぐ見る。
純は少し迷っていたが、意を決して力強く答えた。
「お願いします!!私……山崎さんに奇跡を起こしてもらいたいです!」
「では、決まりじゃ。純よ、そこに立て。そして、山崎よ、その前に立て」
純は立ち上がり、俺はその前に立つ。
神様は俺の後ろに立ち、肩に手をかける。
「願え、山崎よ。この娘を健やかなる前途を想像し。思え、山崎よ。この娘の未来を」
神様は脳みそに直接喋っているかのように俺に語り掛ける。
俺は両手を純にかざし、願う。
純の周りを光の渦が包んだ
「山崎さん……私は、あなたに会えて良かったです。最後の最後までお世話になりっぱなしでごめんなさい」
純の瞳から涙が一筋こぼれた。
「気にしなくていいよ。人は誰でも他人に迷惑をかけるもんさ。俺なんかが役に立ったのなら嬉しいねぇ。純ちゃんみたいな美人さんに感謝されると特に嬉しいよ」
「ありがとう……お元気で」
純は涙を流しながらにっこりと微笑んだ。
「ああ。純ちゃんもお元気で」
俺も微笑む。
眩い光が純を包み込んだ。
そして、消えた。
俺は少しだけ涙がこぼれた。
「いっちゃったね」
コイがしみじみと言う。
「ああ。元気でいるといいなぁ」
俺は涙をぬぐい、そう切に願った。
「さて、山崎よ。仕事はまだたっぷりと残っておる。こちらに来い」
「え!もう一杯飲んでから行こうよ!」
俺は酒瓶をつかもうとしたが、先にコイにとられた。
「ダメですよーだ!さあ、神様!仕事に向かいましょう!」
コイは意地悪だった。
「ふむ。我が判断は間違いではなかったの。では行くぞ」
「……はーい」
俺は諦めて神様たちの後をついていった。