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魔窟(後)

私達はいつもとは違った光景に焦る。


「魔物!!」


ツルハシと、細長い剣を取り出し、戦闘態勢になる。


「わわ!!ちょっと待ってくれよ!!人間だよ!!に・ん・げ・ん!」


「へ?」


私達は顔を見合わす。


そして、もう一度おっさんを見る。


「驚かしてごめんね-!お詫びに一杯どう?」


いつの間にか取り出したコップに酒を注いだおっさんが、私達に差し出す。


私達は訳がわからなかった。


とりあえず、武器はおろすことにする。



とりあえず、お腹がすいた私達はおっさんも交えて食事を取ることにした。


食事は先ほどのチカゾウを焼いて、香辛料で味付けした物に、携帯用のパンだ。


「うまーーい!魔物ってこんなにおいしいんだね!」

おっさんは遠慮無くガツガツ食っている。


おっさんから貰えたのは酒のみ。

もちろん私達は断った。


この第5階層は、魔物は出ない。

しかし、壁のない広い空間のため、方向感覚が狂ってしまうと即遭難だ。

注意をしておくことに越したことはない。


また、最大の問題は、ユーノが絡み酒という事だ。

それはもう蛇のように巻き付き、舐め回されているのではないかと錯覚するぐらいベタベタと触ってくるのだ。


正直、後半の理由が大半だ。


「悪いね、付き合えなくて」


「こちらこそ申し訳ない。俺はコレしか持ってないからねぇ」


「私……飲みたかった」

ユーノはご飯を食べながら拗ねている。


絡みたかったの間違いではないだろうか?



「さて……ご飯も食べたし、もう一仕事頑張りますかね」


私は立ち上がる。


「おねーさま!どこら辺を探します?」


「まずはエレベタの前を探してみようかな?」


「ねえねえ!俺も手伝っていい?食料の借りは働いて返そうかと……」


「ああ。いいよ。ただ、邪魔はしないでね」


「ありがとー!!」


こうして、おっさんを含めた私達はエレベタの前を探検する。



しかし、小一時間探したが、あるのは無限に続くような広間があるだけだった。


しばらくして、またエレベタの前に戻ってくる。


「はぁ~。収穫無しか」

私は思いっきり溜息を吐く。


「まあまあ、おねーさま!元気だして!!」

ユーノが努めて明るく語りかける。


「……」

おっさんは、エレベタの部屋の奥を見つめて、何か考え事をしている。


「どうした?おっさん」


「いや……この裏。なんだか変な感じ」

そう言い残すと、おっさんは静かにエレベタの裏に回る。


そして、エレベタの裏に回ったおっさんは、少し盛り上がっている場所で地団駄を踏み出す。


「何かあった?」


「さっきのツルハシでここを掘れる?」


「できるよ」


私はツルハシを取り出し、おっさんが踏んでた所を掘る。


石でできた床をガンガンと掘り進める。


しばらく掘り進めると、大きな空洞が出てきた。


「あらら!!空洞だ!ユーノ!ちょっと光を!!」


「はい!おねーさま!!」


ユーノは大急ぎでランタンを灯し、渡してくれる。


「……階段か?階段だ!!」


その空間は紛れもない下り階段の入り口だった。


私はスキルを使い、急いで人が入れるような大きさの入り口を掘る。


「おねーさま!!やりましたわ!!」


「おっさん!すまねーな!!助かったわ!」


「良かった良かった。ご飯の借りは返せそうだね!」


「十分、十分!!さて、下りてみますかね!」


「おーーー!」

ユーノとおっさんは拳を高々と上げて声を上げた。



階段で下ると、そこには手つかずの宝石や、アイテムがあった。

残らず回収して部屋を隅々まで探す。


「ねえ。もう良いんじゃない?あんまり欲張ると罰が当たるよ!」


おっさんは、意外と小心者のようだ。


「へーきへーき!ここまで来たら詳しく調べないともったいないって!」


「そうそう!おねーさまの言う通り!」


私とユーノは手際よく探す。

そして、隅にある不自然な出っ張りを捻る。


ゴゴゴゴゴ!


「やっぱりあった!隠し扉だ」

私とユーノはハイタッチをして喜ぶ。


「止めとかない?なんだか嫌な予感が……」


おっさんは本当に小心者だ。


「ほらほら!置いてくよ!」

私達はどんどん中に進む。


「待ってよー!!」

おっさんもついてきた。


3人が入ると、隠し扉が閉まる。


「ほら!やっぱりなんか変だって!」


「大丈夫!大丈夫!」


私達は、どんどん進む。


ガコン!


「あっ……」


突然床が抜けた。


その中は滑り台のようになっていて凹凸が無く、落ちるしかできなかった。


「あーーーーー!」


私達は落ちる。


そして、約1階層分ぐらい落ちると、そこには広い空間が広がっていた。


「ガオオォォオオォォオオオ!」


そして、巨大なドラゴンのような動く石像ゴーレムが火を噴きながら待ち構えていた。



「ごっ!ゴーレム!!」


「おねーさま!!危ない!!」


体がいきなり横に飛ぶ。


床に転がり、目を開けると、今まで立っていたところが火の海になっていた。


ユーノが危険を察知して、タックルをしてくれたようだ。


「ありがと…ユーノ」


……この際、胸を掴んでいるのは許してやろう。


「大丈夫ですか!?おねーさま!!」


ユーノは手のひらを動かす。


「あひゃっはっ!やめて!くすぐったい!!……っていうか!揉むなーー!!」


私は拳骨をかます。


せっかく、許してやろうと思ったのに。はぁ~。


そんな漫才は置いておいて、私達は急いで立ち上がる。


そして、武器を取った。


ゴーレムは、やっと気付きこちらを向く。


「私が先に行きます!!」


ユーノはスキルを使い全力で走る。


「ゴオォオオ!」

ゴーレムは強烈な炎をまき散らす。


しかし、ユーノは炎より早く走り、あっという間に足下まで近づく。


「はっ!」


ユーノは足に向けて剣を突き立てる。


ガギギィギィィン!


金属を石でひっかいたような嫌な音が響く。


「うそ!欠けちゃった!」

ユーノはビックリしつつ、走る。


「グオォオオ!」


ゴーレムは足を上げ、踏み込み、ユーノを潰そうとするが、当然ユーノは逃げていた。


ドシィィィイイン!ガコ!

ゴーレムが盛大に足下を踏み抜き、床が抜ける。


ゴーレムは足を取られた。


私は、炎を喰らわないように走る。


そして、まだ地上にある、左足にツルハシを喰らわす。


「せいや!」


全力で打ち込んだツルハシは、見事ゴーレムの足を剔る。


「ゴオォオォォオオ!」

ゴーレムが悶えたような声を上げる。


私は間合いを取るため走った。



ゴーレムは、剔られた左足を使って右足を抜こうとするが、その瞬間、左足に亀裂が入る。


そして、ポッキリと折れて、倒れた。



「ゴオオオオオォォ!」


「なんか、いけそうじゃない?」


「油断大敵ですわ、おねーさま!」


その、ユーノの言葉は的中する。


なんと、頭が抜けて、飛び跳ねだしたのだ。


ドシーン!ドシーン!

「ゴオオォオオオ!」


しかも、成人男性の背の高さぐらいまで飛びながら炎をまき散らしている。


「きゃあーー!」

私達は、右往左往しながら逃げるだけで精一杯だった。


ゴーレムは炎の威力こそ弱まったが、そのスピードは段違いに速い。


しかも、その飛び跳ね方は不規則で予測しづらい。


攻撃を加えるなんてできそうになかった。


私達は、一心不乱に右往左往して逃げる。




そういえば、おっさんは何処に行ったのだろうか?


私は、おっさんの存在を思い出し、逃げながら探す。


そして、さっきの滑り台式落とし穴の横で、酒を飲んでいるのを発見する。


「バカ!飲んでる場合かって!!」


私の予想が的中する。


ゴーレムの頭がおっさんに向かって行きだしたのだ。


「おっさん!!あぶなーーーい!!」

私は走る。



しかし、間に合わなかった。



私の願いむなしく。おっさんは、ゴーレムに喰われた。



「くっ!畜生!よくもおっさんを!!」


私はやっとゴーレムの近くまで来て、ツルハシを振りかぶる。


「ゴ!ゴボオォオボボォォオオ!」


振り下ろす瞬間。ゴーレムが悶える。

そして、穴という穴から液体を噴き出した。


「は?」


私は思わず手を止めた。


ゴーレムの瞳から生気がなくなった気がする。


私は、液体を少し舐める。

それは、無色透明の酒で非常に美味だった。


「おねーさま!!一体何が……」

ユーノは私の側まできて、呟く。


「わからん……おっさんが喰われて、酒が噴き出した、って、そうだ!おっさん!!」


私は思いきって、ゴーレムの横顔を思いっきり、ツルハシで剔る。


ゴーレムの頬付近が剔れた瞬間に、酒が噴き出し、おっさんも飛び出して来た。


「ぷはぁ~!!助かった。また溺れるところだった」

おっさんは、開口一番そう言った。


「おっさん!!」

私はおっさんに抱きつく。


「あーーー!ずるーーーい!わたしもーーー!」


ユーノはドサクサに紛れて抱きつこうとするが、私はスキルを使い、片手で頭を掴み、阻止する。


「おやおや?大丈夫?」

おっさんは軽い調子で言う。


「いや~良かった!!絶対死んだと思った。」


「ああ。確かに食べられちゃったもんね!って、ああーーー!」


「どうした?おっさん?」


「酒瓶が割れちゃってる!!」


おっさんは指を指す。


そこには割れた酒瓶があった。

しかし、そこから噴水のように酒が溢れていた。


「あれ……マジックアイテムだったんだ」

私は、呆気にとられた。


もみもみ。


「あひゃっはっはぁ!こら!ユーノ!!触るな!!」


しまった、つい気を抜いてしまった。

私はユーノを睨む。


しかし、ユーノは依然、私の手の中でもがいている。


私は自分の胸を見る。


そこにはおっさんの手があった。


「えっ!?」

「あっ!」


私の感嘆符におっさんが自分の状況を察する。


偶然だ、偶然なんだ。いきなり私が抱きついたもんだから、偶然手が当たってたんだ………………でも、私は恥ずかしくなってつい我を忘れて、手が出てしまった!!


私はスキルを使い、力一杯平手打ちをする。


「おっさんのバカーーーー!」


バシーーン!


「あいたーーー!!」


おっさんは吹っ飛んだ。



その後、ゴーレムの後ろに宝箱が振ってきて、沢山のお宝を手に入れることができた。


そして、エレベタの部屋が現れる。


私達は、エレベタに乗る。


「おっさん……忠告聞かないで悪かったな」

私は顔を見ることはできなかった。


おっさんは何度も止めていたのに、お宝に目がくらんで危険な目に遭わせたのは事実だ。

反省はしている。


「いや!いーよいーよ!」

おっさんは、平手打ちで真っ赤に腫れ上がった頬をさすりながら言う。


「くくく!私以外がおねーさまに触った罰ですわ!」

ユーノは楽しそうに笑う。


「あんたが触っても同じようにしてたけどね!!」

私は笑みを浮かべながら拳を握る。


「しかし、ホントに悪かったよ。お宝は3人で分けよう」


「いいって!俺は何にもしてないし。それに……」


「?」


「あんな危ない目に遭っても後悔はしていないだろう?」


「ああ!もちろんだ!!」


「??もちろんですよ」


私とユーノはハモりながら答える。


「でしょ?未知を開拓して前に進むのが冒険者なんだから、ただのおっさんが止めるのは筋違いってもんだよ。仕事の邪魔してんだからさ!」


おっさんはさわやかに答えた。


「はは!面白い!今夜は飲むか!!」

私は心の底から飲みたい気分になった。


「いいねぇ!俺はそっちの方が好みだよ!酒代だしてくれれば万々歳だ!」


「もちろんだ!」


私とおっさんはハイタッチする。


ガコン!

その瞬間。

おっさんの所だけ、エレベタの床が抜けた。


「あーーーれーーー!」


おっさんは無情にも落ちていった。


「おっさーーーん!」


私達は、落とし穴に向かって、叫ぶ。


ガコン!ガコン!!

エレベタが到着すると、落とし穴も塞がる。


私達は、放心状態で外に出ると、そこは、『魔窟』の出入り口だった。


「おっさん……」


「おねーさま……一旦キルヒの街に戻りましょう。日が暮れます」


外に出ると、日没寸前だった。


「おっさん……」


後味の悪い、最後だった。


翌日、『魔窟』に行ってみたが、おっさんの姿は見あたらなかった。


「おっさん……飲むって行ったのに」


私は、寂しかった。


次の日の夕方。

『魔窟』をもう1回探索した私達は、入り口の縁で座り込んでいた。


「おねーさま!!」


ユーノが抱きつく。

そして、胸を掴む。


しかし、私は無視をした。


「あれ?コレは重傷ですわ」

ユーノが諦めて、隣に座る。


「はぁ~」


「おねーさま!元気だして下さい!あの『魔窟』を攻略した初めての冒険者なんですから」


「そんな気分じゃないよ。おっさん。……死んでるよなぁ」


「仕方が無いじゃないですか!?あんなの予測できませんって!」


「お前は、よくそんなサバサバできるなぁ?」


少しだけユーノに苛ついたので、睨み付けてしまった。

しかし、ユーノは少しも動じず言い返す。


「もう!おねーさまこそ、そんなにグジグジして……もしかして惚れてたんですの?」


「バカ!そんなんじゃないって!!」


「じゃあ、諦めて前に進むべきです。もしかしたら、また会えるかもしれないじゃないですか?」


「そうか?」


「そうです!!未知を開拓して前に進むのが冒険者って言ってたじゃないですか!おねーさまは冒険者なんでしょ?」


「……」

私はユーノに何も言い返せなかった。


そして、ユーノはまた、私に抱きつき、胸を掴む。


「とにかく!おねーさまがそんな辛気臭くちゃ、私も元気が出ません!いつものおねーさまに戻って!!」


明らかに強く、明らかに激しく揉み始める。


くすぐったい。


「はぁ~……調子に乗るな!!」

私は拳骨をユーノの頭に落とす。


「あいた!……でも、嬉しい」


「ひっ!そんな趣味も追加したのか?」


「あーー!ひっどーい!私は、そんな変態じゃありません!!…………元気になりましたぁ?」


「ああ、ごめんな。だから、もう少しだけ、感傷に浸らしてくれよ。今日だけだからさ」


「わかりました。そこで待ってますからね」


「ああ。悪い」


座りながら、もう少しだけ考える。


やっぱり、ユーノは私にとって最良のパートナーだと思う。

なんだかんだ言っても背中を預けられる存在は冒険者にとって非常にありがたい。

私はもう、ソロには戻れそうにない。


「しょうがない……パーティーに入ってやるか」

私は呟き、立ち上がる。


そして、ユーノの元に笑顔を浮かべながら歩いて行った。

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