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舌戦!光の勇者VS魔王(前)

ここは魔王城『玉座の間』に続く回廊である。


俺は光勇者として、王の命で魔王を討伐するべくこの地にやってきた。

名をカール・リヒター・フォン・スベロンニアという。


「さあ、カール、ここが目的地の玉座の間よ。最後の戦い……頑張りましょう!」


こいつは、相棒で、ココ・ラクエンド・フォン・フリューと言って、数々の死線を一緒に潜り抜けてきた超級の魔導士だ。


俺とは同い年で成人して3年になる。


「ここかぁ」


とうとう着いてしまった。

この重厚な扉の先に魔王がいる。


「ココ。準備はいいか?」


「ちょっと待って。魔力と体力を回復させとかなきゃ」

そう言って、ココは魔道具の小袋から回復用のポーションを取り出し、渡してくれる。


こいつは本当に頼りになる……少し心配症で怒りっぽいところがたまに傷だけど


俺はポーションを受け取り、すぐに飲み干す。

力がみなぎってくる。


「さあ!行きましょう!!」


ココがそういうと、俺はその重厚な扉を開いた。


そこには、魔王ルシフルエント…………と、花柄の服を着た、変なおっさんが酒を飲み交わし、談笑していた。


「…ハァ?」

俺達は予想外の事態に茫然とした。


「おお!妾の勇者!こっちに来い!ちこう寄れ!」


「彼が噂の光の勇者カール君?おいでよ!一杯飲もう!」


魔王とおっさんが俺を指名して呼ぶ。

しかし、魔王が漆黒のローブを取った姿を初めて見るが……女性魔族だったのか。


俺は魔王ルシフルエントがあまりの人間女性に近い姿に驚きと共に、そのグラマーな体つきに顔が火照ってくる。


「カール!これは罠よ!こうやって油断させといて……って、なんで、顔を赤らめてるのよ!?」


ココはすぐに俺の変化に気付き、文句を言ってくる。

ホントに女性に関するカンの鋭さは天下一品だ。


「ん?妾の本当の姿に欲情しておるのか?では……これはどうじゃ?」


そういうと、魔王ルシフルエントは立ち上がり、マントを取る。


「ヒッ!」

「ちょっと!あんた!露出趣味でもあるの!!」


思わず俺は手で顔を覆い隠し、ココは文句を言った。


それもそうだ、魔王ルシフルエントのつけてるその装備は、踊り子のつけてる装備より過激で、局部の金属以外は薄い透けているヒラヒラのみで、ほぼ全裸に近い。


「おっ!過激な衣装だねぇ!でも、出るとこはスゲー出てるから、すごい似合ってるよ!!」

おっさんはマジマジと見て感想を言う。


「そうか…では、妾の勇者の感想を聞こうか?」


「そそ、そそそ、そそそんな服!直視できるか!」

俺は余りに唐突な展開に耐えきれず、噛んでしまう。


おっさんの図太さが少しだけ羨ましかった。


「さっきから妾の勇者って言ってるけどアンタのじゃないから!!」

いきなりココが大声を出して噛みつく。


「ん?嫉妬か?ロリ魔道士よ!」

魔王ルシフルエントはココの一番気にしている事を言う。


「ろろろっロリじゃないもん!!胸だって最近大きくなったんだから!!……ちょっとだけど」


「その矯正下着をつけてか?」


「ヒッ!……なんで、知ってるの?」

思わずココが素に戻った。


というか……そんなのつけてたのか、おまえ。


「いいねぇ。涙ぐましい努力だねぇ」

おっさんは酒を飲みながら呟く。


「どうじゃ妾の勇者よ。そんな、ロリ魔導士なぞ捨てて、妾と一緒に世界を征服せぬか?」


「本音が出たわね!!もちろん勇者は世界を救うわよね!」


あらら?何だか俺が想像していた最終決戦とは違う感じに進んでいる、おかしいなぁ?


「ちょっと!勇者!聞いてるの(か)!!」

なんと、魔王ルシフルエントとココが同時に同じことを言った。


というか……なんで、俺が責められてんの?


「モテる男は……辛いねぇ」

いつの間にか、おっさんは俺の肩を叩き、意味深な顔で呟いた。


「うわ!おっさん!いつの間に!!」


「同じ男として……羨ましいぜ」

おっさんは、酒を飲む。


「ちょっと!魔族のおっさん!馴れ馴れしく私の勇者に触らないでよ!」


ん?私の勇者?

ちょっと個別に問いただしたいフレーズはあるが、そんなことよりもココが魔導士の杖に魔力を貯め始める。


おいおい!それって、広範囲爆裂魔法じゃねーか!俺ごと吹っ飛ばすつもりか!?


「ああっと!勘違いしないでくれ!!俺はただのおっさんだから!!人間だって!」

おっさんは驚き、両手を上げて降参したようなポーズをとる。


「ウソ!!ただのおっさんが魔王ルシフルエントと酒飲んでるわけないじゃない!!」


「そやつの言ってることは本当じゃ、ロリ魔導士。魔法を止めぬか」


「だから!ロリ魔導士じゃないって!!」

ココは変なところに突っかかる。


「もっとも……妾も散々魔法をくらわせたが、傷一つ、つかなんだ。ロリ魔導士の魔法など効くとは思えん」

魔王ルシフルエントは火に油を注ぐ。


「なーーーーにーーーー!!じゃあ!試してやろうかーーーーー!!」


やばい……ココの目が赤くなっている。こいつはマジだ。


「大地の底で煮えたぎる炎の力よ……我の呼びかけに答え……この場に……」


「ココ!ちょっと止めろよ!!俺までダメージくらっちまう!!」


俺の願いは聞き届けられなかった。


「解放せよ!!エクストリーム・バーストォ!!」


エクストリーム・バースト……野外に大量の魔物が出たとき使う超一級広範囲爆裂魔法。


一説によれば一撃で千体の魔物を屠ることができる。


現在では、ココとココの師匠様しか使えない魔法だ。


そんな魔法を室内で放てば、どんな目に遭うか……想像がつくだろう?


「げほげほ!」


俺達は煤で体中真っ黒になりながら立ってはいたが、舞い上がったチリや埃のせいで咳払いが止まらない。


「ホントに……これだからヒステリック・ロリ魔導士は困る」

魔王ルシフルエントも少し煤で汚れてはいたが普通に立っていた。


よく見ればおっさんも煤で汚れてはいるが、普通に酒を飲んでいる。

いったい何なんだ、このおっさん。


「ふん!!」

魔王ルシフルエントは指を鳴らして魔力を開放する。


一瞬にして、全員の煤は落ちて、ダメージも回復し、部屋に舞い上がったチリや埃なんかも無くなり、元の魔王城『玉座の間』に戻った。


「ウソ!」

ココは驚いて、周囲を見回す。


そりゃそうだ、いままで、この魔法を使って無事で済んだ奴らなんていない。

今だって、俺もココも相当数のダメージを喰らっていた。


……なぜか、魔王ルシフルエントに回復してもらったが。

というか、最初のダメージが自爆ってどうなのよ?


「バカも休み休みにして、本題に入ろう……なあ?妾の勇者よ」

魔王ルシフルエントはまた指を鳴らす。


中央に大きなテーブルが現れ、豪華な料理が魔族によって運ばれてきた。


「お!!やっと宴会が始まるの!!!じゃあ、こいつを用意しなきゃね!!」


おっさんは、どこから人数分のコップを取り出し、持っていた酒瓶から無色透明の酒を注ぎ、テーブルに置いた。


「さあ……座るがよい。こいつの酒は、毒は入っていない。安心するがよい」

魔王ルシフルエントは優雅に座る。


「どうする?」

ココはあまりの展開に指示を仰ぐ。


「どうするったって……どうしよう?」

俺も予想外の展開に頭がついていかない。


「ふん!妾の勇者もこいつぐらい図太ければもっと可愛いのに……」

魔王ルシフルエントは肘をつきながら隣のおっさんを見る。


おっさんは、無作法にも、もう食事を食べ始めていた。


「お!!めっちゃ美味しい!!!お酒にも合うし。ほらほら!!カール君もロリちゃんも食べなきゃもったないよ!!」


「ロリじゃありません!!ココです!!」

ココは叫ぶ。


俺は、お腹からグーと盛大に音をだした。

「……なんか、腹減ってきた」


「はぁ??ちょっとアタマ大丈夫?」


「まあ、取り敢えず座ろうよ。魔王ルシフルエントと言っても話せそうだし……ちょっと想像とは違うけど」


「外見に騙されちゃダメ!!エッチ!!」


「何言ってんだ……ロリ魔導士!!」

俺はいわれのないココからの暴言に暴言で返し、イスに座る。


「はぁ!?ちょっと!!あんたまで何言ってんのよ!!!待ちなさいって!!もう!!」


ココもひとしきり地団太を踏んで抵抗したが、俺が座ったのを見ると、諦めて座る。


「やっと来たか……全く。この妾をヤキモキさせてくれる愛い奴じゃのう、勇者よ」


魔王ルシフルエントは肘をつきながら憂いのある表情で微笑し、俺を見つめる。


正直……グラマーなボディにそんな表情をされたら、ドキドキする。


「……変態勇者」


俺の火照った顔を見たココはジト目で呟いた。


「バカ!何にも思ってねーし!!」


「ウソ!付き合い長いんだから全てお見通しですよーだ。変態勇者」


「うるせえ。矯正下着魔導士」


「あーーー!それ言っちゃう!!変態勇者!!」


「お前が変な事いうからだろ!?」


「川で体を洗ってたら覗いてきたクセに」


「ほう?妾の勇者はソッチ体系にも興味津々なのか?」


「あれは!偶然だって!!グ・ウ・ゼ・ン!!」


「いいねぇ……青春だねぇ」

おっさんはしみじみと呟く。


俺は不毛な争いに終止符を打つべく、大きく咳ばらいをする。


「ゴホン!……で、魔王ルシフルエントは何を話したいわけ?」


「その前に、妾を魔王、魔王と連呼するのはやめよ。妾は魔王など一言も言ったことは無い。不愉快じゃ」


ルシフルエントは腕を組み。フン!とそっぽを向く。

しかし、仕草一つ一つが、気品があって綺麗だなと俺は思う。


「ああ……ごめんごめん。じゃあなんて呼べばいいの?」


「ルシフルエントで結構じゃ」


「じゃあ、ルフェちゃんで」

おっさんが会話の間に入ってくる。


「おお!それは可愛い。採用じゃ!!」

ルシフルエントは驚き、そして喜んだ。


『なんだ?意外と……可愛い』


俺は不謹慎にもそう思ってしまった。


そんな様子をココに見られる。


さらに鋭くなったジト目で無言の抗議をしている。


「ルシフルエント……用件を聞こう」


「ルフェちゃんじゃ!」

ルシフルエントからもジト目で無言の圧力を受ける。


「ルッ!……ルフェちゃん、なんのお話でしょうか?」


「まあまあ、そんな態度じゃ、カール君も困ってるじゃない。まずは一杯やって緊張をほぐそうよ!ねっ!ねっ!」


おっさんは、酒の入ったコップを高々と上げて乾杯を促す。


正直、助かった。

こんな緊張感は泣きたくなる。


「ふん!まあ、いいじゃろう。ほら、みなの者。カンパイじゃ」

ルシフルエントもコップを掲げる。


俺達もコップを上げる。


「じゃあ、この出会いを祝して!カンパーイ!!」

「乾杯!!」


何だか、変な言い回しだったが俺たちは乾杯をする。


しかし、不思議な酒だった。


無色透明なのに、豊潤でフルーティな香り。

それでいて、後味はスッキリのワインのような酒は正直うまかった。


「うまい!!」

俺は思わず口に出して言ってしまった。


「でしょー!神様特製の大吟醸だからね!」

おっさんは満面の笑みで言う。


「ダイギンジョウ?聞いたことないわね」

ココも文句を言いながら飲んでる。


ココはあんまり飲めないのにおいしい酒だと飲みたがる困った性格だ。

そいつが何も言わず飲んでいるという事は相当気に入ったのだろう。


料理も口にする。

なんとも味わい深い肉のステーキをメインに据えたボリューム溢れる品々だ。


正直、うますぎる。


「料理も最高だな。ココ」


「別に…」


そうは言いつつも、いつの間にかステーキの半分は食べてしまっている。

小食のココがこんなに早くここまで食べるのは珍しい。


よっぽど美味しいのだろう。ほんとにツンデレだ。


「そうじゃろう。そうじゃろう。料理長に用意させたドラゴンのステーキじゃ。勇者のために最高級の料理を用意するのは当たり前じゃ!」

ルシフルエントは胸をはる。


でかい胸がさらに強調されるので目のやり場に困る。


「……えっち」

ココはそんな俺の考えを見透かしたように呟く。


「さてと……そろそろ本題に入ろう。ルシフルエント」

俺は取り繕うように真面目に切り出す。


「……」

ルシフルエントは拗ねたようにプイッと顔を横に向ける。


「ルシフルエントさん?」


「ルフェ」


「るふぇ?」


「ルフェちゃんと呼べと言ったろう!」


俺はルシフルエントの拗ねた理由があまりにもくだらなくて唖然とする。


「る…ルフェ…ちゃん。ご用件をお願いします」


話が全然進まない!!俺は諦めてルフェちゃんと呼ぶことにする。


「もちろん、決まっておろう!!今後の世界の支配についてじゃ!」

ルフェちゃんは立ち上がり、意気揚々と語った。


「おおーー!」

おっさんはパチパチと拍手をしながら合いの手を入れる。



憂鬱な俺達の魔王との舌戦は始まったばかりの様だった。

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