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ドラゴン伝説

人も寄せ付けない深い森の奥に三首のドラゴンが住んでいる。


ドラゴンの気性は荒く、怒ると暴れ回り、気象も操り、周辺の村々に大きな被害を与えた。


周辺の村々はドラゴンを恐れ、気を沈めるために年に一度3人の巫女を生け贄に捧げていた。



「今年もこの季節になってしまったか」


山を囲む周辺の村々が持ち回りでおこなう村長会。


重苦しい雰囲気で、今年度の座長である東村の村長、ユング・ローソンがため息混じりに呟いた。


「今年は、座長である東村以外の西・南・北の各村が担当だ。よろしく頼む」


ユングが机に額をこすりつけて、泣きながら語る。


「……」

「……」

「……」


各村長は無言で同意を示す。



「ちょっと待ったーーー!」


いきなり、ドアが開き、2人の男女の若者が村長会にズカズカと入ってきた。


1人はフルプレート身を包んだ男の戦士。


「俺は王の命によりやってきたローゼン・フォン・アウグストと言う。村長らの陳情により三首のドラゴンをこの剣で見事打ち倒してくれよう!」



もう1人は漆黒のローブに身を包んだ女の魔導師。


「私はアラミンスク・フォームル。見ての通り魔導師よ。ローゼンのお供をしているわ」


意気揚々とローゼンとアラミンスクは語る。


「おおーー!陳情が叶ったのですか!ありがたい!」

「助かった!」

「王様…」


村長達は口々に感謝の言葉を呟く。



「なにか…ご準備する物はありますでしょうか?何なりとご命令下さい」


座長のユングが代表して質問する。



「ふむ…そうだな、討伐する為の諸費用として金貨100枚が必要だ」


「ひゃっ!ひゃくまい!!」

村長達は目を見開き驚く。


「無理か?無理ならば仕方がない…この話しは無かったことにしよう」


ローゼンは無情にも言い放つ。


「いいえ!なんとか!何とかします!!お願いです!!倒して下さい!!」


ユング達は土下座をして頼み込む。


「わかった、費用は3日のうちに渡してくれ。もらい次第討伐を行う」


「は…はい」

ユングは険しい顔で同意した。


「あと、村長。作戦としては私達が生け贄に化けて寝込みを襲おうと思うのだが一人足りない。誰か適当な者はいないか?死ぬかもしれないから罪人等が望ましいが…」


アラミンスクはキョロキョロしながら語る。


「それでしたら丁度良い人間が居ます。おい!連れてきてくれ!!」


座長のユングが部屋の外にいる人に叫ぶ。



しばらくして、両手を縛られた、花柄の服を着た変なおっさんが連れてこられた。


「こいつは昨日南村の食料庫を食い荒らしていた飲んだくれの罪人です。どうせ死罪ですからお役に立てて下さい」


「すまなかったよ~。知らなかったんだって~。許してよ~~」


おっさんは悲しそうな声で言い訳を呟いていた。


「ふむ…まあ、いいか。では、村長。金の方を頼む。今日は東村の空き家にでも泊まらして貰おう。よろしいか?」


「もちろんでございます!こちらへどうぞ!!みな、よろしく頼む。費用は各村で折半だ!」


「わかった」


各村の村長達は同意の意を示し、ユングはローゼン達を連れて東村の空き家に案内した。


おっさんはまた座敷牢に連れて行かれた。



各村長達は金貨百枚を必死になって集めた。


中には都まで行って大事な魔導農機具などを売りに出して工面した。


その様子をみて、おっさんはどこからか取り出した酒を飲みながら座敷牢で呟く。


「怪しいな~。典型的な詐欺みたい。まあ、知~らないっと」


誰もいない座敷牢で呟かれたその言葉は何処にも届かなかった。




3日目の夕刻、何とかかき集めた金貨百枚。


座長のユングは恭しくローゼンに渡した。


「ローゼン様。どうぞお納め下さい!そしてこの村々を救って下さい!」


「了解した。明日の夕刻に出発する。用意を頼む」


「わかりました!」


「では、私達は夕食を取るので明日はよろしく」


颯爽と空き家に戻るローゼン。



その口元はにやけていた。



「ハーーハッハ!どうだ!見事だろ?」


ローゼンは金貨を手に取り、笑いが止まらなかった。


「ホント!弱みを持った人は単純よね!…でも、どうするの?私達の力じゃ三首のドラゴンなんて倒せないわよ?」


アラミンスクは冷静になってローゼンに訪ねる。


「別に倒さなくてもいいよ。ドラゴンの前に着いて、住民がいなくなったら逃げるだけさ。ドラゴンが生きてたら『あの戦士達も倒せなかったか…』で済む話しだ」


「ねぇ、ドラゴンの側まで行ったら危なくない?今のうちに逃げだそうよ?」


「それじゃあ、お尋ね者になっちまう。あくまで、倒しに言ったけど死んでしまったって思わせなきゃならねぇ。そのための罪人のおっさんだ。おっさんが喰われてるうちに逃げ出すんだ。そうすりゃ全員死んだように見えるだろ?ココを使わなきゃ!」


ローゼンは頭を人差し指でコンコンとつついた。


「それもそうね…あんたって、ホントに根っからの悪党ね!アーハッハッハ!」


「ちげーねぇ!ハハ!」

悪党の皮算用は深夜まで続いた。



次の日。


ローゼンとアラミンスクとおっさんは御輿に担がれドラゴンの元に向かう。


「村長。危ないので着いたら皆は帰って貰えないだろうか?我々も村人が近くにいると戦いにくい…」


神妙な顔でローゼンは言う。


「もちろんです!すぐに下山します。申し上げにくいですが、ローゼン様達が帰ってこられなかったら明日の朝一番に見に行きます。よろしいですか?」


「ああ。結構だ。まあ。その必要は無い。大船に乗ったつもりで待っていてくれ」


ローゼンは笑いを堪えながら言い放った。



ドラゴンの近くまで来る。


そこには生け贄を捧げるための簡易的な祭壇があった。


祭壇にはいくつもの血の跡が残されており、異様な雰囲気を醸し出していた。


ローゼンとアラミンスクは一気に緊張する。


「では…よろしくお願いします」


ユング達村長一行は3人を降ろしてすぐに下山した。


ローゼンとアラミンスクは緊張でガチガチと震えている。


「ねぇ!早く逃げようよ!!」

アラミンスクは叫ぶ。


「もうちょっと待てって、まだ村長達がいるかもしれねぇ」

ローゼンはガチガチ震えながら言った。


「まあまあ、ココまで来たら腹決めようよ!こいつでも一杯飲んでさ」


おっさんはどこからか取り出した酒を二人に渡す。


「!?」


「なんだ!このおっさん!!」


ローゼンとアラミンスクはビックリする。


『さっきまで鎖で縛られたはずだ!!どうやって抜けた?しかも酒なんてどっから持ってきた?』


ローゼンとアラミンスクはおろおろする。


「じゃあ、ココに置いとくね。でも、血糊べったりでなんだか落ち着かないねぇ。まあ、俺はこいつがあれば何処でも天国さ」


おっさんは酒を飲みながら優雅に胡座をかいている。


ローゼンとアラミンスクは唖然としておっさんを凝視する。



そのため、逃げ出すタイミングを逸した。



いつの間にか、三首のドラゴンが霧に紛れて3人の前に現れていたのだ。


「グオオオォォオオオオ!!!」


それぞれの首から地響きのような声を出すドラゴン。



「ヤバ!」

「ちょっと!どうするのよ!」

ローゼンとアラミンスクは焦る。


「何とかなるって」

おっさんは余裕で酒を煽っていた。


ローゼンとアラミンスクは逃げ出した。


ドラゴンはローゼンとアラミンスクを追う。


「なんで!こっちに来るんだーーー!」


「そうよ!!おっさんを食いなさいよーーー!」


ローゼンとアラミンスクは叫ぶ。


しかしドラゴンは諦めない。


「グオオォオオオ!」


ドラゴンが叫ぶ。


霧が濃くなる。


ローゼンとアラミンスクは何かにぶつかって倒れた。


「霧?しまった!これは結界か!!!」


「!?」


霧の中からドラゴンの顔が飛び出してきた。


「ぎゃぁあああーーー!!」


霧の中からローゼンとアラミンスクの叫び声が聞こえ、グシャグシャと血肉を食らう音が響く。



ドラゴンはゆっくりと堪能し、祭壇前に来る。


真ん中の首のドラゴンが『ペッ!』と何かを吐きだした。


それは、百枚の金貨が入った袋と、ローゼンとアラミンスクの鎧などの金属部分だった。


それらはちょうど祭壇部分に落ちた。



ドラゴンはおっさんに近づく。


「おや?君も一杯飲むかい?」


おっさんは暢気にお酒を注いだコップをドラゴンに差し出す。


「グォォオオオ!」


ドラゴンはおっさんごと口の中に入れる。


ドラゴンはおっさんを噛もうとするがドラゴンの歯では何故か噛みきれず飲み込んだ。



胃の中に落ちたおっさん。


「ありゃりゃ…飲み込まれちゃった。どうせだからお酒を全部注いじゃえ!!」


おっさんは腹の中で一升瓶をひっくり返す。


一升瓶から止めどなく酒があふれ出す。



ドラゴンはグルグル目が回ったようにフラフラしている。


酔っぱらったのだ。


しかし、突然悶える。


「グォォ!ググォオオオ!ゴバ!ゴホ!」


口から酒が溢れだした。


ドシドシと地響きをあげながら悶えるドラゴン。


胃の中の酒が呼吸器官に進入し溺れたのだ。


やがて、倒れて絶命した。

おっさんも、ドラゴンの胃の中で酒に溺れて転移した。



次の日。


ユング達は半ば諦めながらドラゴンの様子を見に行くと、絶命しているドラゴンを発見する。


喜びに沸く村民達だったが、祭壇に置かれた鎧や金貨、血の跡を見つけて、みな沈痛の面持ちで押し黙った。


「さあ、みなの者。ローゼン様とアラミンスク様をたたえ、この地に石碑を建立し、未来永劫語り継いでいこう!」


ユングは涙を流しながら語った。


皆は涙を流しながら頷く。




後に石碑が建ち、三首のドラゴンと勇者の伝説は末永く語り継がれた。

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