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魔道召喚士の憂鬱(後)

僕は一生懸命考えていたが、この状況を打破する突破口を見つけられないでいた。



「ほら!こうやってぶつかっちまう!」


男はわざとぶつかってくる。


「わっ…と」

僕は倒れる。


そのはずみでキュマーデを落とし、飾りの端々が取れてしまった。


「あーーーー!何てことしてくれるのよ!!」


僕を抱きかかえながら男に向かって食いつくホリー。


「けっけっけ!メイドの嬢ちゃんには分部相応な物だったんだよ!」


下衆な笑い声が響いた。


「ホリー…僕が隙をみて、低級死霊を召喚するから逃げて」


僕は小声でホリーに話す。


「お願い…でも、キュマーデが」


「諦めよう。今は逃げるのが先だよ」


「なにごちゃごちゃ言ってんだ!!」


男は短剣を抜いた。


僕らに緊張が走る。


『呪文が…間に合わない』


その時、男の顔に液体がかけられた。


バシャ!

「いってー!誰だ!」


建物の角から一人の花柄の服を着たおっさんが出てきた。


「喧嘩はダメだよ~喧嘩は。今日はお祭りなんだからさ」


「なんだぁ!てめぇ!」


男たちの視線がおっさんに集まる。


「いまだ!『我と契約せし、暗闇の住人たちよ…出でよ!』」


地面から低級の幽霊たちが湧き出る。



「うわぁ!なんだこりゃ!!」


男たちは慌てる。


低級幽霊たちは怯むことなく襲い掛かった。


「うわぁぁぁぁぁ!助けてくれー」


悪党どもは混乱している。


「いまだ!逃げるよ!ホリー!!」


僕たちは一目散に逃げた。




「あらら?忘れ物」

おっさんはキュマーデを抱え、少女たちを追った。




噴水がある公園まで何とか逃げることができた。


「はぁ…はぁ、大丈夫?ホリー?」


「うん…大丈夫。あ~あ…キュマーデがぁ…」


「しょうがないでしょ?命には代えられないよ」


僕たちは噴水の淵に座る。



「忘れ物だよ」

僕たちはビックリして声の方向に振り向く。


そこには先ほどの花柄の不思議な服を着たおっさんが、お酒と思しきものを飲みながらキュマーデを持って立っていた。


ところどころキュマーデの飾りつけは取れていたが無事そうだった。


「あ…先ほどは助けていただいてありがとうございます。それに、キュマーデまでもってきていただいて…」


僕は恭しくスカートを引っ張りお辞儀をする。


「いいっていいって、困ったときはお互い様だよ」


「ねえ、おっさん!あんた名前は?」


「ホリー!失礼だよ!」


「ただの通りすがりのおっさんだよ。気にしないでいいよ」


「しかし…なにかお礼をさせてください」


「う~ん…じゃあ、こいつに合うつまみを買ってもらえないかなぁ?お金持ってなくてさ飲んでるだけじゃつまんなくてね。こいつは俺が持ってるからさ、頼むよ」


おっさんは両手を合わせて恥ずかしそうに頼んだ。


「お安い御用よ!ちょっと待ってなさい!行くわよ!アル!」


「はっ!はい!」

僕たちは急いで出店に向かい買い物に出かけた。



「とりあえずこんな物でよろしいでしょうか?」


僕らは両手いっぱいに買ってきて渡した。


「お!鶏卵饅頭にお好み焼きにリンゴ飴じゃない!これは…よくわからないけどうまそう!いただきまーす!」


「??カスティーラボールにトオルティ焼きにリュンゴ飴ですけど…」


僕たちは不思議な言葉の羅列にこのおっさんは外国人だと認識する。


「君たちは…未成年だね」


「はい…そうですけど?」

おっさんは残念そうな顔をした。



「しかし、この熊手は大きいね!」


「キュマーデですよ。縁起ものなんです」


「そうなんだ。ところで、メイドの君は男の子かな?」


「…」

僕は恥ずかしくなって俯く。


「まあ、『男のむすめ』って書いて『男の』って言葉もあるし色々大変なんだね!」


「そうなの!大変なの!魔道召喚士のしきたりらしいんだけど、アルは頑張ってるの!」


ホリーは胸を張りながらおっさんに言う。


「そうなんだ!魔道召喚士?聞いたことない仕事だね」


「魔獣を召喚する魔導士なんです。適性を持ってる人はとても少なくて、この国には僕とお師匠様の二人しかいません」


「へぇ~、じゃあ、さっきの幽霊も?」


「はい。僕が召喚しました。脅かすぐらいしかできない弱い魔物ですけど」


「へぇ~。そりゃすごい!じゃあ将来は偉い人だ!ところで、そんな偉いメイドさんをつれ回してるお嬢ちゃんはもっと偉い人?」


「うっ!…」


僕たちは固まった。


「はは!まあ色々あるわな。ごめんごめん、聞かなかったことにして」


おっさんは僕らの表情を察して発言を撤回してくれた。



がつがつと食べては飲みを繰り返すおっさん。



「しかし…あの悪党どもは頭にくるわねぇ~!おかげで伯父さまにプレゼントするものが壊れちゃったじゃない!」


ホリーがキュマーデをいじりながらブツブツと文句を言う。


「彼らは悪党だけど、許してあげなきゃダメだよ」

おっさんはぽつりと言う。


「なぜです!?」

僕はビックリして聞き返した。


「彼らだってなりたくてそうなったわけじゃないんだから。服装を見たかい?ボロボロの服に胸に勲章つけて、短剣ぶら下げて風を切って歩いててさ。でも頬は痩せこけ、指は何本かなくて、足が無い人もいた。ありゃ、いくさの傷だよ」


僕はさらに驚いた。


「なんでわかるの!ただの悪党だったじゃない!」


「俺はね、ここ数日酒場で飲んでた時に話を聞いちゃったの。彼らは目立つからね。傷のせいで、なかなか雇っては貰えず、日銭を稼いでは飲んだくれてた。あるのは胸につけてた勲章だけ。寂しいよね。やるせないよね。不満がたまってるんだよ。だから悪さをする」


「……」


僕らは、なんて浅はかだったのだろう。


襲ってくるのは悪い奴だ。そう決めつけていた。


ホリーはいつの間にか涙目になっていた。



「まあ、悪さをするのはいただけないねぇ。同じ呑み助の風上にも置けない。ただ、チャンスがないのも事実だ。もっと偉い人が考えてくれればいいんだけど」


おっさんは飲みながら独白する。


ソリ王国の最後の戦争は僕らの生まれる前の20年前に終わったと、お師匠様に教えてもらった。それはそれは凄惨な戦いで、お師匠様の師匠もその戦いで無くなったと遠い空を見ながら語ってくれた。



彼らも犠牲者だったのだ。



「わたし!なんとかする!」

ホリーは涙を流しながら拳を突き上げ決意する。



「ちょっと!…ホリー」

僕は慌てる。


「伯父さまもそうだけど、もう我慢ならない!こんなモヤモヤするのはもうたくさん!」


「ホリー…」


「いいねぇ!少女よ!大志を抱け!その思いがあれば女王様だってなれそうだ!」


おっさんははやし立てる。


女王様という言葉に少しドキリとしたがたぶん勢いでの言葉だろうと推測する。


「おっさん!色々ありがとう!わたし!頑張る!」


ホリーはおっさんに握手を求める。


おっさんは快く握手をする。


「冷た!ちょっと!おっさんちゃんとご飯食べてるの?手が冷たいわよ!?」


「君が熱いだけだよ!さあさあ、もうすぐ日が暮れるよ!お子様は帰った帰った!」


おっさんはキュマーデを僕に渡し見送ってくれた。




「あ!こんなところにいやがった!やっちまえ!!」


先ほどの男たちがおっさんを見つける。


「ヤバッ!逃げろー!!」


おっさんは脱兎のごとく逃げた。




その後、ミルゲルム公爵様のお屋敷に戻り、特大のキュマーデと共に今日あった出来事を話す。


「わたし!決めたの!!もっと国民が幸せになれるように頑張るの!」


「ほほっ…そうか、いい経験をしたのう…ホリーよ」


ミルゲルム公爵様は優しく頭をなでながら言った。



僕も、決意を新たに修行に励んで王女様の役に立てたらと思う。



「ところでアルよ」


「はい!ミルゲルム公爵様」


私は深々とお辞儀する。


「そなたも大変だな…あの師匠の元では辛かろう?」


「いえ……お師匠様には大変良くしてもらっています」


「う~む…もう、そなたも耳に入れておいていい年ごろじゃろう…」


「??」


僕はなんのことだかわからなかった。



「そなたの服装だがな……それは師匠の趣味じゃ。あいつは可愛い男子に女装させるのが趣味でな…しかも、口が達者で、みなが納得してしまう言い訳を平気で言って認めさせてしまう、困った奴でなぁ。おっと、師匠には言うなよ。あれでもこの国唯一の魔道召喚士だ…居なくなっては困るからな。これはお前の今後を思ってのワシからの助言じゃ」


「あっはっは!アルってば大変!もうちょっと男の子っぽくなったら良いかもよ!」


ホリーは他人事だと思って適当に言った。



「ご助言……ありがとうございます」


僕は引きつった笑いで固まってしまった。



僕の憂鬱の種は当分無くなりそうにない。



「はぁ~」

思わずため息が出てしまった。





のちに、ホリーは女王となり国民が幸福となる政策を多く行い、幸福王の二つ名で国民から慕われた。


僕も一人前になり、ホリーを支える。


そして、ついに魔道召喚士の適正者が現れ、僕が弟子を取ることになった。


『絶対に女装はさせない!』


非常に可愛らしい女の子のような男の子だったが、僕はそう心に決めていた。








ちなみに、おっさんは逃げる途中で幽霊に足を引っ張られ転移しました。

5000字に収まるよう今後精進します。

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