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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幸-さち-

作者: 赤月 コウヤ

初めまして、私は今回の物語を読ませていただく所謂、案内人。語り人と言っておきましょうか。

今から読ませていただくこの本は一人の少女の人生を記録した本です。とても薄く数分もあれば読み終えてしまうほどの厚さですが少女の人生は確かにここにあったと言う証拠の本です。

ではまずは小学生の頃から見てみましょう。

私、新島幸は小学生の時、愛犬を亡くしそしてこう言うことを考え始めました。

「何故生き物は生まれるのか。何故生き物は死んでゆくのか」そんな事を考えるのです。

「生き物は死ぬ為に生まれ死ぬ為に生きるのか。そうだとしたら何故死ぬ為に生まれてくるのか何故死ぬ為に生きていかなくてはならないのか」死について考えだした私は考えて考えて考え続けて生きる意味を見失ってしまいました。そんな私に幼なじみで親友の瀬戸優一は明るく話しかけてくるのです。

「おい幸! 何ボーっとしてんだよ次の授業教室移動だぞ?」

「あ、うん」

それが小学六年生の夏の事でした。


セミが鳴り響く夏。教室移動の途中私は幼なじみの優一に問いかけました。

「ねぇ優一は将来の夢って決まってるの?」

 その問いに優一は毎回ため息をつき毎回こう返すのです。

「またその質問かよ、そんなん決まってないって毎回言ってるだろ?」

 そう返すことは分かっていた。

 でも今回は違うかもしれない、もう将来の夢を決めたかもしれない。そう思い私は問いかけてしまうのです。と同時に身体がフワフワと浮くような感覚になり空を仰ぎみて何かに問います。


「生き物が、私達が生きる意味ってなんですか?」


 生きる意味を見失ったまま小学校卒業の日になり当日私は同じクラスの男子に告白されました。人生初めての告白。嬉しい筈なのに私はその時喜びとは違う事を考えていた

「もしこの人と付き合って家庭を持ったとして私は何を感じるのだろうか、学校生活は決して楽しくなかった訳じゃない。普通に学校に行き授業を受け家に帰り友達と遊び宿題をして寝床に入る。そんな普通で幸せな生活をした六年間そんな普通であり幸せな生活をこの先この彼と歩んでいけたとして私は幸せと感じるだろう」そしてそう考えると同時につまらない人生だと感じるだろうと思った。

 だから私は告白してくれた彼にこう言ったんだ。

「私あなたと一緒にいて楽しいか幸せか考えてみた。多分幸せになれると思う。だけど、あなたが幸せにはなれないと思う。だからごめんなさい」

 それは私が彼の事を思えないから彼は笑顔で納得してくれた。中学生になった私の耳に最初に入ったのは小学校卒業のあの日、フった彼が私の知らない所で泣いていたと言うことだった。彼は泣いたらしい目を腫らして泣いたらしい。その話を聞いた時私は胸が縮むような感覚に襲われた。

 その感覚に私は問います。


「あなたはいったい誰ですか?」


 中学に入って半年が過ぎ友達と出かける事になった。幼なじみの優一と中学で新しくできた友達、運動神経抜群でスゴく明るい涼宮琢磨とオシャレと可愛い物が大好きな木村奈々花の四人だ。

「私何買おうかなぁ! えっと! ワンピースでしょ! パンツに後クマさんの縫いぐるみ!」

「俺はゲーセンでシューティングゲームだね! スリル満点なのがいいんだ!」

 そう言う二人に優一は一言「元気だなぁ」と大人の対応をし、そして私を見ると何かを感じ取ったかのように顔を近づけこう言ったのです。

「幸どうしたんだ暗い顔して? 何かあったのか?」

「あ、ううん、なんでもない……」

 言えない私の両親が昨日離婚したなんて。

「あれ、どうしたのお母さん? お父さんまで暗い顔して?」

「幸よく聞いて、お母さんとお父さんね離婚する事にしたの」

「え……なん」

 問いかけようとした私の言葉にかぶせるように父が言った。

「許してくれ、もう限界なんだよ」

 その言葉に私はただただ立ち尽くし、頷くしかなかった。本当はどうしてと聞きたかった、家族でいたかった、そんな私の思いも親の一言でこんなにも無力なものになるのかと思い知らされた。

 そして一日経った今思う。父のあの一言は子供で言う言い訳ではないだろうかと。その瞬間、身体の全身の毛が逆立ったのがわかった。胸の奥が熱く何かがフツフツと湧き上がってくる感覚。

 私はその感覚に問う。


「何故私の身体の毛は逆立ったのですか?」

「この胸の奥から湧き上がる熱い何かはなんですか?」


 遊びからの帰り道、仲のよさげな家族とすれちがった。冷たい風が吹いた気がした。小学校卒業の日、フった彼が泣いていた事を知った時とはまた違う胸が縮むような感覚、その冷たい風はこの胸の縮ませる力を包み込見ながら救おうとしているようで、でもそれはさらに縮ませる力を強めていく。

 私はその力に問う。


「私の胸を包むこれはなんですか?」


 お盆の日。親戚が全員集まるこの日、母方の親戚から片親の私は気を使われた。

 母には励ましと「しっかりしなさいね」と言う言葉をかけられているのを私は廊下で立聞きしていて思った。母はもう子供じゃないそんな事言われなくても分かっている誰よりも頑張っている確かに大人であっても、間違い、迷い、行い全てが正しい訳ではないけれど大人はもう自分の事は自分でやらなければいけない事を知っている筈だ。

 そう子供の私が話に割り込み意見したら親戚はどんなことを思いどんな顔をするだろうか、そう考えるがでも一つだけ分かっている事があった。私がしゃしゃり出て意見を言ったら母は絶対に嫌な顔をすると、だから私はその場を立ち去り洗面所へ向かった。

「子供って無力なんだな、それとも深読みしたのか」

そんな私の考えや親戚の考え、母の考えもお構いなしに私を探してしたと思われるイトコ達は私を遊びに誘うのです。

「幸ちゃん遊ぼう!」

 無邪気だ。なんて濁りのない澄みきった瞳をしているんだ。私の瞳は多分この子達のようには澄みきってはないだろう。そう思いながら私は答えた。

「………うん、遊ぼうか」

 鬼ごっこに隠れんぼにツミキ遊び、色々な事をして遊んでいると突然そういえばといった顔で六歳のイトコが私に聞いてきた。

「ねぇ? どうして今日は千沙ちゃんのパパはいないの?」

 その質問に対して私は答えられなかった。小さな子にも分かりやすく説明する事が難しいと言うのもあったが何より私がイトコの残酷にも無垢な質問に片親になった現実を突きつけられている事を改めて気付かされたからである。私にはもうない家族と言うものがイトコ達にはまだあるのだと。

 お盆最終日、父方の親戚には顔を出さなかった。

 冬になり母方の叔父から遊びに誘われた。もちろんイトコ達も一緒なわけで私は今後の事も考え遊びに行く事にした。

「今日は羽を伸ばして楽しみなさい」

 そうかけてきた叔父の言葉が私には理解できなかった。羽を伸ばすとは拘束から解放され、のびのびと振る舞う事だ。なさいと言う命令形を使っている時点で拘束しているのと変わらないし親戚と言っても他人は他人。他人の前でのびのびと振る舞う事は難しいのではないだろうか私はそう思ってしまう。

 そして私は神様に問いました。


「私は冷たい人間ですか?」


 遊び始めて数時間、昼食の時間になり私達はファミリーレストランに入る事にした。

 メニュー表を渡され選び終わり叔父に話しかけようとした私は仲良くそして楽しげにメニューを選んでいる叔父とイトコ達、親子の姿を見て大きく分厚くそしてどこまでも高い壁のようなものを感じた。一メートルにも満たない距離なのにとてもとても遠い距離。例えるならその間、時間、瞬間だけ自分の存在が消えたような感覚。そして全員のメニューが決まるまでの時間そんな叔父とイトコ達の仲睦まじい姿を眺めていると私の中に一つの考えが生まれた。

「私はイトコ達が家族と過ごす大切な時間を奪っているのではないか?」その事に気付いた瞬間私は反射的にリュックからスマホを取り出しいじりだした何故なら早く時間が流れるように感じる事ができ早く家に帰れると思ったからだ。でもその時だけは時間を早く感じる事は出来なかった私は現実逃避に失敗した。

 昼食も食べ終わり遊び終わった帰り道。静かな車の中イトコ達は眠りにつき私は山の向こうに沈む夕陽を眺めていた。すると叔父が待っていたかのように口を開き聞いてきた。

「最近どうだ? 母さんと上手くやれてるか?」

「うん」

「学校は? 友達とも上手くやれてるか?」

「うん」

「ならいい」

「うん」

 まただ私には質問の意味が理解できない。上手くとは何だろうか母や友達との距離感だろうかそれとも片親になった事による周りの変わりようをどう乗り切っているのか、そんな事が聞きたいのだろうか。意味が理解できないからだから私は「うん」としか答えなかった答えられなかったんだ。この出掛けは叔父にとっては最初に言った通り私に羽を伸ばして欲しいとゆう善意からきた行動だと思うが残念ながら私には骨が折れる一日だった。

 中学二年になり、私はふれあい教室に通うようになった。ふれあい教室とは学校へ行けない子や教室に入れない子達など色々な事情を持っている子達が行く所だが私は後者だ。だが決してイジメを受けた訳ではなくただ、自分でもわからない何かが教室に入れさせてくれないのだ。色々な事情を持っている子達と言う事は家で虐待を受けてる子も通っているのだろうかと私はふと思う。

「幸きたぞ!」

 優一達は毎回お昼休みになると私のいる教室に来てくれる。

「みんないつも来てくれてありがとう、ごめんね」

「いいんだって! そんな事より今日四人で勉強会しようぜ! 優一や奈々花とも話したんだ!」

「幸ちゃんも一緒に勉強しよう!」

「幸、ダメか?」

「そんな事ないもちろん行くよ!」

 みんなが笑顔になった。私はこう言う時に幸せを感じる。ただただ純粋に楽しく。


 その日学校から帰宅したら母が風呂場で手首から血を流して倒れていた。


 私は数分間状況が理解できずただただ立っていた。そして微かに息をする母を見てやっと気がついた。母は自殺をしようとしているのだと。私は裸足で家を飛び出し母方の親戚の元へと向かって走った。途中でこけて足から出血しながら全力で走って着いた瞬間叫んだ。

「助けてください! お母さんを助けてください! このままじゃ! このままじゃお母さんが死んじゃう!」

 家にいた祖母の通報により母は救急車で病院へと運ばれた。今振り返れば母が自殺したとわかった時に通報すれば良かったと思う。その後、母は一命は取り留めたがうつ病になり仕事も出来なくなってしまった。母と親戚との話し合いにより叔父の家に暫く預けられる事になった私は学校にも行かず空き部屋で窓の外を眺めながら想いを巡らす日々。


「誰がお母さんをあそこまで追い込んだんだろう」


「私がくだらない事を考えている時にお母さんは辛い思いをしていたのかな」


「どうして気付いてあげられなかったんだろう」


 どうして、どうして……。

「お母さんを追い込んだのは、殺しかけたのは私だ」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 泣いても泣いても涙が出てきてしまう。部屋の片隅で泣く少女、絵に描いたようなシチュエーションだ。

 テレビでどこかの家族の大切な誰かが自殺したなんて報道が流れていたが他人事のように見ていた事が目の前の現実になった時、私は初めて身近な人の悲しい行動はこんなにも身近に潜み起きる可能性がある事。他人事にしてはいけない事なのだと気付いた。

三ヶ月がたって母との生活がまた始まった。学校から帰宅し母がいなければ家中を探し回り、死ぬと言えば自殺出来そうな場所、物を監視する日々。

 私は神様に願いました。


「お母さんを奪って行かないで、二度とあんな事を起こさせないでください」


 そんな毎日を過ごしながら私は中学を卒業した。

 高校は母との時間を作る為通信制にし、迷惑はかけられないと考え友達との連絡もたった。レポートをしながら母の代わりに家事をし生活保護の少ないお金でやりくりする日々だがだんだんと中学の時とは違う事を考えるようになっていた。

 もしあのまま母が亡くなっていたら、私は親戚に引き取られる事もなく施設に入り里親の元に行き血の繋がりはなくとも父母のいる幸せな家族を手に入れる事が出来ていたのではないか、そんな母の『死』を願うような考えを持つ自分に失望と絶望を覚えそうありたくないと思うと同時にこう言う想像をしている時だけ胸が軽くなるような少しだけ胸の中にある何かから解き放たれたような開放感があった。この二つの矛盾した想いから逃れるかのように私がリスカをやり始めたのが高校に入って一年がたち新しい春が訪れようとしていた時だった。リスカは母や学校にばれないよう常にリストバンドを付け隠すように心がけた。ちゃんと明るく振る舞った。笑顔を絶やさず、でも目立たないように心配をかけないようにずっと。

 そして一年また一年と年を重ねるごとにリスカの痕は増えていき、その度に母がお腹を痛めて命を懸けて産んでくれた身体に傷を入れると言う自傷行為にいっその事死んだ方が良いのではないかと思う反面、自分の身体なのだから自分の物をどうしようと勝手じゃないかとも思う。だって私にはもう精神を保つ方法がそれしかなかったから。

 そのまま通信制高校を卒業した私は偶然か必然か優一と再会しそのままカフェでお茶をする事にした。

「久しぶりだな」

「うん」

 中学の時とは全く違う。声変わりをし身体に響いてくるような優しく落ち着いた声に遥かに高くなった身長。私とは違う。優一は立派な大人になっていた。

「リストバンドしてるのか?」

 ドクンっと私の胸の鼓動が高まりいっきに加速していくのが分かった。

「うん、ちょっとオシャレで……」

必死についた嘘がこれだった。優一は何かを察したかのように「そっか」と一言言い、そして続けて私に思いもよらない言葉をかけてきた。

「幸ゴメン」

「え……」

「俺、お前が一番苦しい時に側にいてやれなかった。本当にゴメン!」

 その言葉を聞いた瞬間私の中に雷のような衝撃が走ったのをよく覚えている。私は今まで苦しかったのか、だからリスカをして矛盾の苦しみを和らげようとしていたのか、そうか、そうだったのか。私は苦しかったんだ。

「ありがとう優一」

 お礼を言った私は優一なら私のこの矛盾した気持ちをどうにかしてくれるかもしれないと思い昔問いかけていたのとは違う助けて欲しい寄りかかるれる何かが欲しい、そんな思いから問いかけた。

「優一、お願い助けて! 苦しいの、苦しくてもうどうしたらいいか分からなくて! お願い」

「何に悩んでるかは」

「………」

「言えない感じなんだな」

「うん」

 母の死を願うような事を思いそうありたくないと思う矛盾から苦しみリスカをしているとはこの時の私は優一からどんな言葉をかけられるのか怖くて言えなかった。けれどこの時ちゃんと全てを打ち明けていれば良かったんだ。

「そっか、俺はさ! いつも悩んだ時は後悔しない方を選んでるんだ! 何に悩んでるかはわかんねぇけどもっと楽に考えていいと思うぜ? 簡単にな!」

 簡単に、その言葉を聞いた時私は七年前に亡くなった愛犬の事を思い出した。交通事故だった。ただ打ち所が悪かっただけで死んでしまった。そうか、そうだったのか私は小学生の頃からずっと気になっていた疑問がやっと解けた気がした。

「ありがとう優一、やっと解ったよ」

「おぅ?」

 胸を縮ませる力は胸が苦しかったから。身体全身の毛が逆立ち胸の奥が熱く何かが湧き上がってくる感覚は怒り。胸を縮ませる力を包む何かは苦しみから自分を守ろうとしたから。そして一番の疑問であり全ての疑問のキッカケだった「何故生き物は生まれ死んでいくのか」「生き物は死ぬ為に生まれ死ぬ為に生きるのか。そうだとしたら何故死ぬ為に生まれてくるのか何故死ぬ為に生きていかなくてはならないのか」その疑問の答えは簡単だったんだ。

「お母さんちょっといい?大事な話があるんだけど」

 私は帰ってすぐ母の元に向かった。毎日お酒のタバコの臭いを漂わせ食べるだけ食べる生き物。

「何?今忙しんだけ……ど……え……?」

 そう答えは簡単。愛犬が、生き物が簡単に死んだように生き物は死ぬ者と殺す者に分類される。なら私は、あの想像した時の開放感に身を任せて。

「いやぁーーーッ!」

殺せばいいんだ。

 そのまま母は死んだ。冷たい肉の塊になって死んでいった。その夜私は一晩中泣いた。泣いて泣いて泣き続けて殺す事は素晴らしい事なのだと分かった。

 殺した時のあの感覚、あの開放感にあの快感、助けを求める肉の塊がこちらを見上げるあの瞬間、最高の時間だった。その時から私はリストバンドを付けなくなった。

 そこからは早かった。私はあの快感を求めて人を生き物を殺して回った。

 離れ離れだった父。

「おい! やめろ幸! あっあぁ!」

 もともと運動神経はいい方だった私は体格差のあった父や両家の親戚の叔父達も次々と殺していった。もちろん祖父母や叔母に可愛いイトコ達も殺してあげた。

「きゃー! やめて!」

「ち、幸ちゃん!」

「た、たすけて! お願い! この子だけは殺さないで!」

 まだ赤ん坊で周りの悲鳴に驚き泣き叫ぶイトコ。でもそんなのも関係ない。これは死ぬ側に生まれた者と殺す側に生まれた私との宿命。

「やめてぇー!」

 殺す。殺す殺す殺すみんな殺してあげる。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 逃げちゃダメだよ! 気持ちよく殺せないじゃない! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 母方の叔母は肉の塊になった我が子を抱き涙を流しながら歯を食いしばり鬼の形相で私に問いかけてきた。

「どうしてッ……こんな事!」

 その問いかけに私は笑顔で答えた。

「それは簡単だよ? 叔母さん達が死ぬ側の生き物だから!」

 その答えに叔母は何かの糸が切れたかのように側にあったナイフで私に切りかかろうとしたが先に私のナイフが叔母を刺していた。私はその行動を不思議に思い最後に叔母に質問した。

「どうして死ぬ側の叔母さんが殺す側の私を殺そうとしてるの?」

 すると叔母は自分のお腹に刺さったナイフを強く握りしめ叫びながら答えた。

「あんたが、あんたなんかが理不尽で身勝手な理由で私の家族を奪ったからよ! この悪魔! 殺人鬼!」

 叔母はそのまま肉の塊になっていった。

「殺人鬼? アハッ! 殺人鬼だ! アハハハハ! この快感の名前は殺人鬼って言うんだ! 教えてくれてありがとう叔母さん!」

 この時の私は叔母が言った言葉を本当には理解できていなかった事を次のターゲットから思い知らされ、殺人鬼にとって最初で最後の史上最大のミスになる事をまだ誰も知らないのです。

 何も知らない殺人鬼がそのターゲットの元についたのは朝の五時過ぎアパートのドアをドンッドンッドンッと叩きます。

「誰だよこんな朝早くに?」

 彼は覗き穴を見た瞬間驚き直ぐにドアを開けてくれました。

「幸!?」

「うん幸だよ! 優一!」

 そう。今回のターゲットは私の幼なじみの瀬戸優一だ。

「お前今までどこにいて! おばさんが死んだって聞いて俺! 親戚まで死んじまってお前行方不明だって言うからずっと探して!」

「フフフ、大丈夫だよ?」

「大丈夫ってお前?」

「だって、全員私が殺してあげたんだもん」

 優一は驚いていた。

「な、何言って?」

「優一が言ってくれたんだよ? もっと楽に簡単に考えろって、あの言葉のおかげで私は自由になれたの! 何にも縛られず感じるがままに!」

「幸……」

「だからお礼に優一も殺してあげるね! 後は琢磨と奈々花! あぁ楽しいな! 楽しみだなぁ! アハハ!」

「幸!」

「ん? なぁに優一?」

 その瞬間、優一の手がナイフを持つ私の手をとり優一の身体にナイフが刺さった。そして私を強く、強く抱きしめたのです。

「え、優一? だッだめだよ? 死ぬ側の優一は殺す側の私が自分からやらないと意味が!」

 優一は私を抱きしめたまま座り込みこう言いました。

「殺す事に、意味なんてないんだよ」

「え?」

「ゴメン! お前を、こんなにしたのは俺だ! だから俺がお前の苦しみを終わらせる」

「終わらせるって? 何で謝るの? 優一が私を殺人鬼にしてくれたから私は楽になれて?」

「違う!違うんだよ……人はみんな生きるべき生き物なんだ、死ぬべき生き物なんて一人もいない」

「でっでも! 私の愛犬は死んで! だから私は簡単に考えて死ぬ側の生き物と殺す側の生き物に分類されるって!」

 優一は首を横に振った。

「違うの? じゃあ私はなんの為に、何の為にお母さんを! お父さんを! 親戚を殺して! 意味がなきゃ私は楽になれない!」

「いいんだ、それで。胸に手をあてて?」

 私は優一の言う通り胸に手をあててみたが音がしていなかった。

「苦しい事、辛い事、悲しい事、楽しい事は全部胸の音が心があるから感じる事が出来るんだ。心を捨てれば、それはもう人じゃなくなる。心から逃げれば、人じゃなくなる。俺は幸にはそんなんでいて欲しくない、人として生きていて欲しいんだ! だから! 人に戻ってこい幸! 俺が道を、示す……から」

 ドクンッと久しぶりに胸が縮むような、あの感覚を思い出した。苦しい。胸の音が聞こえる。ちゃんと聞こえる。そう伝えようとしたが優一はすでに死んでいた。

「あ、あれ? 優一? どうしたの? もしかして、死んじゃった?」

 ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ胸の音が加速していく。私は鼻の奥がキンとなり視界がぼやけていくのがわかった。そして理解した。これが悲しみなのだと。

「優一! 死なないで!」

 その言葉を言った時、私の脳裏に蘇ったのは叔母のあの言葉だった。

「そうか、叔母さんは悲しかったんだ。私の間違った考えで大切な家族を奪われて、だから怒ってたんだ。憎んでたんだ。だから殺そうとしたんだ。そうか、そうだったんだ。私は間違ってたんだね、優一」

 私は死んでしまった優一を抱きしめて泣いた。色んな感情に胸の音を鳴らしながら泣いた。優一が死んで三日後、訪ねてきた優一の両親が発見。通報した事により私は逮捕され多くの人の命と人生を奪い死体を委棄した事から仮釈放なしの終身刑を言い渡された。

裁判の時、優一の両親が証言台にたった。

「その女に私の! 私達の息子は殺されて! 私は見たんです! お腹にナイフの刺さった私達の息子をっ……息子を!」

「もう大丈夫ですよ奥さん」

「被告人この事に心当たりは?」

「間違いありません」

 こうして決まった殺人鬼の私の判決を心から否定する者は一人もいない……私も否定しない。これは全て事実私が犯した罪。

 そして刑執行の今日。

「1088、執行場へ」

「はい」

 仏間のある部屋に着いた私は刑務官に「言い残す事はあるか」と問われ「いいえ、ありません」と答えた。

 白装束に着替え白い布をかぶり手には手錠全ての準備が終わり処刑場へ向かう。

「じゃあ処刑場に行こうか」

「はい」

 私は誘導されるままに部屋の真ん中に立った。ガラスの向こうでは優一の両親が立会室で今から処刑される私を見ているらしい。首に縄が通るのがわかる。足が縛られ、これで本当に全ての準備が完了だ。落下ボタンを一つ一つ押されていくごとに高まっていく胸の音。どんどんどんどん高まっていく。

「優一……」

 ガタンッ!と床が開く音がした。部屋中に鳴り響き私の身体が落ちていくのが分かる。

「あぁ……私は死ぬのか」

そう思った私は一瞬だけ時間が止まっているような感覚がした。

「優一、恐いって思いも人が生きてるって事だよね」

 7月8日、二十歳。新島千沙の中の殺人鬼は死んだ。


 この後私の魂はどこへ行ったのか、はたまた消滅してしまったのかはわからない。けれど沢山の人の命を奪い人生を奪った罪、犯罪はこんなにも心に重く大きく残りささるものである事、残されたものが苦しみ、悲しみ、憎しみ、その心の傷は決して癒えない事はこれから先どんな事があっても変わらない事であり変わってはいけない事である事。

だから決してやってはいけない。

感情を捨てて逃げてはいけない。

心があり感情がある事はたとえ辛く苦しく悲しい事であっても有難い事であり人でいる証拠でそしてとても、素晴らしい事なのだから。

さて、これで少女の物語。新島幸さんの人生記は終了とさせていただきますが……

皆さんはこの物語を読んであなたはどんな事を感じましたか。

「つまらない」「ありきたりだ」「これより辛い思いも苦しい思いをしている人達は沢山いる」「残忍だ」

そう思われましたか?それとも……

「切ない」「共感できる」「可哀想」

そう思われた方はいますか?

ですがどんな事を思おうと感じようと共通する事があります。

「親の離婚」「自殺未遂」「リスカ」「殺人」それらは "あなた" 達が生きている世で実際に起きていると言う事。些細な誰かの一言で誰かの人生が狂ったり誰かを苦しめたりする事実がある事はいつ誰が加害者、被害者になるかわからないとゆう事。新島幸さんの様に誤解したまま過ちを起こしてしまう事は決してありえない事ではないと言う事を忘れないで下さいね。


なんてただの可能性ですが、可能性があるのは事実ですから。

さてさて最後までお付き合いいただいた方々に心からの感謝を、ありがとうございます。

では私はこれで失礼いたしますので、いつかまた会える日まで。


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