第9話:錬成!ダークマター
期末試験当日の朝、例の夢にうなされ強制的に起こされる。
「夢に出てきたあいつ…、喋ってたな……」
(あれは俺が受け入れてきたってことなのか?)
寝起きなので頭が上手く回らない。
時計を見ると、6時を指していた。いつもより1時間以上早い起床だ。
一人暮らしなので、大半の家事は自分でこなすが、たまに紗音が手料理を振る舞ってくれる。そのおかげで大抵はその余り物でやりくりできるので炊事はあまりやったことが無いと今更ながら気付いた。
「たまには、朝食でも作ってみるか〜」
気晴らしにもなるだろうし、我ながらいい提案だ。
キッチンに移動すると、様々な調理器具や香辛料などが整然と並んでいた。その中には、聞いたこともない名前の香辛料や、紗音が持ち込んだと思われるもはや同じにしか見えないフライパンなどもある。
とりあえず、定番の玉子焼きかなー。
フライパンに油を敷いて温める。
その間に冷蔵庫から卵を2個取り出し割ってボウルに移す。
卵を溶いて牛乳でかさましをして砂糖とマヨネーズを入れる。
「マヨネーズを入れることでふっくらするって紗音が言ってたなー」
砂糖が固まらないように入念に溶き、温めたフライパンに流し込む。
ジュッ!っと卵の焼ける音と甘い香りが立ち込める。
今日の試験、多分俺とキムは足を引っ張るかもしれない。
問題点は、ただ単に異能の使用に慣れていないこと。
特訓での手合わせでわかったがキムはあまり物事を深く考えないことが多い。まぁそれが長所にもなり得るのだが…。
そしてもう一人のアタッカーである俺は他の3人と比べて異能を使わない分火力不足だ。
上位の奴らと渡り合うことができるのだろうか…。
不安だけがどんどん募ってゆく。
不意に嗅覚が不快だと言わんばかりに俺に警告してくる。
「やっべ!」
気付いた時にはもう遅かった。
玉子焼きのはずが、いつの間にかダークマターの完成である。自分の料理の腕に落胆しながらも一応皿に盛り付ける。
「紗音がいなきゃ何もできねーなぁ…」
ホント情ねぇな。
ダークマターの錬成に成功した俺は、文明の利器(T-fuL)を駆使しカップラーメンなるものを食す。片付けを済ませるとちょうどいいぐらいの時間になったので着替えを済ませ家を出る。
玄関を出ると、既に紗音が待っていた。
「今日は寝坊しないのね」
紗音は目を細めて嫌味ったらしく言ってくる。
「まぁ大事な日だしな!」
いつもの通学路を二人で歩く。
「紗音!」
急に自分の名前を呼ばれて驚いたのか、紗音の肩がビクッとなる。
「きゅ、急にどうしたの?アタル!?」
「いや、えっと…急に言うのもなんだけどさ、いつもありがとな!」
瞬間紗音の顔が温度計よろしく下からどんどん赤くなる。
「ば、馬鹿じゃないの!?べ、別に私は何もしてないし…」
紗音が俯きながら口篭る。
「いや、紗音がいてくれるだけで俺は頑張れるから!」
「え?…えぇ!?そ、それって…プ、プロ…」
「って!そろそろ電車の時間じゃん!急ぐぞ紗音!」
「ちょ、アタル!待ちなさいよー!」
難しいことはよくわかんないけど、目の前のことを思いっきりやる。
ただそれだけだ。
自然とそう思えてきた。