第34話:アタルvs護
「いや〜、激しいねぇあっちは!」
苦笑いをしながら、護がアタルの方を向く。
「そういうあんたも負けないぐらい強いだろ?」
「まぁね〜!」
(なんかこいつウゼーな)
「それじゃ、こっちも始めますか〜!」
護の魔道具は万里花と同じ指輪。
指輪は剣や銃などの武器系統とは違い、直接攻撃がない代わりに異能の力を向上させることに秀でている。
憶測だが、相手には決定的な攻撃力がないはず…。
(圧倒的攻撃力で奴の盾をぶち割ってやる!!)
「力を貸せ…、サタン!」
太刀が黒いマナを纏う。
全速力で護に詰め寄る。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
サタンの力を纏った太刀を振り下ろす。
護の神盾とアタルの斬撃が衝突。
高エネルギー同士の衝突による衝撃が空気を経由し、お互いに伝わる。
「なんて攻撃だ…。凄いね君!」
「ほんとに凄いのはどっちだよ…!」
サタンの力を纏ったアタルの斬撃を持ってしても、護の神盾に傷一つつけられない。
「赤神流二の型!」
太刀を右手1本で持ち護に狙いを定めながら引く。
(これで貫通してやる!!)
「《虎旋》!!」
腕をひねりながら繰り出す突きは、与えられた螺旋回転と黒いマナにより極限まで向上した貫通力を有していた。
「形状変化:バックラー」
護の周りを徘徊していた神盾が消え、代わりに右手の甲から円形のシールドを展開する。
アタルの突きはシールドを捉え…
られなかった。
太刀がシールドと接した瞬間、護がシールドの角度を変えて自分の斜め後方に攻撃を流した。
咄嗟のことでアタルは体制を立て直せずにいた。
護の左手が青白く発光する。
「《セロ・ブレイク》!!」
アタルの脇腹へと護の拳が放たれる。
(くっ…!)
黒いマナがアタルの脇腹に集まる。
バキッ…。
そんな音がアタルの体から聞こえた。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
アタルはそのまま吹き飛ばされ、二三軒の民家を貫通する。
「痛ってー…!」
『仮想戦闘体、損壊度50%』
仮想戦闘体の損壊度が60%を超えればその時点で戦闘不能になる。
つまり、アタルはさっきの攻撃の5分の1以下のダメージしか受けることを許されない。
「無理ゲーだろ…」
(確かに、アタルだけでは力不足だ)
「あぁ、でも俺にはお前がいる…。だろ?」
(いや、それでも彼に刃を届かせることはできない)
「いや、今そういう流れだっただろ!?」
(流れや勢いでどうにかなるほど甘くないよ)
「じゃあどうすんだよ!!」
(俺もダメでサタンと力を合わせてもダメって、詰んでんじゃん!)
(勘違いしないでほしいな。あんな白魔道士の1匹ぐらい、ボクの全力なら指1本触れさせずに勝てるさ)
「じゃあ本気出せよ!」
(…出してもいいけど、相手よりも先にアタルの身体が悲鳴を上げるよ。これでも君の身体に負荷が掛からないように気遣ってたんだよ!)
「そうか、なら俺がすぐに戦闘不能にならない程度に力を解放してくれるか?」
(いいけど、先に倒せる可能性は良くて5割…。いや4割切ったぐらいだ。あとは君の技量にかかっているけど…)
「安心しろ。ダメだったらそこまでだ!!」
(まぁ、これは試験なんだ。試してみるのもいいかもね)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
護はアタルが飛んでいった跡を追って歩いていた。
住宅に空いた穴に沿って横切っていく。
(貰った!!)
護の横の壁を破壊してアタルが接近する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
黒いマナを纏った太刀を上段から振り下ろす。
「無駄だよ」
右手の甲のシールドで斬撃をいなしにかかる。
斬撃がシールドに触れるか否かの瞬間、いなすべくシールドの角度を変え振り抜く。
その瞬間に行動したのは護だけではなかった。
アタルがスニークの足場を利用し素早く背後に回り込む。
背後からの攻撃は、シールドで受けることは出来てもいなすことは難しい。
今なら"当てられる"!!
赤神流
一の型×二の型
(サタン!)
(わかってるよ)
アタルの右腕から黒いマナが溢れ出し刃を黒く染め上げる。
「行っけェェェェェェ!!!!」
護の横顔目掛けて《虎旋》を打ち出す。
「くっ!」
護は恐るべき反射神経で致命傷を避けるが、刃は深々と右肩を貫通した。
貫通した剣先から黒いレーザーが壁面を無に返す。
「がぁぁっ!!」
右肩を抑えながらアタルとの距離をとる。
『仮想戦闘体、損壊度28%』
護が高校生活において初めて見せた苦悶の表情。
それを引き出したのは次席の彰でもなければ主席の紗音でもない。
上位ですらない、対戦しなければ名前すら知らなかっただろう。
「はは、恋奈ちゃんが夢中になるのがちょっとわかったかも…!!」
学年順位からすれば自分の優位は言わずもがな、誰も疑いはしない。
自分でも、あっさりと終わるつまらない戦いだと思っていた。
最初の一撃には少し面を食らったが想定範囲内だった。
しかし今では…、
こうして肩を抑えながら危機感を覚えている。
「君は一体何者なんだい?」
「ん?お前と同じ魔道士見習いの高校生だよ」
「なら、負けられないな〜」
手の甲のシールドをとく。
「スタイルシフト、ロッド!」
半透明な棒が出現する。
「どうやら、君に防戦一方なのはまずいみたいなんでね…」
棒の両端がマナを纏う。
「こっちから責めさせてもらうよ!!!」
アタルに接近して棒を横に振る。
アタルはバックステップで難なくそれを躱す。
ドゴッ!!
空振りした棒が壁に当たり大きな破砕音がなる。
壁が、隣の家ごと吹き飛んでいた。
(棒の先端で《セロ・ブレイク》してるみたいだね)
「当たんなきゃ何の意味もないぜ!!」
「そうだね…!」
護が棒の先端をアタルに向ける。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
棒がアタル目掛けて高速で伸びる。
(ちっ!!)
「な!?」
アタルの反応が遅れる。
(もらった!!)
アタルが勢いよくその場に倒れる。
場を静寂が包み込む。
「うっ!ヤーラーレーター!!」
「……………、狸寝入りはよしなよ」
「バレてたか…」
(バレバレだよ!)
「ハハッ、面白いね君!僕の攻撃を躱すためにマナで自分に足払いするとか、普通じゃ思いつかないよ!!」
(なんかこいつ黒羽に似てんな…。強い奴ってみんな変人なのか?)
(歴史的偉人は変人が多いらしいよ)
なんでそんなこと知ってんだこいつ…。
『仮想戦闘体、損壊度54%』
「あんまりもたもたしてらんねーな…!」
(次で決めるよ!)
「もとよりそのつもりだ!!」
再度アタルの右腕から黒いマナが溢れ出す。
ダッシュで一気に距離を詰める。
「神盾展開!!」
アタルとの間に何枚もの神盾を張る。
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
シールドが割れる破砕音がなり続く。
「負けるかァァァァ!!」
破砕音の鳴るペースが落ちていく。
「サタン!!」
(一瞬で決めないと倒せないよ)
「わかってるよ!」
アタルはシールドから少し離れると、剣先を地面につける。
剣先からは黒いマナが液体のように地面に広がり魔法陣を形成する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
『仮想戦闘体、損壊度58%』
(あれをくらったらまずい!!)
「出力最大!!」
護は数十にも及ぶ神盾を全て重ねて、アタルの渾身の一撃に備える。
「赤神流二の型黒装!!」
魔法陣から溢れ出すマナが全て右腕1本に集約される。
「虎旋・黒紡ぎ!!」
太刀を突き出すと同時に全てのマナを前方に放出する。
さっきのような破砕音は鳴らなかった。
『仮想戦闘体、損壊度61%。戦闘不能によりイジェクトします』
静寂のなか敗北を告げるアナウンスが鳴り響く。
仮想戦闘体を維持できなくなり、身体が光始めたのは……、
………アタルだった。
「ちぇっ。持たなかったかー…」
(攻撃するのが遅すぎるんだよ)
「もう少しで、俺の勝ちだったんだけどなー…」
『仮想戦闘体損傷 、致命傷により行動不能。イジェクトします』
「なんなんだよ…。その…貫通、力……!」
何十、何百と重ねられた神盾には指2本分くらいの穴が空いていた。
その穴は護の胸部にも空いていた。
「残念だけど、引き分けみたいだな……」
神盾に空いた穴からヒビが深くなり、粉々に砕け散る。
割れた破片と共に、2人の身体が散っていった。




