第32話:闘う理由
「なぁ、紗音〜。ごめんってば〜」
何度謝っても、紗音の機嫌は直らない。
「話しかけないで。汚らわしい…」
(このまま紗音とケンカし続けたら、明日からの俺の食生活が…)
「紗音、俺が悪かった。それは認める」
「そうね、アタルが悪いわ」
「そのお詫びとしてはなんだが…、1日お前の言う事をなんでも聞いてやる」
「なん…でも?」
(よし、食いついた!これで決まりだ!!)
「そうだ!紗音が望むのなら猫カフェにだって連れてってやる!」
「猫カフェ!?」
さっきまでの雰囲気とは打って変わってアタルの提案に興味を示している。
「する!仲直りする!!」
「お、おう」
(ほんと、猫とスイーツには目がないな…)
『まもなく、3回戦を開始致します。出場チームのメンバーはカプセル内に入ってください』
アナウンスがなり、万里花とキムがカプセルの中に入る。
「映画も行きたいんだけど…」
「もちろんOKだ!!」
紗音の要望を二つ返事で了承する。
「べ、別にアンタのために機嫌を直すんじゃないんだからね!一緒にいろんな所に行きたいだけなんだからァ!!」
頬を赤くして紗音が叫ぶ。
「あはは〜、紗音。いつも通りツンツンしてんな〜」
(いや、むしろ今のデレてるとこだろ!?)
(紗音さんもいろいろと大変ですわね…)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
仮装世界にログインしたアタル達は体育館のような場所で目を覚ました。
そのため、今回のフィールドがどのようなものか見当もつかない。
「やはりあなたと闘う運命なわけですか、赤神紗音さん」
「緑川恋奈!あなただけには、負けたくない!!」
「きゃ〜、怖いです〜紫藤君♡」
「え、ちょっ!」
「どさくさに紛れてくっつくなァァ!!!」
紗音が恋奈を無理やりアタルから引き剥がす。
『全メンバーがログインしましたのでランダムワープを開始します』
「紗音さん、あなたと刃を交えることを楽しみにしていますよ」
「あんたとなんて顔を合わせたくないわよ!!」
紗音がアタルの影からアッカンベーをする。
(か、かわいい/////)
その場のアタル以外の男性陣全てが不意に思った。
3回戦、これに勝てば上位20人。
つまりDランクへの昇進が確定となる。
その戦場となるフィールドは…、
「住宅街ですか…」
「そうみたいだな…」
ワープ先には、万里花とキムの姿があった。
「1回戦の時に比べて見通しもそんなに悪くはない…」
「ねぇ、俺の声聞こえてる?」
「周囲に紗音さんと紫藤さんがいないのはバグでしょうか…」
マップに映された仲間の現在位置は、二つに分かれている。
「バグなんじゃねーの〜」
(とりあえず、探知で紗音さん達にも情報を提供しますか)
「木村さん、いつも通り探知を…」
「おや?こんなところにかわいい子猫ちゃんがいるじゃあないか!!」
「ッ!!」
聞き慣れぬ声の方を向くと、案の定マップに敵の位置を示す青いマーカーが記された。
(遭遇!?まだ開始のカウントダウンすら始まっていないのにッ!!)
「うるせーんだよ、クソナルシスト!」
そういいながら、敵の1人がキザな男の頭を掴む。
「マジかよ…」
キムは2人のことを知っていた。
キザなセリフを吐いた男、井沢 弘人。
学年8位。その容姿とキザなセリフで女子からの人気も高く、キムのモテない原因の1つである。
そして、井沢の頭を掴んでいる超筋肉質な男の名は、鋼 亮。
学年4位の彼の異能は、キムと同じ自己干渉系の身体強化。
部活はボクシング部に所属。
そこでも非凡な才能を見せている。
「10位以内が2人かよ…」
とんだハズレくじを引いたものだ。
『戦闘開始、30秒前』
「やるしかないみたいですね…!!」
万里花が指輪にマナを込める。
指輪が青白く光り、臨戦態勢に入る。
「最初っから、飛ばすしかねーな!」
キムの全身が薄い黄色の光を帯びる。
「身体強化か…。どうやら楽しめそうだァァ!!」
「お嬢さん、もし僕が勝ったら…。少しお茶でもご一緒しませんか?」
相手も、既に戦闘態勢に入っている。
「残念ですが、私には既に将来を誓い合った殿方がおりますので」
「そうか…、なら力ずくで奪うだけさ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうやら、あいつらとは別々になっちまったみたいだな…」
「そうみたいね…」
とりあえず、万里花達と合流するべく歩を進める。
戦闘が始まる前には、合流しておきたいところだ。
「早く行こうぜ!」
「う、うん」
(聞くなら今しかないのよね…)
「ねぇ、アタル…」
正直、すごく怖い。
アタルの返答次第で戦闘に支障がでる。
そうなってしまうのが怖かった。
しかしこの話を切り出さなければ、紗音の中のモヤモヤが残ったままになる。
「アタルは、あの娘のことが好きなの…?」
「え、なんだよ急に〜」
アタルが少しふざけた様子でごまかそうとするが、紗音が真剣な目をしているのに気付き表情を変える。
「そうだな…、正直言うとよくわからないんだ…。人生で初めて告白されてすごい嬉しかった。…けど、緑川さんのことを好きなのかどうかが自分自身でもよくわからないんだ…、ごめん」
「別に謝らなくてもいいわよ…」
アタルは真剣に自らの思いを教えてくれた。
私はどうするべきなのだろうか。
アタルの幸せを願うなら、むしろ身を引いたほうがいいのではないか…。
でも……!
でも………。
二つの「でも」が心の中で交互に飛び交っている。
「見つけました、紫藤君♪」
目の前の家の屋根に、大鎌を持った恋奈がいた。
「おい、まだ戦闘前だぞ!?」
(いくらなんでも早すぎんだろ!!)
「いつもは地味なのに、戦闘になると人格変わるよな〜」
スニークを使ってもう1人、敵の男子生徒がやってきた。
「戦闘は相手を気にせずに行うので自然とこうなってしまうんですよ」
「厄介なのがいるわね…」
遅れてきた男子生徒。
彼の名は、久世 護
学年3位の実力を誇る彼の異能は、
「神盾展開!」
半透明のシールドが久世の周りを浮遊する。
『防御特化』
生まれつきマナの総量が多く、他人よりも高い出力で扱えるため、比較的平凡な異能を強力な物へと進化させてしまった。
『戦闘開始、30秒前』
「赤神さん、昼休みのこと。覚えていますよね?」
「決着をつけるんでしょ…」
(決着か…)
「その通りです。あの時には、明確な勝利の利点を決めていませんでしたよね…」
「えぇ、そうね」
(そんなもの、今の私からしてみれば、どうでも…)
「考えた末…。勝者は、先に紫藤君に告白できるっていうのはどうですか?」
「あなた、もう告白してるじゃない…」
「あれは、ノーカウントということで。あなたからしてみれば、告白さえしなければ私から紫藤君のことを守れるというわけです」
「守る…」
(それって2人の仲を邪魔するってことでしょ…)
紗音は、ふとアタルを見た。
(アタルが彼女のことを好きだと言うのなら、私は潔く身を引こう…)
「紗音…」
「うん…」
(そのあとに続く言葉が何であろうと受け止めよう)
「頑張ってこい!!」
アタルは満面の笑みでそう告げた。
「えっ…」
風が、紗音の髪を撫でる。
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「大変、ですか?」
まだ万里花ちゃんと仲良くなって間もない頃。
「うん、だって灰崎君って女子からの人気高いでしょ」
いろいろと質問したことがあった。
「そうですね、優くんは男性としてすごく魅力的です」
「他の誰かに取られたりとか心配じゃないの?」
「そうですね…。確かに、私よりも運動能力が優れている者、魔法の扱いに長けている者、その他にもいろいろな分野で私よりも勝っている方は五万といるでしょう…。でも、私には誰にも負けない物があるから大丈夫なんです!」
「誰にも負けない物?」
「はい!それは、優くんを思う気持ちです。それだけは、誰にも負ける気はありませんし負けもしません!この気持ちがある限り、私は優くんのことを信じていられます!」
そう笑顔で話す万里花ちゃんはとても眩しかった。
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「アタルを思う気持ち…」
アタルに聞こえない程度のボリュームでつぶやく。
(小学校に入る前からずっと一緒だった。いつからかアタルのことを意識し始め、その感情を「恋」だと知った。少女漫画を読み始め、恋愛の知識をつけた。時が経つにつれてその思いは強く、濃くなっていった…)
10年間の思い…。
何が正しくて何が間違いか…。
そんなものは正直わからない。
闘う理由…?
そんなの、
【アタルが応援してくれる】
それだけで十分じゃない。
自分の想い人が期待をしてくれている。
なら、それに答えるべきだろう。
自身への長い問答に終止符を打ち、アタルに笑顔を見せる。
「緑川恋奈。あなたに絶対に負けない物を1つ思い出したわ」
「そうですか、後学のためにご教授願いたいものですね!」
「そうね、この勝負で教えてあげる…」
紗音が抜刀し、恋奈に刀を向ける。
「私は私の信念を貫く!!」
『戦闘開始』




