第30話:恋敵(ライバル)出現
『2回戦お疲れ様でした。これより、昼食と昼休みをとってから準々決勝を開始します』
アナウンスが鳴り終わると、個室の外からガヤガヤと生徒達のざわめく音が聞こえる。
「よっしゃー、飯だ飯だ〜!」
「そうですわね。トイレはモニタールームを出て右ですよ」
「ひどくね!?俺の扱いがぞんざい過ぎない!?」
「それじゃ、紗音さんいつも通りみんなで屋上で食べましょう!」
「私ちょっと飲み物買ってくるから先行ってて!」
「そうですか…では、私は優くんを呼んできますね〜!!」
万里花がドアを開けて別室の優人を迎えに行こうとする。
「あ、万里花ちゃん何か飲みたいものある?ついでに買ってくるけど」
「ご好意に甘えさせていただいて…、ではミルクティーをお願いします」
「俺はコーラで!!」
「コーラとミルクティーね…。それじゃ買ってくるね!」
ピッ、…ガゴッ。
(はぁ…、木村君には聞いてなかったんだけどな〜…)
あの言葉は万里花に掛けたものであってキムの分まで買う気はなかったのだが、流れ的にこうなってしまった。
「なにもキムの分まで買うことねーだろ」
背後から急に聞き覚えのある声がして少しビックリする。
「ひゃうっ!あ、あんたいるならいるって言いなさいよ!!」
(ビックリして変な声でちゃったじゃないの!もう!)
背後にいたのは小学校からの幼なじみの紫藤アタル。
「いや、モニタールームからずっと一緒にいたんだけど…」
「え…、ストーカー…」
「違ーよ、俺も飲み物買いに来たの!!」
「ずっと後ろからついてくるんだから、変わりないでしょ!」
(一緒に買いに行きたいなら行きたいって言いなさいよね!)
アタルは、紗音に言い返せずにタジタジしている。
まったく、アタルには男らしさが足りないんだから。
さっきの試合だって私が助けに行かなかったら倒されてたじゃない!
チャリン…。
アタルは何もかも甘すぎるのよ!
ここは私がビシッと言わなきゃ!!
閉じていた目を開きながら口を開く。
「アタル、あんたは爪が甘いのよ!…なにもかも!?」
目を開いた瞬間すぐ目の前にアタルがいた。
「え、ちょっ!ち、近っ…!」
後ずさりしようとしたが背面の自販機に邪魔され動けない。
スッ……。
アタルが自販機に手を伸ばすがその手はボタンを押していない。
ボタンを押す以外の用途とはなんだろうか?
今の状況を再度確認してみよう。
目の前には、1m圏内にアタルが接近。
背後には自販機がそびえ立ち、アタルの左手が私の顔の横にある。
(ってこれ…!!)
アタルの意図かどうかはさておき、今のこの状況に1つ当てはまるものがある。
(これって…、壁ドンじゃないの!!!!)
壁ドンだと理解した瞬間、何故か顔の温度が急上昇する。
「あの、あっアタル!?あの…、ちちち近いんだけど…。いやあの、べ別に嫌ってわけじゃないんだけど…、でもでもっ、あれだし!誰か来たら誤解されちゃうし!!ここっこ、こういうのはそのちゃんとしたシチュエーションがいいっていうか……。なんというか…」
「よっと…」
アタルが背伸びをしながらさらに近づいてくる。
紗音からしてみれば、アタルの胸が接近してきている。
(え!?ナニコレ?む、胸ドン?でもなんか違うし…。こんなの私が読んだ少女マンガにはのってなかったよぉ…)
なすすべもなく紗音はアタルのブレザーをギュッと掴む。
ピッ。
背後の自販機から、飲み物を購入する音が鳴るが今の紗音には届いていない。
ガゴッ!
最上段のボタンを、前に紗音がいて押しにくかったが背伸びする事によってアタルはお目当ての飲み物を購入した。
飲み物を取り出そうとして下を見ると自分の懐で顔を真っ赤にした紗音が上目遣いで見ている。
(あれ…、俺今なんかしたっけ?)
「あの…、紗音。ちょっといい?」
※紗音訳「なぁ、ちょっと目瞑れよ」
(え?えぇー!?これって、これってぇぇ!?ち、ちちちちチューするってこと!?)
「いや、あの…心の準備がまだっていうか…。私達はまだそこまで発展してないし……」
「ん?何が?」
(私、初めてなのに…、アタルに奪われちゃうぅぅ/////)
心では戸惑っていたが、瞼が勝手に閉じる。
(ちょっ!?何やってんのよ私!これじゃチューをせがんでるみたいじゃない!!)
「白昼堂々人前でイチャイチャしないでください」
「え?」「ひゃうっ!」
アタルが振り返ると、そこには眼鏡をかけた女子生徒がいた。
「あなたがたは恋人同士ですか?」
「いや違うけど」「だ、誰がこんな奴と!!」
紗音はブレザーを掴んでいた手を離し、アタルから離れる。
「そうですか…、では」
女子生徒はアタルに接近し?その胸に抱きついた。
「えぇ!い、いきなりどうしたの!?」
「ちょっ、何やってんのよ!早く離れなさいよっ!!!」
紗音が2人を分離させようと近づく。
「別に、2人は付き合っていないんですから関係ないですよね」
「そ、それは…」
紗音の足が止まる。
「あの、えっと…」
「緑川恋奈です。恋奈って呼んでください」
「れ、恋奈!あの、当たってるんだけど…」
「いいじゃないですか。それに、赤神さんよりも私のほうが大きいですから、しょうがないですよ」
「なっ…」
紗音が胸を押さえる。
確かに恋奈の体は、紗音よりもメリハリがしっかりしていた。
「いや、しょうがなくないし、なんでいきなり抱きついてくるの!?」
「まぁ、一目惚れというやつです。紫藤君」
「え、俺の名前…」
「圧倒的な強さを誇る黒羽君に果敢に挑み、まさに下克上を成し遂げた姿にキュンと来ちゃいました!」
恋奈がアタルをよりいっそう強く抱きしめる。
「紫藤アタル君、あなたのことが好きです」
「はぁ!?」
「な、なななななな何言ってんのよいきなり!!人前で告白するとか、ばっかじゃないの!?」
さっきまで、恋奈の行動に唖然としていた紗音の反撃が、始まる。
「何なんですかあなたは?無関係なあなたが私の恋路を邪魔しないでください」
恋奈は、静かな口調で喋っているが、その裏にはしっかりと怒りがこもっているのを感じる。
「無関係じゃないわよ!私はアタルを守るって決めたし、アタルの前で宣言したんだから!!」
(それって戦闘のことでじゃないのかよ)
今口出しするとこっちにも火の粉がかかりそうなのでそっと心の中でつぶやく。
「そこまで言うならいいでしょう…!あなたと勝負して決着をつけるしかないみたいですね」
「望むところよ!!」
話の流れ的にアタルが商品になっているのだが、この状況ではなにも言い返せない。
「それでは、赤神さん。あなたと戦えることを楽しみにしていますよ」
そう言って恋奈はその場を去っていった。




