第29話:私が守るんだから
遠距離からの攻撃を懸念してアタルはスニークでの移動をやめて森の中を進んでいた。
ピッ。
マップから敵のマーカーが2つ消える。
(倒したみたいだね)
「なんだ、お前いたのか」
(ボクはずっと君の中にいるよ。君は常にボクの監視下にあるから迂闊な行動は避けた方がいいよ)
俺のプライバシーどこいった…。
「まぁいいや…。また力を貸してくれないか?あと1人倒せば2回戦も勝ちなんだよ」
(いやだ)
「即答っ!?」
思わず立ち止まる。
「なんでだよっ!?」
(アタルは弱すぎる。もう少し強くなってもらわないと確実に死ぬよ)
「俺に何させる気でいんだよお前は…」
(ところで、そんな大声出していいの?敵、気付いてるんじゃない?)
「キムが探知した時はフィールドの端だったし大丈…」
チッ…。
頬に何かが掠めた感覚。
「ん?今何か当たって…」
頬に指を当てると、何か温かい液体に触れる。
見てみると、指は赤く染まっていた。
「なっ…!!」
危険を察知し、瞬時に茂みの中に隠れる。
(敵からの攻撃!?何処にいるんだ?)
(近くにはいないよ。狙撃手か遠距離魔法じゃない?)
(お前、俺の心の声も聴けんのかよ…)
(まぁ、心の中に住んでるようなものだから)
(マジか…)
(マジだよ。じゃあボクは寝るから頑張って………)
くそ、頼みの綱が…。
(あぁ、言い忘れたけど、ボクのマナを1回の攻撃分だけストックしてあるから大事に使いなよ)
ありがとう!心の底からありがとう!!
さて、どうすっかな〜。
相手は遠距離からの攻撃をしてくることを考えると迂闊に動かない方がいいだろう。
せめて相手の位置がわかってれば…。
「キム死ぬの早いんだよ…」
(見事にフラグ回収しやがって)
(フラグを建てたのはアタルだろ)
「うっせ、早く寝ろッ!!」
あ、やっべ。
前方の丘の上の茂みの中が一瞬光った。
マップに相手の位置が記される。
「くっそ!!」
バキッ!!
放たれた弾丸を間一髪のところで避ける。
弾は後ろの木の太い枝をも簡単にへし折った。
もし避けるのが少しでも遅れていたら…。
考えるだけで背筋がゾッとした。
だが、リスクを冒す(ミスを犯す)ことで相手の居場所と武器である狙撃銃を突き止める事に成功した。
「場所さえ判ればこっちのもんだぜ!!」
木々の間を縫うように進み、着実と距離を縮める。その間に数発撃ってきたが、木の影などを利用して凌ぐ。
木の影から丘の上を見る。
「居た…」
丘の上にバイポッド(ライフルを安定させるために使う二脚)にライフルを乗せた男子生徒の姿があった。
確か陸と呼ばれていた気がする。
ライフルの銃口が発光する。
チュイーン…。
弾丸が樹皮を掠める。
「うぉぉあぁぁいっ!!」
(っぶねェェェ!!!ちょっと顔出しただけでも命取りになんのかよ!!)
恐るべき集中力と命中精度。
もはや彼は魔道士というよりは殺し屋に近いものがあった。
もう一度覗く。
相手はマガジンを交換している真っ最中だった。
「ここだ!!」
アタルはスニークで足場を作ると一気に狙撃手との差を詰める。
「…っ!!」
パーン!
陸が発砲。
しかし、発砲するタイミングをアタルは完璧に見極め射線から身体をずらす。
シュン…。
弾丸が空気を切り裂いてアタルの横を通る。
「もらったァァァァ!!」
刀に黒いマナを纏わせる。
「はぁぁぁ!!」
太刀を右手で持ち、剣先を陸に向けながら力を溜める。
「赤神流二の型、虎旋!!」
狙撃銃目掛けて引いていた腕を捻りながら突き出す。
パーン!
技の始動と同時に陸が発砲。
螺旋回転同士が衝突。
ギィィィッ!!
金属同士の摩擦音が生じる。
「うぉぉぉぉっ!!」
ギンッ!!
黒いマナを宿した剣先が弾丸を粉砕し、そのまま銃をも破壊する。
バキッ!!
衝撃で陸は飛ばされる。
スッ…。
喉元に剣先をつける。
「終わりだ…」
…ォォッ…………。
どこからか音がする。
どこからかの攻撃かと思ったが、敵は目の前にいる1人で最後だ。
そんなことあるはずもない。
(それにしてもなんだコイツ?)
表情というか…、感情が見えてこない。
戦闘を開始する前の様子とは全く違かった。
(まるで人形みたいだ……)
……コォォォォォッ………。
「さっきから何なんだこの音は!?」
マップを見ても敵の位置は俺と重なっている。
コォォォォォッ!!
重なっている…………ッ!!
まさか!?
顔を上に向けると、そこには本体の陸がマナを溜めて巨大な魔法弾を作っていた。
「あれ、バレちゃった?でも…」
ライフルの引き金に指を掛ける。
「終わりだ…!!」
トリガーを引き、膨大なマナをレーザーとして真下に撃ち出す。
ゴォォォォォォ!!
もうサタンの黒いマナは使い切った。
アタルのシールドでは防ぎようがない。
「俺の負けか…」
敗北が見えた。
逃げても逃げきれないだろう。
アタルが諦めたその時、森の中から炎の渦が飛んできてレーザーを相殺する。
「なっ…!?」
陸が驚きの表情を見せる。
「アタルは私が守るんだから!!」
「紗音!!」
森の中からスニークで移動してきた紗音がアタルの前に現れる。
「大丈夫だよアタル。私が倒すから!!」
笑顔でそう言い残し、紗音が空中の狙撃手目掛けて飛んでゆく。
「くそッ!!」
パーン!
すぐさま紗音に向けて発砲。
「無駄よ!」
ボゥ!
紗音の周りの炎が盾となり弾丸を焼き消す。
「う、うわぁぁぁ!!」
パーン!…スチャ、パーン!
連続で弾丸を放つが全て炎に防がれる。
「くっそ!!」
カチャカチャ……。
「な、しまった!!」
あんなに暴発したせいで既にマガジンは空になっていた。
「赤神火焔流三の型!!」
剣に炎を込めて振りかぶる。
「緋炎爪!!」
真紅の飛ぶ斬撃が陸を真っ二つにする。
『仮想戦闘体損傷、致命傷により行動不能。イジェクトします』
陸の身体が光の粒子となり消滅。
『2回戦を終了します。お疲れ様でした』
戦いに終止符を打つアナウンスが鳴り目の前が暗くなる。




