第20話:勝利
身体が軽い…。
今なら何でもできそうだ…。
アタルの中の不必要な感情が消えてゆく。
残ったのはサタンの原動力である怒りと、大切な物を守り抜くという決意。
360°、全方位からのナイフによる攻撃が近付いてくる。
「アタル!危ない!」
紗音が叫ぶ。
ドォォン!!
爆音が轟く。
アタルの周囲は黒い煙に覆われていてその存在を確認できない。
「やったか?」
「そんな…」
彰が振り向いて紗音に近づいて行く。
「この戦いも、もう幕を下ろす時が来たようだね」
紗音は逃げようともせず、ただただ座っている。
「逃げないなんて潔がいいね。それも武士道ってやつなの?」
「……」
紗音は何も語ろうともしない。
「はぁ…、もういいや。バイバイ」
ナイフにマナを込める。
それでも紗音は逃げようとしない。
右手を引き、紗音に向けて投擲…。
する前に右手に強い衝撃。
地面に組み敷かれる。
「紗音に、手を出すな…」
「アタル…」
自分の上から、倒したはずのアタルの声がする。
「あれを耐えれるわけないでしょ、成績優秀者でもない君が!」
地面にワームホールを生成。
アタルから距離をとる。
「どうしたの?その目」
アタルの目は、紅く輝いていた。
「まるで魔族だ」
「黙れ、そんなことは関係ないだろ」
アタルの声は怒りで震えている。
「それもそうだね…」
『残り時間、1分』
次の攻防で全てが決まる。
そこでアタルを仕留められなければ、時間的に2人を倒すのは不可能に近い。
逆に、アタル達からしてみれば、ここで防ぎ切れば勝利が見えてくる。
その場を静寂が包む。
ダッ!!
アタルと彰、双方が互いに接近。
「はぁぁぁ!!」
片手で太刀を持ち、マナを込める。
普段のマナとは異なり、黒い色をしたマナが刃に纏わり付く。
彰が攻撃範囲内に入ってきた瞬間、前方に捻りながら突き出す。
「《虎旋》!」
螺旋回転の太刀が大気を掻き分けて突き進む。
「食らうかァァ!」
ワームホールを左手と右手でそれぞれ造る。
左手ワームホールでアタルの突きを呑み込み、右手のワームホールから出してアタルにカウンターを決めるつもりだろう。
「アタルッ!ダメェェェ!」
しかしアタルは止まらない。
彰は勝利を確信した。
アタルの突きがワームホールと接触。
グサッ…。
深々と突き刺さる。
「なんで…、僕が…?」
彰が崩れ落ちる。
その胸部には、アタルの太刀が突き刺さっていた。
『仮想戦闘体損傷、致命傷により行動不能、イジェクトします』
(そうか、あの時の黒い煙は、身を守るために張ったその黒いマナだったんだね)
アナウンスが聞こえ、彰が光り始めた。
「やられちゃった…」
アタルに向けて言葉を発する。
見ると、アタルの目の色が元に戻っていた。
「楽しかったよ、アタル君…」
「あぁ、俺もだ」
2人して笑いあう。
さっきまでの戦いが嘘のようだ。
彰が光の結晶となり散ってゆく。
「勝ったんだよね…」
紗音がアタルに問い掛ける。
「あぁ、俺達の勝ちだ!」




