第18話:次席の意地
「なんだ、これ…?」
目の前は、ただただ暗闇が広がっていた。
さっきの状況から察するに、俺はワームホールの壁で覆われている。
薄暗くてよくわからないがさっきの魔法陣の大きさからしてそこまで規模は大きくないはずだ。
しかしさっきから移動してみるものの一向にこの空間の端に到達出来ていない。
「どうなってんだよ、この空間は…」
まるで自分だけ異次元に閉じ込められたみたいだ。
それにさっきから呼吸が苦しい。
空間内の酸素が減ってきているのだろう。
「ちょっとやばいな…」
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キィィン!!
紗音が彰のナイフによる斬撃を太刀で受ける。
「残念だけど、もう1本あるから」
そう言い、懐から左手でナイフを取り出す。
紗音は日本刀を両手で持ち、右手のナイフを受け切るので精一杯だ。
「フロストアロー!」
万里花が氷の矢を放ち、彰を紗音から遠ざける。
紗音が体勢を立て直し、すかさず彰に接近。
キィィン!!
今度は紗音の攻撃を彰がシールドで防ぐ。
「アタルに何をしたの…!」
「そんな怖い顔しないでよ赤神さん」
「私の質問に答えて!!」
魔道具に火炎を纏わす。
無理やりシールドを破壊。
間髪をいれずに再度攻撃。
炎を纏った斬撃が彰目掛けて飛んでゆく。
彰がナイフにマナを込めて投擲。
炎を相殺する。
「久々に楽しいから質問に答えてあげるよ」
「あの黒いのは何?アタルに何をしたの!」
「まずは僕のワームホールについてだけど、ワームホールには表と裏があるんだけど、2つのワームホールでワープさせる場合は表から表、裏から裏にしかワープできないんだ。」
「そんなことはどうでもいいからさっさと答えなさい!!」
紗音の必死さに彰がため息をつく。
「あの《次元幽閉》の壁は全部僕のワームホールで出来ていて、壁の内側は全て表側になっている。つまり、どんなに移動や攻撃をしようとしてもあそこからは出られない」
「そんな…」
「しかも、脱出しようと足掻けば足掻くほど中の酸素量が減っていって窒息死までは行かなくても楽に殺せるほど弱体化させることはできる」
「なるほどね…だったら外から壊すだけよ!!」
紗音が黒い物体に向けて炎の斬撃を何発も放つ。
しかし、一向に壊れる気配がない。
「無駄だよ、壁の外側への攻撃は全部ワープされてまともに当たらないんだから」
「だったらあなたを倒すまでです!」
万里花がスニークで足場を造り、彰に接近、《氷結矢》を放つ。
「あなた、紫藤さんを閉じ込めてから、1回もワームホールを出してないですね?」
「だからなに?」
マナを込めたナイフを投げていとも簡単に撃ち落とす。
「出さないんじゃなくて出せないんじゃないんですか?」
彰に急接近、地面に手をつき水色の魔法陣を形成。
「目の前で、そんな隙見せちゃダメでしょ♪」
万里花にナイフで斬り掛かる。
バン!
彰のナイフを炎の玉が弾く。
「ちっ!」
火の玉を放った紗音を睨む。
「邪魔はさせない!!」
魔法陣が光輝く。
「コキュートス!」
魔法陣内の空間全てを彰諸共氷結させる。
「やった…の?」
「やりました!私達の勝ちです!」
万里花がはしゃぎ出す。
本当に終わったのだろうか?
なぜ、倒したはずの彰が光になって飛散しない?
アタルを閉じ込めたこの黒い物体も同様に消えてない。
導かれる答えはただひとつ…。
氷塊の中の彰の手が光り始めた。
「万里花ちゃん、まだ終わってない!!」
「え?」
パリーン!!
内部で爆発、氷塊が砕け散る。
グサッ…。
後ろから万里花の心臓を一突き。
『仮想戦闘体損傷、致命傷により行動不能、イジェクトします』
万里花が輝き、飛散する。
「流石に今のはヒヤヒヤしたよ」
『仮想戦闘体、損壊度13%』
彰は左手を負傷していた。
万里花のコキュートスの中で左手のセロを暴発させて脱出したのだろう。
「私が、もう少し早く気づいてれば…」
「嘆くのもいいけどさ…、アタル君…もう限界でしょ」
『残り時間、3分』
アタルがあそこに囚われてから既に1分半が経過していた。
窒息してから約60〜90秒経つと、第Ⅲ期に入り、意識が消失、仮死状態に陥る。
「どうすれば…」
正直ここまでくると勝ちが全く見えない。
紗音の頭に敗北の二文字が過ぎる。
ドゴォォン!!
その思考を遮るような爆音が轟く。
爆音がした方を見ると、そこにはアタルの姿があった。
「紗音…、下がってろ!」
キッと彰を睨みつける。
「アタル…?」
「君は、どこまでも僕を楽しませてくれるね!」
「ぶち殺す!」
あんな表情のアタルは幼なじみの紗音であっても初めて見る。
(これだよ、僕が求めていた勝負は、こんなゾクゾクは初めてだ!!)
「さぁ、残り3分、楽しもうか!」




