第14話:《空間接続》
「右脚痛って〜…」
流石に200%はやり過ぎたか。
右脚に鈍い痛みが走る。
「まぁ、3人纏まってなくて助かった」
幸い、周囲には敵がいないようだし今のうちに少し休憩しよう。
「あっれ〜?もうみんな倒されちゃった〜?」
「っ!!」
急に耳元から気だるい声が聞こえてくる。
素早く身を翻し背後の敵から距離を置く。
そこには、長身に加え、まるで女性のような長髪のヒョロ男が立っていた。
前言撤回。
「お前が、このチームの親玉か?」
「う〜ん、まぁそうなっちゃうのかなぁ?」
なんだこいつ?闘争心や仲間がやられた復讐心だとかが感じられない。
俺の背後に急に現れたにも関わらず、すぐに攻撃してこなかったし。
「掴みどころがまったく無いじゃん」
やりずれー…。
『残り時間、15分』
あと15分もあんのかよ!
残り10分切ってたら逃げてたのに!
「やるしかないか!」
「僕と遊んでくれるんだね!?」
「なっ!?」
また俺の背後に音もなく!
「あぁ、遊んでやるよ!!」
「やった!君は何秒持つかな?」
「悪いけど、ご期待に添えずに終わっちまうかもな…」
そういいながら、異能、身体強化を自分に施す。
-身体強化、150%-
「すぐ終わらせてやるよ!!」
「フフッ、俄然楽しみだよ。僕の名前は、黒羽彰。君は?」
「俺は黄村将樹、キムでいいぜ!」
彰がブレザーの内側からナイフを2本取り出す。
「行くぜっ!!」
左脚で地面を蹴る。
一瞬で間合いを詰められた彰の驚きの表情が見て取れる。
「もらったァ!!」
大剣を左から右に薙ぎ払うように振る。
「驚いたよ…。そんなスピードが出せるなんて」
また背後から声がする。
しかしさっきの気だるい声とは打って変わって、感情のこもった声を発する。
くっ!!
さっきから何なんだこの異能は!?
「へぇ〜、自干渉系の異能か。さっきのスピードから推測するに、身体強化ってところかな」
彰は余裕の笑みを浮かべる。
「今度は、僕の番だね!」
両手に持っていたナイフを投げつけてくる。
「そんなのろいナイフなんて当たるかよ!」
大剣をナイフ目掛けて横に振る。
キムの大剣はナイフを弾くことなく空気を裂く。
「な、んだ…これ!?」
彰が投げたナイフは、キムの脇腹に命中していた。
「ざーんねん。ストライーク!」
(あいつ、異能を使ってナイフの軌道を変えてるのか!?)
そう言いつつも、また懐からナイフ二本を取り出す。
「もう、同じミスはしないぜ!」
(しっかりとナイフの軌道を見極めてやる!)
「第二球投げましたぁ〜!」
彰がナイフを投擲。
今度は、キムのはるか頭上を通過。
「っ!なめるなァァ!!」
(軌道を変えようが関係ねぇ!!
ナイフが刺さる前に倒す!!)
全速力で彰に接近。
「うぉぉぉ!!」
上段に振りかぶり、前方の彰に斬撃を放つ。
ガッ!!
切り裂く音よりも先に足元に敷き詰められたコンクリートへの衝突音が鳴る。
「ぐあっ!!」
右脚に鈍い痛み。
見ると、さっきキムのはるか頭上を通過したはずのナイフが刺さっていた。
「ストラーイクツー」
また背後から声がする。
「くっそ、が…!」
振り向きざまに大剣を横に振る。
またしても、攻撃は空気を裂く。
「ナイフなくなっちゃっ…、た♪」
また背後から声がする。
勢いよく振り向くと、目の前で彰がしゃがんでいた。
「えいっ!」
脇腹と右脚に刺さった計四本のナイフを一斉に引き抜く。
「ぐっ!」
『仮想戦闘体、損壊度18%』
「あれ〜?あんまり減ってないねぇ〜♪」
(くっそ、なんだよこいつ!?)
考えろ。
思考を止めるな。
考えることを辞めるということは、目の前の現実を受け入れずに、自分の限界に屈服するということ。
必ず当たるナイフ…。
いとも簡単に背後に回る異能。
「ワープ…」
「へぇ〜♪ほぼ正解だよ。僕の異能は、自然干渉系《空間接続》。離れた空間どうしをこのワームホールで繋げる能力だよ」
右手を出すとその上に黒い円形のようなぼやけた物体が現れる。
あれがワームホールだろう。
『残り時間、10分』
「それじゃ、続きやろっか」
「やなこった!お前の相手なんてしてられるかよ!」
-身体強化、200%-
「悪いけど、逃げさせてもらうわ、じゃあな!」
スニークの足場を高速で移動する。
(あいつはヤバイ、勝てる気が全くしねー!!)
一歩でも奴より遠くに、一歩でもみんなの近くに!
マップを見ると、味方もこっちに移動してきているようだ。
「あと少し…!」
もう少しで合流できる!
見えた!!
仲間が見えた瞬間の安心感、どっと疲れがこみ上げてくる。
通り過ぎないように、身体強化を解いて減速する。
「おーい、キム〜!」
「黄村くーん!」
「………」
仲間達が俺の名前を呼んでいる。
万里花ちゃんはまだ怒ってるのか、ずっと無言のままだけど。
みんなの声に応えるべく俺も大声を出す。
「おーー…」
仲間達が視界から消え、目の前が真っ暗になったと思った瞬間、目の前に立っていたのは、
「い?」
彰だった…。
そこからはあっと言う間だった。
身体強化を解除した俺の心臓を狙うことは、彰にとってあまりにも簡単だった。
「三振だよ、キム♪」
『仮想戦闘体損傷、致命傷により行動不能、イジェクトします』
そのアナウンスが聞こえたあと、謎の浮遊感。
足場のスニークが消えて、全身がワームホールに呑まれる。
何処だろうか?
高いな、空中か?
どんどん落ちていく。
ふと視界に、驚愕の表情を浮かべた仲間の三人が映り込む。
「悪ぃ、負けちまった…」
そう言い終わるとキムの身体は、アタル達の目の前で光の粒子となり空中に溶けていった。




