第12話:単騎突入
「アタル、その…ありがと」
「どういたしまして」
敵の不意打ちに対してダメージを受けずに対処できたのは運が良かった。
「早くここから移動しよう。これからまた、気を引き締めて行くぞ」
「ちょっと待ってくださいみなさん!さっき紫藤さんが敵を見つけた瞬間マップ上に青い点が現れました」
「あぁ、それなら俺も確認したぜ。多分敵のマーカーだろう」
「そんなことはわかってます!問題はマーカーが現れたタイミングです!紫藤さんが敵を確認した直後にマーカーが現れました!ですがその時点では、あんなにも接近を許してしまいました」
「どういう…意味なんだよ?」
キムはまだ理解していないようだ。
「あのね、黄村君。何らかの手段で攻撃されたときにこっちが敵を確認しないとマップに映らないってことだよ」
「もっといえば、敵のマーカーを出現させる方法が視認以外でも有効だとしたら…」
「罠にハマリに行くようなものだって言いたいのか?」
「そういうことです。このままここで敵を迎え撃つ方が賢明だと私は提案します!」
確かに青山さんの作戦も一理ある。
キムは理解しているのかどうか知らんが納得しているようだ。
「でも、俺達の居場所はさっきの戦闘で筒抜けだろ!!移動しなければ結局攻撃を受けるハメになるんじゃないか!?」
「そんなことはわかってます!!」
いきなり万里花が怒鳴る。
「あのさ、ちょっといい?」
キムは、何らかの策があるらしく挙手をする。
「なんですか…」
「俺があと三人倒せば終わるんだろ?」
こいつはいきなり何を言い出すんだ!?
「寝言は寝てから言ってください。不可能です。返り討ちにあいます!」
「大丈夫だって!今日の俺、絶好調だからさ〜」
「根拠になってないです!ってちょっと!黄村さん!?」
キムは既にスニークを発動して足場を作っていた。
「身体強化、120%…!」
薄い黄色の光がキムの全身にまとわりつく。
「そんじゃサクッと行ってくるわ〜」
そう言うとキムは砂煙を巻き上げて颯爽と姿を消した。
「まったく…、黄村さんは、状況を理解しなさ過ぎです」
万里花が呆れた表情でボソッと呟く。
「確かにキムは状況を理解してないかもな…、でも、青山さんこそキムのことをちゃんと理解してないよね」
「いったい私にあれをどう理解しろというのですか!?どう考えても無謀です!1対3ですよ!?」
「それでもキムはやってくれるよ」
「もう、知りません!」
プイっと万里花はそっぽを向く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…っとまぁ勢いよく出たものの、一向に敵の姿が見えねぇな〜」
敵の気配も感じられない。
そもそも敵は既に俺のことを発見しているのだろうか?
その思いばかりが頭の中をよぎる。
「そーいえば万里花ちゃんが視認以外の方法で敵を発見できるかもしれないって言ってたな…」
確か中学校のときに習ったっけか。
人間は五感と呼ばれる五つの感覚から得る情報によって物体を認識している。
その情報の約9割は視覚からの情報らしい。
次に多いのが聴覚、つまり音で認識をしている。
ビルが立ち並ぶこのフィールドでは、まさに視覚からの情報量は遮断されたようなものだ。
キムは空中で静止すると全身に施した身体強化の異能を解き目を閉じて、自らの本能に聴覚を研ぎ澄ますよう言い聞かせる。
-聴覚強化、200%-
瞬間、フィールド上のありとあらゆる音が脳内に流れ込んでくる。
(まったく、黄村さんは何を考えてるのかまったくわかりません!!)
(まぁまぁ、黄村君にはきっと考えがあるんだよ!…多分)
万里花ちゃんはまだ拗ねてるのか…、後で謝っとこ。
どうやら向こうは敵と遭遇してないみたいだな。
俺は索敵に集中しよう。
-識別能力強化・聴覚強化300%-
脳に響き渡る音を区別し、どんどん雑音を消していく。
(おい、あいつ目を閉じたまま動かないぜ!?)
(俺達だけでも倒せるんじゃね?撃つか!)
聴こえた…。あっちは男二人。
方角や距離、相手の動きまで手に取るようにわかる。
撃つってことは、遠距離への攻撃方法があるってことか…。
(喰らえェェ!!)
敵の一人が引き金に指を掛け、そのまま俺の頭めがけて射撃する。
弾が空気を切り裂く音がだんだん近づいてくる。
ギャイーン……。
弾丸が頭部に達する前にキムの斬撃で弾かれる。
(な、弾丸を弾きやがった!?)
「ようやく来たか…、俺の出番が!!」




