第11話:戦闘開始!
目を開けると、そこは高層ビル群が立ち並ぶ都会のど真ん中だった。既に俺以外の面々は目を覚ましていて、相手チームもその場にいた。
「こういう時でもお寝坊さんなんだから!」
「そういう所がしっかりしてないからダメなんだよ、アタルは」
「やる気がないんだったら帰って頂けますか?」
味方のはずの3人から精神攻撃を受けて俺のガラスのハートが…。
『両チームの全メンバーがログインしましたのでチームごとにランダムワープを開始します』
体が、白く発光したかと目の前が眩い光に包まれる。
「くっ!」
耐えられずに瞼を閉じる。
目を開けると辺りの風景が変わっていた。目の前にはビル群が相変わらず佇んでいるが、後方は森になっていた。
「ここは、何処だ!?」
キムが驚いた様子でそう叫んだ。
「うるせぇな〜…ってうおっ!!」
キムのリアクションを適当に流そうとした瞬間、視界の右上に正方形の物体があることに気付いた。
触ろうとしてみるが、手がすり抜ける。
「あ、あれ?なんだこれ!?」
触れようと何度も試みるが一向に触れられる気配がない。
「なぁ、紗音。この四角いのって…、おい、何笑ってんの?って、青山さんまで!?」
何がおかしいのだろうか?
紗音は、腹を抱えて笑っているし、万里花は口元を押さえてはいるものの笑っているのが丸わかりだ。
「ア、アタル…それ、マップ!」
「……ホントだ」
おそらく、ヘッドギアから送信されたデータの一部だろう。
マップをよく見ると、赤い点が4つあった。多分味方の現在地だろう。
「うぉ!なんだこいつ!?」
またキムが驚いた声を上げたので、今度はなんだ?と三人は視線を向ける。
そこには、空中に向かって大剣を振り回す哀れな男の姿があった…。
(俺もあんな感じだったのか…)
少し落ち着いたところで、再びアナウンスが流れる。
『戦闘開始、三十秒前』
「いよいよ始まるのか」
「足引っ張るなよアタル!」
「あら、私はてっきり黄村さんが足でまといなのかと?」
「なんでそうなるんだよ!?」
「ほら、ふざけるのも程々にして!そろそろ始まるよ!」
『3…、2…、1…、戦闘開始』
「よし、行くぞ!」
キムが掛け声を上げ前進しようとする。
俺の役割はサポートなので、紗音の後ろにつこうと振り向いた。
なんと敵の男子生徒が既に紗音の後ろに接近しようとしていたのだ。
「おい!!紗音、後ろ!」
俺の声を聞いた紗音が振り向くと、敵の影はもうすぐそばに近づいていた。
「私の氷壁で!」
万里花が両手を突き出し、指輪にマナを込め氷壁を創り出す。
「うそ!?速い!!」
(間に合わない!!まさか、自干渉系の異能!?)
万里花の氷壁がたどり着くよりも早く、紗音と距離を詰める。
「もらった!!」
男子生徒は右手でベルトに付いたポケットから短剣を取り出す。
首から上、一撃で仕留めることができる致命傷狙いの一撃を放つべく上段に振りかぶる。
「紗音さん危ない!!」
万里花が叫ぶが、氷壁が届く前に確実に決められる。
万事休すか…。
男子生徒は、そのまま右腕を振り下ろす。
「え?」
紗音を仕留めたはずの男子生徒から驚きの声が上がる。
よく見ると、右腕を振り下ろさずに、振りかぶったまま動かないのだ。
「紗音!」
アタルの声でビクッとなるが、すぐさま状況を理解し、敵を太刀で切り捨てる。
『仮想戦闘体損傷、致命傷により行動不能、イジェクトします。』
「なん、で……」
胴体を真っ二つにされた男子生徒は状況が飲み込めないまま光の結晶となり飛散する。
「大丈夫か!?紗音!!」
アタルが心配した様子で紗音に近づく。
「うん、大丈夫だよ。でもさっきのって…」
「あぁ、多分キムと同じ自干渉系の異能だな。ワープしてからすぐ能力を使って高速移動して来たんだろう」
「えっとそれはそうだけど…」
「アタル!お前がなんかしたのか!?」
「相手の生徒、腕を振り下ろさないというよりは振り下ろせないといった感じでした。紫藤さんがなにかしたのですか?」
三人がアタルをじっと見つめる。
「別にただシールド張っただけなんだけど」
「「「え?ただのシールド?」」」
「そんなはずはありません!普通のシールドをどう使えば相手の斬撃を放たせることなく止められるのですか!?」
「そーだそーだ!」
「どうって、振りかぶった右手の前に張っただけだけど」
「「「………。」」」
みんなポカンとしている。
俺は特訓期間中のキムと手合わせをした日、帰ろうとしたところを優人に呼び止められた。
その日から今日までの数日間、みんなとの特訓を終えてから、優人と学校内のバーチャルトレーニングルームを利用して更なる特訓を重ねていた。
その成果がこれだ。
相手の動きの軌道の始動点にシールドを張ることで、その動きを封じ隙を作る技術。
優人が体育の時間で教師相手に使った技術だ。
俺が仕組みをを説明したらみんなあっさりと納得した。




