0話。
これは、僕が子供の頃のお話。
周りを見渡せば一面の緑。
空を見上げれば広がる青。
高い建物などテレビの中の存在で、携帯電話なんて欲しいと思った事がない。
耳に聞こえるのは虫や木の囁き。
都会の人から見れば羨ましがられるかもしれないが、僕からしてみれば何の楽しみもないド田舎。
僕はこの場所が嫌いだ。
変わることのない風景、人の顔、何もかもが嫌で。
そんなある日、小学校の卒業を前に父から報告があった。
田舎を出て都会で昔からの夢だった喫茶店を開きたい、だから都会に引っ越すと。
こんな田舎から抜け出せる、そう思うとワクワクが止まらなかった。
卒業の日、式が終わり友達である二人の幼馴染に別れの挨拶をした。
寂しさなど微塵もない。
悲しさなど欠片もない。
ただ、ワクワクしていた。
父親の運転する車に乗り
周りの風景を見ながら
新しい場所へと向かう
見渡す野山の田舎からモノに溢れた街へつ移っていく。
この街に住んで4年目の夏を迎えようとしていた。夏休みを4日後に控えた学校の帰り道、俺の隣には彼女と呼ぶのかもしれない女。
彼女と言ってもたまたま田舎で住んでいた時の知り合い。名前は大道葵。
俺は曖昧であったが、彼女はしっかりと覚えていたようで、出会って二日で告白されその場の流れで付き合ってしまった。
だから好き?と聞かれたらなんて答えていいかわからない。そんな関係を3ヶ月も続けている。
しかし葵はそんな俺を試すように言った。
「太祐君はさ、私の事好きで付き合ったの?」
まさかの質問。しかし俺は迷う事無く
「わからない」
と答えた。嘘ではない。好きで付き合ったわけでないし、嫌いだっら一緒に居ないし。だから分からないと答えた。
「・・・・・・ひどい」
そう言葉を残し、葵は走って行ってしまった。
いつからだろう、何に対してもやる気が感じなくなったのは。この世界に魅力を感じなくなったのは。
田舎が嫌で抜け出せて、この都会では楽しい生活が待っているはずだったのに。
住めば都。あそこにいた時となんら変わらない生活。
なんてつまらない世界なんだろう。そんな事を思いながら、一人家路に着く。