鈴蘭と無花果
「今日から貴方は"Lisette"よ」
彼女が言った。
私は嬉しかった。
名前を貰えたから。
だけど、彼女は私を棄てた。
彼女は私を家に置いたまま、何処かへ行ってしまった。
程なくして、新しい人が家に来た。
彼は私を見て驚いていた。
「参ったな。前の人の忘れ物か?
・・・そうだ、君の名は"Cecilia"だ。此から宜しくセシール」
彼は私を自分の娘と言っていた。
何処の行くにも私を連れていってくれた。
「此からも僕と一緒に居てくれ。セシール」
彼が言った。
でもある日、彼は動かなくなった。
大勢の人が彼の入った箱を見ている。
「○○って、生きてる時にずっと人形を大事にしてたらしいわよ」
「その人形、どうするのかしら?」
「さあ、誰かが貰うんじゃない?まあ、私は嫌だけど」
周りの人達は、彼の悪口ばかり言っている。
「可愛いお人形だー」
誰かが言った。
「ママーこのお人形貰って良いー?」
「え?」
「貰ってやって下さい。そっちの方が、○○も報われると思います」
「よかったわねー□□」
「うん!じゃあ、お名前は・・・そうだ"Katharina"!」
彼女が次の私の御主人様か。
「ずーと一緒に居ようね。大事にするからね」
~~~~~
「貴方の名前は"Henry"よ」
月日が経つのが早く感じる様になった。
○○に棄てられてこの子に拾われたんだ。
でも、この娘も私を棄てるのだろう。
~~~~~
彼女は「Mary」と呼ぶし、彼は「Dorothy」と呼ぶ。
他に色々名前を呼ばれた
~~~~~
嗚呼、私はまた棄てられたのか。
でも、きっと誰かが拾ってくれる。
『小汚い人形を拾う人が居ると?』
誰?
『此は失敬。私は只の人形師です』
で、その人形師さんが何の要で?
『貴方を拾う人なんて居ると思ってんですか?』
ええ、居るはずよ。
『こんな花畑のど真中に来る人なんて居るんでしょうか?』
・・・
『お前さんが此処まで来れたのだって、運が良かっただけだろう。
お前さんにゃぁ、鈴蘭よりリリシチャやシレネの方がお似合いだ』
違う。
『何が違う?最初の御主人様の名は?お前の名前は?』
私の名前は【リゼッテ】よ。
『他には?』
【セシール】【カタリーナ】【ヘンリー】【メアリー】【ドロシー】・・・・・・・
『もう良い。で、本当の名前は?』
本当の名前・・・解らない。
『だろうな。お前さんは所詮、愛玩玩具に過ぎない』
違う!
『なにが違う?どいつも飽きたらお前さんを棄てただろう。
お前さんは何回、ずっと大事にすると言われた?
コギト・エルゴ・スムと言う詞を知っているか?
人間と人形は違う。まあ、そう言う事だ。諦めろ。
本当の名前なんてある訳無いんだ』
嘘だ。
『嘘じゃない。ま、怨むんなら、おみゃーさんの名付け親を怨む事だな』
そう言って、彼は何処かへ行ってしまった。
私は考えた。
私は、【メアリー】じゃないの?
【セシール】でも、【カタリーナ】でもない。
【リゼッテ】でさえもないの?
じゃあ、私は何?
※※※
「こんな所に有ったのか"Alice"」
『違う』
「ん?誰か居るのか?まあ、良いや。
じゃあ、行こうか"アリス"」
人形を持った少年が鈴蘭畑を出ていった。
私は、間接球体人形と、毒を持った花と餅が好きだ。
自己を形成するのに、それ以上なにも無い