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その7

「もう、よろしいですかな?」

 返事を待つことなく、乙川と鎌井が順に部屋へと戻ってきた。


「弁護士との話し合いは終わりましたかな?」


「え、ええ、まあ」


「ならば、先程の話の続きを再開しましょう。じゃあ、鎌さん。頼む」


 これに、隣の鎌井刑事が机の上に出してきた物たちは――


「これって、あなたのネクタイですな?」


『あなたの』が強調されていた。


「そ、そうですが」


「ハハハ、正直で助かります」

とは言いつつ、目は笑ってない乙川が次には


「この果物ナイフにも、見覚えありますな?」


 田部君が目を凝らして確認したのだが


「それと同じようなナイフは見たことあります」


「同じような、ねえ。几帳面な性格ですな、おたくって」


「ど、どうも」


 そんな軽く頭を下げる好青年に、相手が少々きつめの口調で


「同じ物のはずですよ、まさしく同じ!」


「そ、そうですか」


「ええ。何しろあなたの指紋が、柄の部分にクッキリと残ってますからな」


「そ、そうなんですか……」

 ここでおにぎり君、ハタと気づき


「おかしくないですか? 僕の指紋といったって」

 そして、さらに気づいてしまった。そう言えば、茶のお代わりがきていない。


「そうか、あの湯呑茶碗から僕の指紋を採取されたんですね? 案外せこい手を使うんですね、警察って」


 目一杯の皮肉を吐いたつもりだったが、乙川は至極当然とばかりに


「事をスムーズに図りたいもので、ね。何しろ、行方不明の早乙女純子さんの身柄も、大至急確保する必要がありますからな」


 そうなのだ。彼女の安否が最優先されるべきなのだ。


「わ、わかりました」


「では、こちらから細かな部分を質問させてもらいます。よろしいですな?」


「な、何なりと」


「このネクタイは、無論あなた自身のものだから良しとして」

 そう言いながら乙川は隣に置いてある果物ナイフを手にし


「もう一度伺いましょう。これはどうですかな? あなたのもの?」


「いえ、違います」


「ならば、この指紋についてお聞きしたい」


「そ、それは」


 おにぎり君、バスを待っている最中の一コマを喋り始めた。

 それを聞き終え、顔を見合わせる相手二人。少々驚いている風にも見える。それもそのはず、嘘ならばもっとマシな嘘がつけるからだ。つまり、話があまりにもしょーもなさすぎるのだ。


「グレープフルーツ、ねえ」


 この何とも言えぬ乙川の独り言に、隣から声がかかった。


「警部。どうせ口からでまかせですよ。思いつきだから、底が知れてます」


 これに、鎌井刑事をキッと睨む田部君。


「まあまあ、鎌さん」

 一旦なだめたあと、乙川警部は再度正面に視線を戻し


「他には何か思い出されることは? 先程のグレープフルーツの話くらい、つまらん事でもよろしいので」


「つまらんって。えっと……」

 おにぎりが首を横に傾け、逆三角形になった。


「そういえば彼女、バスの集合場所で誰かを捜してたような素振りで、辺りをキョロキョロと」


 これに


「フン、まだ言うか」


 こんな叩き上げの刑事の言葉に耳も貸さないおにぎり君、続けて


「それとバスの乗車口に座席位置を記した表が貼ってあるんですが、彼女はそれをジッと見ていました」


 だが、これにも鎌井刑事が


「どこまで嘘を嘘で固めれば気が済むんだ?」


 この言葉には、さすがの田部君も切れた。


「あ、あなたって、さっきから僕のことを犯人扱いしてますよね?」


「ここまで状況証拠が揃ったら、それも致し方ないな」


 ここでやはり、乙川警部が仲裁に入ってきた。


「ところで、この男に見覚えは?」


 差し出された物には、目もくれたくなかった田部君。だがそういう訳にもいかず、恐る恐る目をやると――はたして、その時の光景が鮮明によみがえってきた。


「うっ」


 思わず口に手をやった彼氏。それを見ながら乙川が


「これに関してはすでに宮城県警にパソコンより送っておりますので、バスが到着次第、運転手に確認させるつもりです」


 ようやく何とか無事に手を口から離したおにぎり君が、これまた呑気に


「ふう……でも昔の推理小説と違って、捜査も便利になったもんですね」


「確かに」

 こう言った乙川だったが、続けて


「しかしその分、犯罪の方も巧妙になってきましてね」


地名などは実在するものですが、他の設定やら人物やらはもちろん架空の代物です。ご理解されているとは思いますが、一応念のため。 by TAMAKI

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